毎日放送
2026年3月23日(月) 13:00

「夢を諦めないでほしい」大阪のデフアカデミーの活動に密着

大阪市に「デフアカデミー」と呼ばれる施設があります。耳が聞こえない、または聞こえにくい「デフ」の子どもを応援する放課後等デイサービスで、小中学生約30人が通っています。
聴覚障がいのある子どもたちが夢をあきらめず“自分らしさを発揮できるようになってほしい”。デフアカデミーの挑戦に密着しました。
聴覚障がいがある子どもたちが通う「デフアカデミー」
学校帰りに続々と集まってくる小学生たち。宿題をしたり遊んだりと、思い思いの時間を過ごします。
通っているのは聴覚障がいがある子どもたち。聴力を補完する機器を付けていないと全く聞こえないという子どももいます。

ここは認定NPO法人が運営する放課後等デイサービス「デフアカデミー」。代表の尾中友哉さんをはじめ、言語聴覚士らが子どもの成長を支援しています。
取材した日は「特別なコトバ」を教える授業が行われていました。
言葉の意味を「実体験」通じて学習
(尾中友哉さん)「まず、『輪っか』を作ってください」
(子ども)「とりあえず丸く切ったらいいの?」
(尾中友哉さん)「任せる。『輪っか』を自分で考えて作ろう。自分の考える『輪っか』を切ろう」
紙とハサミを渡された子どもは思い思いの「輪っか」を作っていきます。
(尾中友哉さん)「次のチャレンジ。みんな、次切るのは…わかる?『くぐれる輪っか』を作る。自分がぜーんぶくぐれるように」
どうすればいいのかわからずポカンとする子どもたち。でも、切り方のコツを教わると…

(尾中友哉さん)「すごい、3人4人くぐれる。最初は小さかったけど、何回も何回も作って新しい工夫や方法がわかったら大きくなったよね。それをいう言葉がある。何やろう?『ぎ』から始まる」
(子ども)「ぎ・じゅ・つ!」
(尾中友哉さん)「大きい輪っかを作る『技術』」
「技術」という言葉の意味を実体験を通して学ばせます。
「抽象的な概念」を知る方法は「体験すること」

実体験してもらう理由は、耳が聞こえない子どもは聞こえる子どもに比べて、「愛情」や「感謝」といった抽象的な概念を掴むことが難しいからです。
(尾中友哉さん)「物の名前を覚えるとき『イス』とラベルをはったりする。そしたら目で見てわかるものはどんどん世界として理解していく。『抽象的な概念』、概念ってどこ見えるんやろうと思う。概念を見る方法は『体験すること』だと僕たちは考えている」
耳が聞こえないことを気にせずに“心から楽しめる場所”を提供
もう一つの活動の柱はキャンプやクリスマス会などの課外活動です。

聴覚障がいのある子どもたちが、耳が聞こえないことを気にせずに心から楽しめる場所をつくろうと心掛けてきました。
(尾中友哉さん)「自分の考えたことをなんのためらいもなくできたりする、遊んでいるという状態に、いつもは逆に地域や学校の中で至れないんやって。ここでは至れるんやって。そういう環境が僕らもできたらいいなと思うし、保護者のニーズにもかなうんやって思った」
アカデミー設立のきっかけ…ろう者の父親が断念した“夢”
尾中さんがデフアカデミーを設立した理由、それは自身の生い立ちにあります。
尾中さんの母・幸恵さんと父・浩治さんはどちらも、耳が聞こえません。手話で会話しながら、耳が聞こえる尾中さんや妹たち3人を育てあげました。そんな中、尾中さんは高校生のとき父の職場での姿を初めて知りました。

(尾中さんの父 浩治さん)「組み立ての仕事をする会社に入り、流れ作業の仕事をやるわけです。耳が聞こえない、名前を呼んでも聞こえない。聞こえる人の場合は、名前を呼ばれると振り向くことができるんですけど、聞こえない人の場合は気づかずに仕事をしています。すると、後ろからボルトが飛んでくるんです。わたしの背中にボルトが毎日。就職して以来ずっとそんな毎日だったんです。でもある日我慢ができなくなって、私は腹を立てて胸ぐらをつかんで怒ったんです」

(尾中友哉さん)「お父さん像が僕なりにある。なのに職場では人間扱いをされていない。違和感があった、納得できなかった。同じお父さんとは思えなかった」
父には本当は教師になりたいという夢がありました。けれど、障がいを理由にそれを断念したといいます。
耳が聞こえなくても夢を諦めないでほしい、この気持ちが尾中さんの活動の原点です。
絵を描くのが大好きな小学6年生 発表会で漫画1巻を展示することに!

小学6年の女の子・御琴さん(12)。絵を描くことが大好きです。デフアカデミーでは子どもの意向を尊重し、一緒に目標を考えていきます。
(スタッフ)「小学校を卒業するまでに頑張りたいことありますか?たとえば発表会でこんなことをやりたいと思っているとか、そういうのがあれば教えてほしい」
(御琴さん)「漫画の展示」
(スタッフ)「うん、うん。無理せずに、とりあえず1巻を完成。できたら続けていくとかでもいいし」
漫画1巻を完成させて、3月の発表会で展示することになりました。
「ひとりでやるとき以上のクオリティを出したい。そういう実感はすごく大事」

尾中さんは御琴さんの夢をかなえようと漫画の編集者さながら製本までの流れを必死でサポートします。
(尾中友哉さん)「(主人公の)ヤギさ、角が特徴やん。真ん中にいるからここ(ロゴ)が角とかぶる。角をちゃんと見てほしい?」
(御琴さん)「いやそんなに…ふつう」
2か月にわたり180ページもの大作に2人で挑みます。
(尾中友哉さん)「御琴ちゃんがひとりでやるとき以上のクオリティを今回出したいなと。そういう実感はすごく大事なんじゃないかな」
発表会で漫画を披露 「イメージどおり」の出来栄えに!
3月14日、「デフアカデミー」で発表会が開かれました。
会場に集まった保護者たちにむけて子どもたちは手話で劇をするなど、1年の学習成果を披露しました。
そして、御琴さんが2か月間必死に取り組んだ漫画の展示も…

タイトルは、「運命のヤギ 玲央」。転生したヤギが世界を救うという冒険ファンタジーです。
訪れた人が次々と手に取り、夢中になる完成度でした。

(御琴さん)「(Qこんなに立派な漫画ができると思っていた?)思っていた。イメージどおり。また作りたい。もっと感想とか貼ってくれてたらもっとやる気が出る」
(尾中友哉さん)「自分ってこういう人間で、こういうことができるっていうことの置き場がデフアカデミーだと思うんですよね。どんな環境であれば、その子たちが伸び伸びやっていけるのか。伸び伸びやっていく中に、自分らしさがこんなに強く出てくるということを、本人と保護者と、その環境にいる人たちが気づいていれば、夢だって持つし、かなえることもできるんじゃないかなと思いますね」
(2026年3月17日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『特集』より)
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