2025/05/14

YouTube「デフサポちゃんねる」でも人気の、牧野友香子さん。生まれつき重度の聴覚障害を持ちながら、自身の力で道を切り開いてきた牧野さんは、現在、ご主人と2人の娘さんと共にアメリカで暮らしています。
そんな牧野さんの著書『耳が聞こえなくたって 聴力0の世界で見つけた私らしい生き方』より、今回は、耳が聞こえないママの子育てについてご紹介します。補聴器をつけていても、泣き声も、自分を呼ぶ声もほとんど聞こえない中で、牧野さんはどんな工夫をしながら育児をしているのでしょうか。

はじめに
私は、生まれた時から耳が聞こえません。補聴器をつけても、人の声はほぼ聞こえません。補聴器を外すと、飛行機の轟音(ごうおん)も聞こえるか、聞こえないかくらい。
会話は手話ではなく、「読唇」といって相手の口の動きを読み取って理解し、自分自身の発音でことばを発する「発話」なんです。
大阪で生まれ育った私は、ろう学校には行かず、幼稚園、小・中学校は地元の学校に。天王寺高校から、神戸大学に進学し、就職先は第1志望のソニー株式会社へ。趣味の合うファンキーな夫と結婚し、めでたく2人の子どもにも恵まれ……と文字で書くと順風満帆なようですが、聞こえない私の人生、そんな順調にいくわけがありません。
一番大変だったのは、長女に難病があったこと。聞こえない中での2歳差の姉妹の育児、仕事をしながらの病院通い。でも、複数回にわたる手術に入院と頑張る長女。そして、どうしても我慢の多くなる、“きょうだい児”の次女のしんどさを思うと、親として弱音を吐いてばかりはいられませんでした。
そんな中で長女が2歳、次女が0歳の時に、難聴児を持った親御さんをサポートする「株式会社デフサポ」を立ち上げ、今では子どもたちを連れて家族で渡米。アメリカで生活をしています。いろいろな意味で“規格外”の私ですが、いいこともそうでないことも含めて、おもしろく読んでいただけたらうれしいです。
『耳が聞こえなくたって 聴力0の世界で見つけた私らしい生き方』「はじめに」より一部抜粋
聞こえないママの乳児育児はぶっちゃけ大変!
「聞こえないママって育児はできるの?」とよく聞かれます。
正直、一番大変だったのは赤ちゃんのころ。夜中に泣いても聞こえないし、ほんとーーーに大変でした。
泣き声が聞こえないので、夜に赤ちゃんの横で“寝る”ということがなかなかできませんでした。かなり大きな音がしたらわかることもあるので、補聴器をつけたまま寝るようにしていたものの、補聴器をつけても赤ちゃんの泣き声は聞こえません。
そのため、当時激務だった夫が深夜遅くに仕事から帰ってくるまでは、寝ずに起きていました。夫が帰ってきてから、次のミルクの時間まで寝るというような生活。夫も、仕事から帰ってきても熟睡できず大変だったと思いますが、この時期を夫婦で乗り切ったおかげか、もともとの夫の性格か、私以上に子どもと全力で向き合ってくれて、最高の夫だなあと思っています。
寝ていても子どもの泣き声がしたら飛び起きるし、体調が悪い時に咳(せ)き込んでもすぐ起きるし、子ども目線でたくさん遊んでくれるし。そりゃあ子どもも、ママっ子じゃなくパパっ子になるわけです。
ちなみに、疲れきっていて夜起きているのがつらかった私は、授乳の時に寝落ちしてしまいそうだったので、真っ暗闇の中テレビをつけて、「プリズン・ブレイク」などさまざまな海外ドラマを見ながら、どうにか眠気を飛ばして徹夜する毎日でした。
当時は正直しんどかったし、今からあの生活をもう一度! と言われても、無理無理! もう無理! こんなに楽になったんだから! って思っちゃいます。
そして、日中も目を離すことができないので、料理中は赤ちゃんを見える範囲に寝かせながら料理をしていました。寝返りを打つ前はまだいいのですが、動き始めてからは大変で! できるだけ手のかからない料理ばかりになっていました(私1人の昼ご飯は、めんどくさいので毎日卵かけご飯か、納豆ご飯でした!)。
包丁でトントンと切っていても、しょっちゅうパッと目を向けて何をしているか見て……という感じで、耳からの情報がないって本当に大変なんだなと思うことも多々。お風呂に入る時ももちろん大変。脱衣場に赤ちゃんを置いて、浴室のドアを開けっ放しにしたまま、赤ちゃんを見ながら猛スピードでバババーッと洗って出てくるような感じで、毎日をやり過ごしていました。
里帰りもしなかったため、今思っても「よく頑張った!」と言いたいくらい大変だったのが、この赤ちゃんの時期でした。義母や母が我が家に来てくれた時は、子どもをお願いしてゆっくり湯船につかるのが当時の私の楽しみで、この日を指折り数えながら待っていたっけ。今となっては懐かしい思い出です。
緊急時の子どもの呼び声や、叫び声が聞こえない!
子どもが少し大きくなって、自分から呼びに来たり会話ができるようになったりしても、聞こえないことで困ることは意外とあります。
聞こえる皆さんの場合は、子どもの泣き声を聞いて、その理由がわかると思います。例えば、「この泣き声はやばい! なんかあった!? 見に行かなきゃ!」と慌てて行ったり、逆に「あ〜、ちょっと泣いてるだけか〜。料理終わってから行こうかな」と判断したり。前後の会話とか音も、耳で聞くことができますよね?
しかし、聞こえない私にはそういう判断ができないので、補聴器でたまに音をキャッチできたりした時は(「大声かもしれない! 叫び声かも!」と思って)料理中でも絶対に手を止めて、とにかく急いで見に行きます。
そうそう、なんか“ゴン”という振動がしたので急いで行ったら、子どもが落ちたんじゃなく、大きな物が落ちただけだった……ということもありますし、逆に、子どもがベッドからドスン! と落ちて「わーんわーん!!!」と泣いていても、気づかないで片づけや料理をしている時もありました。大きくなってからは自分で、「ママ!」とトントンして教えてくれるようになりました。
泣き声や呼び声も基本的に聞こえないので、普段からなるべく子どもが見える位置で家事をしたり、子どもから目を離さないようにしたりする癖がついています。下の子が4歳くらいになってくると、お話も上手になるし、何か問題があってもまず私のところに来てくれるようになったので本当に楽になりました。それまではいつも目が離せないし気にしていないといけなくて、とっても大変だった~。
今回紹介したのはこちら

『耳が聞こえなくたって 聴力0の世界で見つけた私らしい生き方』
牧野 友香子 著/KADOKAWA
ご購入はコチラ(Amazon)
【著者プロフィール】牧野友香子(まきの・ゆかこ)
1988年大阪生まれ。生まれつき重度の聴覚障害があり、読唇術で相手の言うことを理解する。幼稚園から高校まで一般校に通い神戸大学に進学。大学卒業後、一般採用でソニー株式会社に入社。難病を持つ第一子の出産をきっかけに株式会社デフサポを立ち上げ、全国の難聴の未就学児の教育支援や親のカウンセリング事業を行う。現在は、仕事の都合もあって、家族でアメリカに暮らしている。また、YouTube 「デフサポちゃんねる」は12万人の登録者数を誇る(2024年6月時点)。
こちらの記事もおすすめ
「耳が聞こえない」を言い訳にしない――重度の聴覚障害を持つ女性が、幼少期に親から言われていたこと
「赤ちゃんに何かあるかも」最悪の事態も覚悟したが…“耳の聞こえない私”が我が子と対面するまで
リンク先はwith classというサイトの記事になります。