オムロン「尖った特性を生かす」発達障害のある人を積極採用、能力発揮のために配慮も

オムロン「尖った特性を生かす」発達障害のある人を積極採用、能力発揮のために配慮も


発達障害2025
2025/01/17/ 10:30
井上有紀子
AERA

オムロンのオフィス

オムロンは障害者採用の中で発達障害者などを対象とした「ニューロダイバーシティ採用」を始めた。今後、採用サイトでも紹介ページを作る予定(写真:楠本 涼)


 働くために支障になっている発達障害の特性だが、会社側が一緒に考えて、環境や仕組みを整えることで、強みにもなる。多様な人材が活躍できるようにするには、具体的にはどうすればいいのか。AERA 2025年1月20日号より。

*  *  *

 発達障害のある人を積極的に採用する、オムロンソフトウェア(京都府)を訪ねた。オフィスの一角に、半個室がある。ベージュのパーティションで区切られた半個室だ。同社社員で発達障害のある田切寛之さん(43)は、この半個室をほぼ毎日使う。

「人の目があると、頑張りすぎて余計に集中して疲れてしまいますので」

 半個室は自分のペースで仕事ができる大切な場所だ。

 だが、この半個室は発達障害のある人の特別な場所ではない。リモート会議をする社員も日頃から使う。発達障害のある社員にも、そうではない社員にも、使いやすい仕組みとなっている。

 オムロンは1972年に日本初の福祉工場「オムロン太陽」を作ったのを皮切りに、障害者雇用に力を入れてきた。

 現在は、雇用する障害者の80%が身体障害者で、精神障害と発達障害のある人は17%、知的障害のある人は3%だ。

 これからは、精神・発達障害の採用に注力する。しかし、従来の選考は面接が中心となっている。高い能力があっても、面接でうまく表現できなければ、採用するのは難しい。オムロン障がい者雇用システムアドバイザーの宮地功さんは言う。

「発達障害がある人が、能力を生かして働けないことは社会的な課題です。製造会社としても、発達障害のある方の尖(とが)った特性が、技術の向上につながると思いました」


不得意なことを支援


 2019年からオムロングループ全体で「ニューロダイバーシティ採用」を本格的に始めた。発達障害のある人に得意なスキルで事業に貢献してもらう。チームは発達障害のある人の“でこぼこ”を理解して、不得意なことを支援する体制だ。

 採用基準も変えた。これまでは障害者雇用も含めて総合職採用だったが、ニューロダイバーシティ採用ではまず「このスキルを持つ人、この仕事をしたい人」と要件を示して募集する。いわゆる「ジョブ型雇用」的な採用だ。応募者には面接のほか、2、3週間の長期インターンシップに参加してもらい、じっくりマッチングを目指す。

たぎり・ひろゆき

たぎり・ひろゆき/オムロンソフトウェア ITスペシャリスト。1月からエクセルの商品コード申請のVBAマクロ開発を担当予定(写真:楠本 涼)


人の目が気にならない半個室

人の目が気にならない半個室。オムロンでは年に一度、合理的配慮面談を行い、当事者からの要望は当事者と調整のうえ、合理的な範囲で実施する(写真:楠本 涼)


 オムロンでは面接でほとんど話せない、自閉傾向が強い大学院生からの応募もあった。過去の採用基準であれば、採用が難しいタイプだ。だが、大学院生は、学内のプログラミングコンテストで優勝するほどのハイレベルなスキルを持っていた。まずは一度インターンシップに参加してもらったところ、大学院生はすごいスピードでプログラムを書き上げ、メンバーを驚かせた。イノベーションが起きたのだ。宮地さんは言う。

「他の社員の刺激になって、チームの生産性が上がりました。正社員になった彼が開発した技術が、まもなく新商品に搭載されます」

 職場内のコミュニケーションが心配されたが、技術者同士でのプログラミング用語を使った話は十分にできた。

 宮地さんは「不得意なことをオープンに出してくれたこともよかった」と言う。採用時には、能力を発揮するためにどのような配慮を求めるか、どう成長したいかなど、会社側から事前に質問を出しておいたところ、「聴覚過敏があるので、ノイズキャンセルのイヤホンを着けさせてほしい」などと文書で返答があり、その配慮を了承した。


誰に対しても配慮を


「ただ、特に高いスキルの人材にこだわっているわけではありません」と宮地さんは言う。

 ハイレベルな技術を持つ人を求める部署もあれば、初心者でも意欲があり成長していく人を求める部署もある。これまでにニューロダイバーシティ採用で入社したのは10人ほど。今は社内で理系ニーズが多いために理系出身者の採用が多いが、文系出身者もITで活躍している。

 冒頭の田切さんはニューロダイバーシティ採用でオムロンソフトウェアに入社した。現在はITスペシャリストとしてエクセルを使った社内ツールの作成、保守などを担当している。もともと大学院では労働研究をしていた文系。システムは専門外だったが、勉強し直した。

 コミュニケーションには大きな苦手意識はない。でも、口頭や文章で強い表現だと真に受けやすい。臨機応変な対応も苦手だ。仕事の依頼は、なるべく完成形を文章で示してもらうようにしている。

みやじ・いさお

みやじ・いさお/オムロン ダイバーシティ&インクルージョン推進課 障がい者雇用システムアドバイザー(写真:楠本 涼)


なかむら・こうじ

なかむら・こうじ/オムロンソフトウェア IT事業部 戦略基盤DX部 アプリケーショングループマネージャ(写真:楠本 涼)


 3年間共に働いてきたグループマネージャの中村孝次さんは田切さんの成長を実感する。

「田切さんの経験が増えて、ユーザーの要望を実現するためのポイントが押さえられています」

 最初は1から10まで説明を受けていた印象だったが、今はそこまで言わなくても自力でできることが増えた。

 中村さんのグループには、発達障害のある社員は田切さんを含めて3人いる。納期をプレッシャーに感じやすい社員には、少し早めに終わる計画を立てて進めるようになった。環境を改善できないか総務部に掛け合うこともある。何かあれば本社に常駐している障害者支援経験のある「専門家」が駆け付ける。

 中村さん自身も変わった。心配ごとを抱えそうな人がいれば、すぐに相談に乗るようにした。だが、個人に合わせた対応は、発達障害のある人のためだけではない。

「障害の有無にかかわらず、いろいろな性格の社員がいます。その人の特性・特徴、得意・不得意を知ったうえで、業務や依頼をするのが本来あるべき姿だと思います。障害のある社員と働くなかで、私を含むチーム全員が、誰に対しても、配慮をするのが当たり前だと学びました」

(編集部・井上有紀子)

AERA 2025年1月20日号より抜粋

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