【プロが解説】子どもの「ことば」を育てるために、親ができること

【プロが解説】子どもの「ことば」を育てるために、親ができること

他者とコミュニケーションを取ること、情報を伝え合ったりすること、学ぶことや考えることに、「ことば」は欠かせません。言語聴覚士(げんごちょうかくし)の寺田奈々さんは、お子さんのことばの獲得について相談に乗ったり、子どものことばを引き出すレッスンを行ったりしています。
前回は、絵本の読み方についてをテーマにお話してもらいましたが、今回は著書発達障害&グレーゾーン幼児のことばを引き出す遊び53(誠文堂新光社)の内容をもとに、ことばそのものの発達について詳しく解説してもらいます。(構成/金井弓子)

笑顔で両手を上げる赤ちゃんと笑顔でジャンプする赤ちゃんの写真
Photo: Adobe Stock


「文」を話せるようになるまでの道のり

周囲の人から話しかけられていることが少しずつわかるようになり、しばらくすると、赤ちゃんは「初めてのことば」をぽつぽつと話し出します。それからしばらくは、ゆるやかにことばの数が増えていきます。言えることばが50語を超えたあたりから、ことばの数の増加が急速になっていきます(※ボキャブラリー・スパート、日本語では「語い爆発」と呼びます)。

やがて、2つ以上のことばをつなげて文でお話するように。2語文や3語文のおしゃべりに至ります。「ワンワン いる」「ママ だっこ」のような2語文の時期が1年ほど続いたのちに、「ぼく おちゃ のむ」のような3語文を話せるようになっていきます。「せんせい、さようなら、みなさん、さようなら」のような、いつも馴染んでいるフレーズであれば、まるごと覚えて長い文も話せます。

「ぼくはお茶を飲みたいから、とってほしいな」のように、単語の活用形や単語同士を繋げる助詞のような文の細かなパーツが整うのは、個人差がありますがおおよそ4歳前後。少しずつ使いこなせるようになっていきます。

ことばの表出ピラミッドの画像


「しゃべれるようになってから」も言語能力は育つ

『発達障害&グレーゾーン幼児のことばを引き出す遊び53』のなかでは、小学校に上がる前の1年前後の時期のことを、「プレ学習期」と呼んでいます。この時期、日常生活の基本的なコミュニケーションがおおむね成立するようになるので、「ことばの力はある程度完成した」と思われがちです。

ですが、この時期にも身に付けたいことばの力があり、その後の、小学校での学習が始まる準備として非常に大切です。文法の面では、「あげる・もらう」の文や、「○○される・○○られる」の受け身の文、「もし、○○だったら~」のような仮定の文、「お母さんが「○○」って言ってたよ」のような間接的に引用する文など、2語文や3語文の時期よりもずっと複雑な構造の文の使いこなしが進みます。

語い表現の面では、「このあいだ」や「こんど」、「ついさっき」のような時間概念を表す表現、「栄養」や「ばい菌」のような目には見えない概念を表す語い、数や量の概念のような学習につながる語いを習得します。

また、手持ちの表現レパートリーを使って、経験した出来事を伝えたり、自分の考えを述べたり、理由を説明したりといった、まとまった情報を伝える力も付いていきます。ひらがな文字を拾い読みしたり、地図記号や交通標識のようなマーク、細かな図形や模様に興味を持つことが読み書きの準備にもなっています。


ことばの発達は一歩ずつ、焦らずお子さんに合わせて

このように、お子さんのことばの発達は、日々、一歩ずつ進んでいきます。発達には個人差があり、すべてのお子さんが一様に進むわけではありません。瞬間を切り取ればまちがいだらけだったり、発達が停滞しているように感じられることもあるかもしれません。ですが、その子なりのペースで歩んでいるので、周囲は見守ったり、さりげなく支えてあげることが大切です。

普段の生活のなかで、ことばの力を引き出すには?とよく聞かれます。ことばの発達は、生得的な能力と環境との相互作用。とはいえ、周りの大人が特別なことをなにもしなくとも、お子さんはみずからの力で身の回りにあることばのヒントをたくさん得ています。ことば育ては毎日のことなので、肩の力を抜いて取り組んでいただければと思います。


子どもに「少し難しいことば」を提供する価値

日頃のかかわりについて、強いて挙げるならば、お子さんの発達段階に合わせたかかわりが重要です。お子さんのことばの発達段階を見極める時には、まずはお子さんのしゃべっていることをよくよく観察します。それから、ことばは理解とおしゃべり(表出)に分かれます。原則、理解の発達は表出よりも先行するので、話していることばの水準よりも、理解力のほうが常に少しだけ上回っています。

つまりお子さんには、「分かっている、聞いたことあるけれど自分では使ったことのない語いや表現」がいろいろとあるということです。たとえば会話の中では、お子さんが「ワンワン いる」と言ったら、「そうだね、わんわん、犬いたね~」のように少しだけステップアップした表現でお子さんの言いたいことを言い換えたことば掛けをします。

あまり難しすぎると、子どもの知らない表現ばかりになってしまうので、「聞いたことがあるけれど使ったことはない」あくまで”少しだけ難しくする”というのがコツです。それから、否定的にではなく、あくまで肯定的、受容的にことばを掛けることも重要です。たとえば、「違うでしょ、「ワンワン」は赤ちゃんみたいなことばだから、「犬」って言いなさい!」のようにたしなめるのではなく、「そうだね、ワンワン、犬いたね~」のように、お子さんの選んだ言葉を受け止めつつ、別の表現を付け足してあげるとよいでしょう。

ことば育ては長期戦。ことばを学ぶ経験は、ポジティブに積み重なっていってほしいと思います。肩の力を抜いて、楽しみながら、お子さんのことばの発達に注目してみるきっかけになれば嬉しいです。


寺田奈々(てらだ・なな)

寺田奈々さんの写真

慶應義塾大学文学部卒
大学卒業後、2年過程の養成課程で言語聴覚士免許を取得。総合病院、耳鼻科クリニック、専門学校、区立障害者福祉センターなどに勤務。年間100症例以上のことばの相談・支援に携わる。臨床のかたわら、「おうち療育」を合言葉に「コトリドリル」シリーズを製作・販売。著書に『0~4歳 ことばをひきだす親子あそび』(小学館)『ことばを引き出す遊び53』(誠文堂新光社)『絵をみてまねっこ!いっしょにできたねおしゃべりカード』(合同出版)がある。専門は、お子さんのことばの発達全般・吃音・発音指導・読み書き学習面のサポート・大人の発音矯正。


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ハムスターのおせわをしてください。
シルヴィア・ボランド著、清水玲奈訳
定価1100円(本体1000円+税10%)ダイヤモンド社


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