手話で会話をする「あすらや荘」の利用者や職員=2026年6月17日午後4時50分、広島県呉市郷原町、伊東聖撮影

「ノーは絶対言わないように」 聴覚障害者の老人ホームが50周年

2026年6月27日 10時15分
伊東聖
手話で会話をする「あすらや荘」の利用者や職員=2026年6月17日午後4時50分、広島県呉市郷原町、伊東聖撮影
手話で会話をする「あすらや荘」の利用者や職員=2026年6月17日午後4時50分、広島県呉市郷原町、伊東聖撮影
 日本で初めて建てられた聴覚障害者専用の養護老人ホーム「あすらや荘」(広島県呉市郷原町)が7月1日、開設50周年を迎える。聞こえない人たちが安心して老後を送れるよう、職員らが寄り添ってきた。敷地内には、聞こえないことで差別を受けてきた歴史を物語る場所がある。

 運営するのは広島や関東、大阪で計26施設を抱える社会福祉法人「三篠(みささ)会」(広島市安佐北区)。養護老人ホームは世話する人がいないなどの理由で、自宅で生活するのが難しい高齢者が入る。記録によると、開設の経緯はこうだ。

 1969(昭和44)年に白木町(現広島市)から経営移譲された養護老人ホームに、耳が聞こえない利用者が1人いた。ろうあ団体からの要請を受けて、聞こえない利用者が8人ほどに増えたが、ほかの利用者との間でコミュニケーションが取れず、トラブルが急増した。

 法人側が聞こえない人専用の施設を造るべきだと考えていた頃、今の土地を寄付してもらうことになり、76年に開設した。全国の老人ホームから、聞こえないがためにトラブルになった人たちを引き受けてほしいという依頼が相次いだ。

 あすらや荘に長年勤務する顧問の岩崎幸雄さん(69)は「当時はひどい差別を受けた人が多かった」と振り返る。

 子どもの時から家族扱いされず、座敷牢や馬小屋に押し込められた人。戸籍のない人。多くは小学校に行かせてもらえていなかった。あすらや荘に来てからも、買い物先で「(聞こえないのが)うつるから入るな」と入店を断られたこともあった。

 あるとき、酒に溺れて暴れ、集団生活ができない利用者がいた。退所してもらうと、数カ月後に遺体で見つかった。「うちがギブアップすると、この亡くなり方になってしまう。絶対に『ノー』は言わないようにしよう」。あすらや荘の不文律になった。

 今は男性21人、女性30人が入り、平均年齢は83歳を超える。介護福祉士や調理員など職員40人が世話をしており、最初は手話ができなくてもすぐに覚えるという。

 取材の最後に岩崎さんらが、ある場所を案内してくれた。

 墓碑と納骨堂だ。亡くなっても「一族の墓に入れたくない」と遺骨すら引き取ってくれない家族がいる。そもそも入所時点で独り身の人が多い。この半世紀で、引き取り手のなかった遺骨30~40柱が納められている。

 岩崎さんは「聞こえないという一つの障害があるかもしれないが、手話という言語でコミュニケーションが取れれば、利用者は安心して生活できる。これからも聴覚障害者に特化した施設として、寄り添い、支え続けたい」と話す。

 施設名の「あすらや」は「障害のある人もない人も、心落ち着けて生活できる場所」という趣旨の仏教の言葉だという。


記事のポイント! 

日本初の聴覚障害者専用の養護老人ホーム「あすらや荘」が、開設50周年を迎えます。記事では、聞こえないことで家族や社会から差別を受け、居場所を失ってきた高齢者たちを受け入れてきた施設の歩みが紹介されています。職員が手話を覚え、利用者が安心して暮らせる環境をつくってきた姿から、聴覚障害のある人にとって、手話という言語で通じ合えることの大切さが伝わります。

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原文掲載元はこちら 

 https://www.asahi.com/articles/ASV6V45LLV6VPITB00FM.html?iref=pc_ss_date_article

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