具現化される「アクセシビリティ=人権」。Appleの思想と、慶応SFC学生たちの実践

具現化される「アクセシビリティ=人権」。Appleの思想と、慶応SFC学生たちの実践

MASHING UP編集部
Jan 5, 2026, 6:30 PM

慶応SFCでの対話の様子。左奥から、杉山丈太郎さん、鈴木我信さん、池内風香さん、寺澤裕太さん。手前が、Appleのサラ・ハーリンガーさん。

慶応SFCでの対話の様子。左奥から、杉山丈太郎さん、鈴木我信さん、池内風香さん、寺澤裕太さん。手前が、Appleのサラ・ハーリンガーさん。
画像提供:Apple


「アクセシビリティは人権である」。Appleはこの考え方を、製品設計と企業文化の中核に据えてきた。

12月3日の国際障害者デー(IDPD)にあわせ、Appleはショートフィルム『Designed for Every Student(すべての学生のための設計)』を公開した。世界各地の障がいのある学生が、Apple製品に搭載されたアクセシビリティ機能を活用しながら学び、創作し、大学生活を送る姿を描いた作品だ。映像では、「すべての学生のために」というメッセージが明確に示されている。

この映像で示された思想は、理念として語られるだけのものではない。2025年12月、Appleでグローバルアクセシビリティ ポリシー&イニシアティブ シニアディレクターを務めるサラ・ハーリンガーさんが来日し、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)で、アクセシビリティに取り組む学生たちとの対話が行われた。


技術を「使う側」から「つくる側」へ。SFC学生の取り組み

視覚支援アプリ「ミエルサ」を紹介する杉山丈太郎さんと鈴木我信さん。 画像提供:Apple

視覚支援アプリ「ミエルサ」を紹介する杉山丈太郎さんと鈴木我信さん。
画像提供:Apple


SFCでの対話に参加した学生たちは、Apple製品のアクセシビリティ機能を日常的に活用する当事者や、その理解をもとに支援に関わる立場にある。同時に、アプリの開発を通じて、アクセシビリティを社会に実装する取り組みを進めている。

SFCの学生で、株式会社インフィニティーを起業した杉山丈太郎さんは、AI画像認識とiOSの標準アクセシビリティ機能を組み合わせた視覚支援アプリ「ミエルサ」を開発した。

視覚に障がいのある人にとって、身の回りの状況を把握することは容易ではない。ミエルサでは、画面をタップすることで、周囲の状況をAIが認識し、音声で読み上げる。

開発にあたっては、VoiceOverの使用を前提とした設計を行い、実際のユーザーから寄せられたフィードバックを反映しながら、UIの改善や機能追加を重ねてきた。現在もアップデートは継続している。

一方、視覚に障がいのある鈴木我信さんは、「ミエルサ」のユーザーであると同時に、自身でも拡大鏡アプリ「ミテルンデス」を開発した。

iPhoneのカメラを使って見えづらさを補う行為は、周囲から誤解を受けたり、摩擦を生んだりする場面もあるという。ミテルンデスでは、「撮影するためのアプリではなく、見るためのツール」であることを前提に、シャッター音や撮影データの扱いなど、日本の生活文化やプライバシーへの配慮を設計に反映させた。

学生たちにとって、アクセシビリティ機能は「特別な配慮」ではなく、学びや活動を自分の力で進めるための基盤となっている。そのため、使い手として感じた違和感や不便さを起点に、「どこが使いづらいのか」「どうすれば他の人にも使いやすくなるのか」を検討し、開発に反映している点が見て取れた。

技術と当事者をつなぐ「コミュニティ」の存在

SFC-IFC代表の寺澤裕太さん。 画像提供:Apple

SFC-IFC代表の寺澤裕太さん。
画像提供:Apple


こうした取り組みを支えているのが、SFCを拠点としたインクルーシブなコミュニティの存在だ。

学生を中心とした団体「SFC-IFC」は、真のインクルーシブな社会の創造を目指し、2023年に結成された。障がい、ジェンダー、高齢化、人間関係、居場所といったテーマを扱い、課題の発見や解決、そのプロセスを支援している。

このコミュニティには、視覚障がい、聴覚障がい、車椅子ユーザー、感覚過敏など、多様な当事者が参加している。学生から社会人まで、年齢や立場を超えたメンバーが関わり、アプリやツールの使い勝手について率直な意見を交わしてきた。

SFC-IFCの代表を務める寺澤裕太さんは、「アクセシビリティのあるプロダクトは、独りよがりでは作れない」と話す。当事者や多様な立場の人と議論を重ねることで初めて、社会に届く形になるという。「すぐに頼れる仲間がいることが重要。小さく始めても、クオリティの高い壁打ちを重ねることで、結果的に大きなインパクトにつながる」。

この点について、ハーリンガーさんも「使う人とつくる人の距離が非常に近い」と評価。Appleでは長年、当事者コミュニティからのフィードバックを製品開発に反映してきているが、当事者とアライが立場を越えて協働し、自らの状況を起点に社会を動かしていく点に強い意義を感じたと語った。


誰もが同じスタートラインに立つために

Apple グローバルアクセシビリティ ポリシー&イニシアティブ シニアディレクター、サラ・ハーリンガーさん。 画像提供:Apple

Apple グローバルアクセシビリティ ポリシー&イニシアティブ シニアディレクター、サラ・ハーリンガーさん。
画像提供:Apple


対話の中でハーリンガーさんは、Appleがアクセシビリティを「人権」と位置づける理由について説明した。

Appleには創業当初から製品を、「誰一人取り残さず、すべての人のために作る」という考え方があった。2005年にはMacに、2009年にはiOSにVoiceOverを標準搭載。

ハーリンガーさんは、「人がテクノロジーをどう使い、どう生きたいか。それが私たちの原動力だ」と語る。アクセシビリティは特定の人のための“特別な機能”ではなく、誰もが同じスタートラインに立つための前提条件だという。「使いやすさを実現することで、人が本当に自分を表現できるようにしたい」とも述べた。

また、アクセシビリティはAppleの企業文化においてコアバリューとして位置づけられており、2025年は「アクセシビリティの40周年」にあたる。ハーリンガーさんは、アクセシビリティ開発について「エンジニアにとって非常に創造性が求められる領域」だと語る。既存の方法では解決できない課題に向き合うことで、新しい発想が生まれ、その結果が製品全体の使いやすさにつながっていくという。

鈴木さんは、日常生活でApple製品をどのように活用しているかを、デモンストレーションを通じてハーリンガーさんに伝えた。 画像提供:Apple

鈴木さんは、日常生活でApple製品をどのように活用しているかを、デモンストレーションを通じてハーリンガーさんに伝えた。
画像提供:Apple


Appleがアクセシビリティを「人権」と示すことについて、学生たちは抽象的な理念ではなく、日常の体験として言葉を重ねた。

「アクセシビリティがあることで、初めて学ぶ方法を自分で選べるようになった」
配慮してもらうための仕組みではなく、学びや行動が成立するための前提条件だと感じている」

アクセシビリティの有無は、進学や研究、情報発信といった選択肢そのものに影響する。だからこそ学生たちは、技術を受け取るだけでなく、自ら改善し、他の人にも使える形で社会に広げようとしている。

国際障害者デーに公開された映像と、慶應SFCでの学生たちとの対話。両者に共通していたのは、アクセシビリティを「特別な配慮」として切り出すのではなく、学びや生活を成立させるための基本条件として捉えている点だった。

それは理念の共有にとどまらず、技術とコミュニティを通じて、学びや参加の前提そのものを見直す取り組みとして、現場から積み重ねられている。

(取材・文:Mashing Up佐藤、画像提供:Apple)


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