子どもの舌たらずな発音は「聞き取れていない」サイン?耳鼻科医が教える“聞き取り困難症”とは

子どもの舌たらずな発音は「聞き取れていない」サイン?耳鼻科医が教える“聞き取り困難症”とは


ESSE編集部
2025/03/15

聴力に問題がないにもかかわらず、脳の特性や心因性によって話が聞き取ることができない「聞き取り困難症」、通称“LiD”。昨今はニュースやドラマ、マンガなどで取り上げられることが増えてきましたが、まだまだ一般的には広まっていない状況です。『聞いてるつもりなのに「話聞いてた?」と言われたら読む本』(飛鳥新書刊)で、LiDについての最新研究や困りごとの対策方法などを書いた、大阪公立大学の耳鼻科医・阪本浩一先生に、子どものLiDのサインについて教えてもらいました。

子どもが話を聞いてなさそうと考える女性

子どもが話を聞いてなさそう…そう思ったら(※写真はイメージです)

「うちの子、ちゃんと話を聞いているのかな?」と感じたら…

LiDの症状は、生まれつきの脳の特性に起因するため、子どもの頃から見られるそうです。しかし、症状が軽度な場合は見過ごされるケースがほとんどです。

「そもそも脳や体の機能が成長途中である子どもは『聞き取る力』が十分ではありません。そのため、気になる症状があっても、必ずしもLiDであるとは限りません。8歳~思春期の子どもの場合、心因的な影響で聞き取る力が低下する『機能性難聴(心因性難聴)』も多いです。ただ、子どもは本人が聞き取れてない自覚がないこと。

また、聴力検査で異常を示さないので、LiDの発見は遅れがちです。小学生になっても『うちの子、話、聞いているのかな?』と心配になるほど目立つ症状があれば、専門家に相談をするなど、適切な対応を始めていきましょう。子どもの発達を調べる『WISC(ウィスク)』は、言葉の理解が進んだ5歳から、児童精神科、児童相談所等で受けることができます」

ほかにも子どもの「WISC」とは別に、聴覚研究者・フィッシャーが作成した、児童(7~13歳)の様子を教師がチェックするリストもあるそうです。

「お子さんがLiDかもしれないと思う方は、こちらを調べてご確認いただくのもよいでしょう。ただしフィッシャーの作成したチェックリストは難聴のチェックも混じっているので、自己判断はせず、あくまで参考としていただくのがよいかもしれません」


小学2~3年生くらいまで舌たらずの場合は、LiDの可能性も


音をつくる器官(唇や口腔内、聴覚)の構造や動きに問題があり、うまく発音できないことを「構音障害」といいます。

「子どもは舌たらずでしゃべりますが、これは構音障害のひとつ。口の動きや聴覚が未熟だとSがTに変換されやすく『さ(SA)』→『た(TA)』になるため『さい→たい』、『ハサミ→ハタミ』などの発音になることがあります。舌足らずのような構音障害は、訓練、および成長や経験により次第に治ってくるのが一般的です。もし、小学校2~3年生になっても舌たらずの場合は、ほかの原因が考えられるかもしれません」

発音の問題が聞こえの問題にどこまで関与しているか、見極めは非常に難しいと阪本先生は話します。

「子どもに関してはLiDの可能性を含めて注意深く観察するようにしましょう」


「成長して解決したな」と思ったときほど要注意

「低学年の子どもは、自分の聞き取り能力に対して疑問をもちません。そこで、いつ頃から子どもの聞こえの自覚が芽生えるのか、小学生~中学生の幅広い年代の子とその親に、聞こえにくさについて調査をしてみました。調査の結果、子どもは学年が上がるにつれ聞こえにくさの自覚が増し、逆に親は減る、という乖離が見られました」

これは、思春期以降は子どもの自我が目覚めること、親は子と一緒の時間が減るのが理由のようです。しかし、高学年になるほど子どもが聞こえづらさを訴えても、親は子どもの聞こえについて「子どもが思い悩むほどひどいものだと自覚していなかった」と考えることもわかっています。

「子どもが聞こえにくいと訴える場合は、親は大げさだと思わず、困りごとについて具体的に話を聞くなど、子どもの声に耳を傾けてあげましょう」


授業中にウトウトしてしまうのも、LiDのせいかも

居眠りする子ども

長い授業を聞くのが苦手で居眠りしてしまう子も(※写真はイメージです)


「LiDの人は認知機能に偏りがあることが多いです。中でも注意力が弱く、またワーキングメモリや処理能力が弱い人であるほど、授業や会議で長い話を聞くのが苦手です」

話の最初の方を忘れてしまったり、集中して聞こうとすればするほど疲れてウトウトしてしまったり…。授業中につい居眠りをしてしまうのも、LiDが関係していることがあるようです。

「ただでさえLiDの方は、相手の人に迷惑をかけたり、自分が困ったりしないようにするため、話を聞き漏らさないよう、聞くことに集中しています。ところが、もともと脳の特性で、注意力や集中力の維持が難しいのも、多くのLiDの方が抱える悩みです。長い話を聞くのは骨が折れます。例えるならば、普通の人が10のエネルギーで聞けるところを30のエネルギーをかけないと、言葉を取りこぼしてしまうのです」

それでも大事な授業などは、特に集中して聞かなくてはならないと気を張ってしまうのがLiD。何気ない会話に比べると聞き逃していけないことばかりですし、本人もそれがわかっているので真剣です。

「しかし、人間の集中力はそう長くは続きません。ただでさえLiDの人は、聞くことにエネルギーを消費しているので、脳が疲れやすいのです。話を聞いている途中に強烈な眠気に襲われることがあります。結果、パソコンが熱暴走をしてシャットダウンするがごとく、急に電源が落ちたように眠りこけてしまう…そんな人も少なくないのです」


疲れずに授業についていくためにできる工夫

自分が発言者となる能動的な授業や会議ならともかく、聴覚情報だけを頼りにするのが苦手なLiDにとって、話を一方的に聞く授業や会議は苦手です。次から次へと流れるように耳に入ってくる話を理解する前に言葉が砂時計のように消えてしまったり、頭の中で音があふれてごちゃまぜになったりするのです。

「授業や会議のような大事な話を取りこぼさないためには、音声だけに頼らない工夫が必要になります。たとえば、文字起こしアプリを使うのは有効な手段です。音声だけを頼りにせず、視覚情報を加えることで、話の理解がグンと上がります。ライブで進む話を視覚でとらえるには、音声を文字に変換する文字おこしアプリが便利です」

先生のおすすめは、「YY文字起こし」「UDトーク」、「Google音声文字変換」、「こえとら」など。最近はアプリの精度も上がって誤変換が減ってきているので、学校で許可がおりれば活用してみるのも手です。


授業中は教科書に集中するという当事者も


書籍内で行ったLiDの当事者の方へのアンケートでは、授業中の対策方法として、下記のような工夫をしていることがわかりました。

「キーワードをメモしてあとから情報を再構成しています」
「大事なことはメモや黒板に書いてもらうようにお願いしています」
「授業は聞き取りより教科書で覚えるようにしています」

「お子さんの年齢や学校の状況によっては一概に“こうすべき”とはいえませんが、聞くことに集中しすぎて疲れてしまうことを避ける方法はたくさんあります。学校に相談して、なるべくいちばん前の席にしてもらう子どももいるようです」

発見しづらい子どものLiD。まずは子どもが話を聞いているか観察し、授業中に眠くなるのはどんなときなのか、聞いてみてもよいでしょう。

LiDは一生つき合い続ける症状。最新刊の『聞いてるはずなのに話聞いてた?と言われたら読む本』(飛鳥新社刊)では、阪本先生によるLiDの最新研究やLiDの原因、当事者アンケートでわかった対処法や工夫などを掲載しています。ぜひ手に取ってみてください。

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阪本浩一さん


2009年兵庫県立加古川医療センター耳鼻咽喉科部長/兵庫県立こども病院耳鼻咽喉科部長(兼務)。2016年より大阪市立大学耳鼻咽喉科に赴任、2024年より医誠会国際総合病院耳鼻咽喉科診療副院長、イヤーセンター長。大阪公立大大学大学院聴覚言語情報機能病態学寄付講座特任教授。耳鼻咽喉科でLiD/APD(聴覚情報処理障害)、吃音、小児難聴特に遺伝難聴、耳鼻科領域の遺伝性疾患、アレルギー疾患にも取り組む。


画像素材:PIXTA


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