『奪い愛、真夏』シリーズ完結作に相応しいラストに 新ジャンル“タイムリープ不倫”を確立

『奪い愛、真夏』シリーズ完結作に相応しいラストに 新ジャンル“タイムリープ不倫”を確立

2025.09.13 00:35  
文=渡辺彰浩

奪い愛、真夏のワンシーン


 『奪い愛、真夏』(テレビ朝日系)の最終回(第8話)を観て、綺麗な終わり方だと感じた。未来(高橋メアリージュン)風に言ってしまえば、「3・3・4・1」=「さみしい」感情を抱いたのも事実だが、鈴木おさむが脚本を務める『奪い愛』シリーズの完結作に相応しい幕の閉じ方だと、そう思える。

『奪い愛、真夏』の画像

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 “タイムリープ不倫”という新たなジャンルを確立した『奪い愛、真夏』。真夏(松本まりか)と未来は自分が望んだ結末にするべく、タイムリープを行ってきた。全ては愛する時夢(安田顕)との時を刻むために。三子(水野美紀)が話していた「この時計、3回目を超えたら、あんたの未来そのものが削られる。代償がある」というのは、今作における最後の仕掛けだ。

元也(白濱亜嵐)が刺され亡くなってしまう

 第7話のラストで、未来が使ったタイムリープが4回目。その代償として、真夏への復讐心から咲川(かたせ梨乃)が“大切なもの”として時夢を襲撃し、それをかばった元也(白濱亜嵐)が刺され亡くなってしまう。この結末だけはダメだと、真夏は計5回目のタイムリープを初めて時夢以外に使い、元也が助かる未来を選ぶのだ。

病院生活を余儀なくされる真夏

 真夏が代償として奪われるのは、聴覚。突発性難聴から両耳が聞こえなくなり、病院生活を余儀なくされるが、時夢の手紙に記されてあった「時はあなたとしか進まない」の文面に、真夏は時夢と一緒にこれからの時間を刻んでいくことを心に決める。

真夏と未来

 最終回で印象的なのは、セリフにインサートされた「覚悟」という言葉だ。真夏は未来との地獄のラストバトルの末、「私は、私の選んだ愛と時間で生きていくの」と高らかに宣言。時計の奪い合いから起こるビンタ合戦では、「あなたのビンタで首から上が吹き飛んでも私は負けない! 奪ったほうの覚悟もナメないで!」と力強い眼差しで未来を圧倒する。もう一つは「あの子の命を救えるのは、愛なんかじゃない。覚悟よ」という三子が時夢にかける言葉。「世の中の不正解を、自分だけの正解にして」という花火(森香澄)の名セリフが示すように、不倫とは道徳的に許されない不正解の行為であることは間違いない。しかし、そこに生まれる愛にどうしても抗えなくなることもある。それを正解にするためには、相当の覚悟が必要なのだ。


 真夏は時夢と暮らし始めた海辺の田舎町で、トラックに轢かれてしまう。タイムリープでやり直し、真夏を助けるのは三子。あと2回、タイムリープできる時計を差し出されるが、真夏は「もう、戻らない」と時計を受け取ることはなかった。やり直しの効かない人生を進む、その選択も真夏の覚悟だ。大丈夫、時夢が一緒の時を刻んでくれる。

真夏と時夢

 ようやく聞こえた愛する時夢の声、それに「海野さん」ではなく念願だった「真夏」呼びに、満面の笑みで振り向く真夏=松本まりかの表情も印象的だが、ラストに黒で塗りつぶされた真夏と時夢の笑顔の絵も衝撃的だ。未来に写真を送ったのは言うまでもなく元也であり、その嫉妬心をエネルギーにして画家として作品を描きながら、今も時夢を愛していることが痛いほどに伝わってくる。

光とその子供・春

 そして、特筆すべきはラストに登場した倉科カナ演じる光とその子供・春である。2017年に放送された『奪い愛』シリーズの原点『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)のラストもまた、光と信(大谷亮平)が自分の人生に後悔したくないという思いから、海辺の田舎町で一緒に暮らす道を進んだ。その後、信は癌で亡くなるものの、光のお腹には信との子供がいた。その名前が春である。背格好から察するに、放送年から数えて8歳くらいという設定なのだろうか。「お母さん、時間は自分で作るものだよ」というセリフも見事だが、倉科カナの顔を全く映さないという贅沢な使い方にも驚きを隠せないのと同時にこれまでシリーズを観てきたファンだけが分かる絶妙な塩梅だなとも思う。

『奪い愛、真夏』は『奪い愛、冬』のセルフオマージュとも言えるポイントが数多くちりばめられている

 というのも、この『奪い愛、真夏』は『奪い愛、冬』のセルフオマージュとも言えるポイントが数多くちりばめられている。真夏と時夢が廃校のプールで熱い口付けを交わす様子を間近で目の当たりにしていた未来が叫ぶ「ずっと見てたよー!」は、『奪い愛、冬』の蘭(水野美紀)の「ここにいるよー!」を意識したものだ。ほかにも波乱のWデートやサレ妻が会社に乗り込んで不倫を暴露するという展開、そして今回の海辺の田舎町。ちなみに、『奪い愛、夏』(ABEMA)で桜(水野美紀)がソムリエとしての嗅覚を頼りにクンカクンカと鼻を鳴らす仕草は、今作で未来と真夏が継承してもいる。


 “タイムリープ”という新たな要素を取り込みながら、もう一度『奪い愛、冬』をなぞっていった『奪い愛、真夏』。筆者が鈴木おさむにインタビューした際には、もう一つ『奪い愛』としてのギミックのアイデアがあることを明かしてくれた一方で、「全うしたのかなと思ってます」という一言に、最終回を観て納得せざるを得なかった。


■配信情報

金曜ナイトドラマ『奪い愛、真夏』
TVer、TELASAにて配信中
出演:松本まりか、安田顕、高橋メアリージュン、森香澄、白濱亜嵐、石井正則、石山順征、谷原七音、水野美紀
脚本:鈴木おさむ
演出:樹下直美、上田迅
ゼネラルプロデューサー:横地郁英(テレビ朝日)
プロデューサー:川島誠史(テレビ朝日)、神通勉(MMJ)、小路美智子(MMJ)
音楽:沢田完
主題歌:安田レイ「BROKEN GLASS」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
制作:テレビ朝日、MMJ
©テレビ朝日
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/ubaiai_manatsu/
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渡辺彰浩

1988年生まれ。福島県福島市出身。リアルサウンド編集部を経て独立。荒木飛呂彦、藤井健太郎、乃木坂46など多岐にわたるインタビューを担当。映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』、福島市開催の音楽フェス『LIVE AZUMA』ではオフィシャルライターを務める。

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