「五感に響く」オルゴール、耳の不自由な人も触れて感じる…認知症の高齢者には「まるで音の点滴のようだ」

「五感に響く」オルゴール、耳の不自由な人も触れて感じる…認知症の高齢者には「まるで音の点滴のようだ」

2025/01/05 14:07

 私たちの世界は音楽をはじめ様々な音や声であふれ、それにより癒やしや喜びを感じることもあります。思いを込めて音色や声を響かせる人たちを紹介します。



 昨年12月中旬、宮崎県えびの市の飯野地区コミュニティセンターに優しいオルゴールの音色が響いていた。集まった10人余りの聴覚障害者が順番に箱形のオルゴールの表面を手で触れる。「音の振動が感じられた」などとうれしそうな声が次々に上がった。

体験会で振動楽器を手で触れ、オルゴールの振動を楽しむ聴覚障害者ら(昨年12月、えびの市で)
体験会で振動楽器を手で触れ、オルゴールの振動を楽しむ聴覚障害者ら(昨年12月、えびの市で)


 この日開かれていたのは聴覚障害者ら向けのオルゴールの体験会。木製オルゴールの製作・販売を手がける「バイオベル」(宮崎市神宮東)や聴覚障害者の支援者らが企画した。参加者が触れていたのはバイオベル社が開発した「振動楽器」(高さ7センチ、幅30センチ、奥行き21センチ)。分かりやすく言えば、「音を体で感じられるオルゴール」だ。

 木製の箱形の内部は空洞になっており、中に高さ数センチの小さな円柱がある。こうした構造により振動が箱の表面などに伝わり、手で触れた障害者も音を感じられる仕組みだ。バイオリンなどの弦楽器の内部に「魂柱」と呼ばれる小さな柱があることをヒントにしたもので、オルゴールの音色が豊かになる効果も狙っているという。

 補聴器をつけて生活する宮崎市の井上徳子さんは「振動を感じられ、リラックスできた」と笑顔で話した。「オルゴールの音が聞こえた」とうれしそうに話す聴覚障害者もいた。



 1990年にバイオベル社を設立した同県日南市出身の岩満国吉社長(83)は元経営コンサルタント。84年頃、ある会社から「高品質のオルゴールを探してほしい」と頼まれたのをきっかけに、オルゴールに興味を持つようになった。

振動楽器に手を置くバイオベルの岩満社長(宮崎市で)
振動楽器に手を置くバイオベルの岩満社長(宮崎市で)


 「オルゴールは生の楽器に近い響きを持つ。よい演奏を聴くと人は心地よく、元気になることもある。ならば楽器の音に近い製品を作ればいつでも聴け、いつでも心地よくなれる」

 そう思い、「五感に響く音」を出すオルゴールを目指して開発を続けてきた。シリンダーを交換することで色々な曲を楽しめるオルゴールなど、100を超える製品を生み出してきた。

 振動楽器を開発するきっかけとなったのは8年ほど前、オルゴールや楽器など様々な音色が披露される音楽会に参加した聴覚障害者から聞いた言葉だった。この障害者は様々な音色の中から「オルゴールの音は聞こえた」と話したという。

 オルゴールの音は耳の不自由な人にも届きやすいのではないか――。岩満社長はそう考え、音に加えて振動も楽しめる振動楽器の開発に着手。完成させ昨年、4万円(音が出るシリンダー除く)で販売を始めた。岩満社長は、オルゴールが出すある周波の音は脳幹などに響きやすく、それにより聴覚障害者にもオルゴールの音は聞き取りやすいのではないかと思っている。



 オルゴールの音色を認知症の人らに聴いてもらう取り組みを行う施設もある。山口県宇部市のある高齢者施設がその一つで、2018年から、レクリエーションの時間にオルゴールを流している。

 施設代表の杉山和代さんによると、オルゴールを聴いた利用者が涙をこぼしたり、歌ったりすることがあるという。杉山さんは「オルゴールを聴いて思い出がよみがえったり、一緒に歌って元気になったりする人がいる。まるで音の点滴のようだ」と話す。

 バイオベル社の岩満社長は「これからも多くの人が音楽の楽しさを知り、人生を豊かにするきっかけをつくっていきたい」と話し、今後も人を笑顔にするオルゴールの開発に取り組んでいきたいと思っている。


リンク先は讀賣新聞オンラインというサイトの記事になります。(原文:英語)
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