服部倫

ミステリ作家・服部倫が『大阪ウェットランド』で挑む、脱マッチョのハードボイルド「今、この主人公こそがリアル」

2026.04.25 08:55
構成・取材=前島環夏、写真=北原千恵美

服部倫 

 この3月、ミステリ作家としてデビューした服部倫(はっとり・りん)。第29回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作『大阪ウェットランド』は、売れないドラマーの主人公が聴覚障害の少年を助けたことをきっかけに、半グレやヤクザとのトラブルに巻き込まれていく。さらに希少生物や開発利権の要素も絡み合い、物語は大阪中を駆け巡る、予想外の展開へ──。

 受賞時に「ハードボイルドを書きたかった」と語った服部だが、同作は既存のハードボイルドとは違い、「強いマッチョな男」を前面に押し出さない。こなれた語りと多層的なモチーフが掛け合った独自のスタイルは、どのように生まれたのか。「好きなものを全部入れた」という創作の背景から、その方法論を訊いた。

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大阪ウェットランド (文芸書・小説)


「“らしくない”ハードボイルドを書きたかった」

ーーデビュー作『大阪ウェットランド』は、売れないドラマーが聴覚障害の少年を助けたことから、裏社会、希少生物、工事利権など多様な要素がストーリーに絡み合っていきます。服部さんがこの作品で一番書きたかったことは?

服部倫(以下、服部):まず「一人称ハードボイルド」をやりたかったんです。そのうえで、一般的なハードボイルドのイメージを壊したい思いがありました。ハードボイルドというと「強くてカッコいい男の話」みたいな、マッチョなイメージがありませんか?

ーーそうですね。男くささのようなものを感じるジャンルだと思います。

服部:それを抜きたかったんです。というのは、僕自身が弱虫なので「強い男」や「男性優位」な世界に拒否感があって。だから最初に、主人公からマッチョイズムを抜いたら何が残るだろうと考えました。

ーーすると残るのは……?

服部:「やせ我慢」と「ワイズクラック(減らず口)」だろうと。主人公の椿恭志郎というキャラクターをつくるときは、この2つが根底にありました。

 あと、僕はハードボイルドはミステリのサブジャンルだと思っているので、「謎解き」の要素は必須だろうと。そういうマイルールを敷いたうえで、エンタメとして成立するかに挑戦したいと思いました。

ーーそうだったんですね。新人賞受賞時に「ハードボイルドを書きたかった」とコメントしていたので、もっと猛々しい世界が好きなのかと。

服部:すみません、そのあたりが自分でも矛盾していて……。僕は長崎出身の九州男児で、男性が主人公のハードボイルドが好きで、我ながら男目線で世の中を見ている部分があると思うんですよ。どこか、九州男児の嫌なところを引きずってるというか。

ーー嫌なところ。

服部:娘がいるんですが、彼女と接するときはつい「父親」っぽい言動をする自分がいて、それが自分でも嫌だなと思っていて。自分は弱い人間だし、マッチョイズムが苦手だ、捨てたいと思っているけれど、一方で自分の中に強く残る男性性も感じるんです。

ーーたとえばどういうところに?

服部:強がりというか、人に弱みを見せたくない、みたいな。だから自分がハードボイルドを書くときは、「男の力強さ」や「男性はか弱い女性を守るべき」という要素は抜きつつ、「やせ我慢」のように自分と共通する部分は残そうと。

 これは、マイクル・Z・リューインという、アメリカのハードボイルド作家の影響もあります。1970年代に始まった“アルバート・サムスン”という探偵シリーズがあって、これも一人称で話が進むんですが、主人公が全然マッチョでもタフでもなく、弱いんですよ。初めて読んだときに「こういうのもアリなんだ!」と驚いたのが、今作を書くうえで大きなヒントになっていますね。

 

記事のポイント! 

従来のハードボイルド像を覆し、「強さ」ではなく「弱さ」を抱えた主人公を描く点が大きな魅力です。売れないドラマーが聴覚障害の少年と関わることで物語が展開し、裏社会や環境問題など多層的なテーマが絡み合います。作者自身の経験や興味を詰め込んだリアルな人物像と、現代における等身大のヒーロー像が新鮮に描かれています。

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原文掲載元はこちら 

 https://realsound.jp/book/2026/04/post-2369395.html

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