森下suuが感銘!手話がつなぐ心と恋――漫画「ゆびさきと恋々」に重なる映画『君の声を聴かせて』の世界

森下suuが感銘!手話がつなぐ心と恋――漫画「ゆびさきと恋々」に重なる映画『君の声を聴かせて』の世界

2025/10/1 13:31
成田おり枝

映画『君の声を聴かせて』のワンシーン


いま韓国で注目を集める3人の若手俳優が集結した映画『君の声を聴かせて』が、9月26日(金)より公開となる。手話を通して心がつながっていく登場人物たちの、恋のときめきや人生の迷いをみずみずしく映しだした本作。漫画家・森下suu(原作:マキロ、作画:なちやん)がいち早く映画を鑑賞したところ、聴覚障がいのある雪と世界を旅する大学の先輩、逸臣の恋を描いた自著「ゆびさきと恋々」との重なりを感じると共に、「愛の原点回帰を目にした気がしています」と大好きな映画になったと心を込める。森下suuが、本作に愛着を感じた理由や、手話の表現を描く上で大事にしていることなど、たっぷりと語り合った。


「逸臣とヨンジュンの共通点に驚きました!」(なちやん)

【写真を見る】みずみずしいシーンが満載!手話を通して心がつながっていく人々を描く『君の声を聴かせて』

【写真を見る】みずみずしいシーンが満載!手話を通して心がつながっていく人々を描く『君の声を聴かせて』
[c] 2024 KC Ventures Co.,Ltd & PLUS M ENTERTAINMENT & MOVIEROCK Inc., All Rights Reserved


2009年に制作され、その年の国内興行収入第1位を記録した台湾映画『聴説』をリメイクした本作。大学を卒業したものの、やりたいことが見つからず、両親が営む弁当屋を手伝うはめになった就活生ヨンジュン(ホン・ギョン)。聴覚障がい者ながら水泳のオリンピック代表を目指す妹ガウル(キム・ミンジュ)を懸命に支えるヨルム(ノ・ユンソ)。弁当の配達先で出会ったヨルムに一目惚れしたヨンジュンは、大学で習った手話を通じてヨルムと心を通わせてゆく。


――まず、映画をご覧になった率直な感想を教えてください。

ヨンジュン、弁当の配達先で出会ったヨルムに一目惚れ!

ヨンジュン、弁当の配達先で出会ったヨルムに一目惚れ!
[c] 2024 KC Ventures Co.,Ltd & PLUS M ENTERTAINMENT & MOVIEROCK Inc., All Rights Reserved


なちやん「先日ドイツを訪れる機会があり、その行きの飛行機で本作を拝見していました。最初は勉強も兼ねて、どのように手話が表現されているのかなという興味から拝見したんですが、映像がとても美しく、気づいたら物語に釘付けになっていました。ヨンジュンたち、登場人物の誰もがまぶしいほどピュアで!心が洗われたようで、胸がいっぱいになりました」

マキロ「クライマックスには驚きの展開がありますが、そのすべてがお互いのやさしさで成り立っているというところが、本当にステキで。そのなかでも妹であるガウルの夢を応援し続け、自分のことを後回しにしてしまうヨルムは、本当にやさしいなと思わされるキャラクターでした。彼女の想いに何度もグッときましたし、ガウルの『ここに姉さんの人生があるの?』というセリフは姉妹の絆を感じて、胸にズキンと突き刺さりました。またヨンジュンのお父さんも、ものすごくステキでしたね。耳が聴こえても話の通じない人はいると、サラリと言えてしまう。聴者だろうと、ろう者だろうと関係なく、その人を好きになるかどうかは『人柄次第だ』と言い切れるお父さんは、大好きなキャラクターです」

なちやん「ヨルムとお母さんのシーンもよかったなあ。私は、あそこでボロ泣きしました。あのシーンは、結末を知ったうえでもう一度観たい場面です」

――たしかに彼らの周囲も温かさにあふれ、好きなキャラクターをたくさん見つけられそうな作品でもありますね。森下suu先生による「ゆびさきと恋々」の登場人物、逸臣は壁を作らずに相手と接するキャラクターです。まったく性格は違えど、本作のヨンジュンにもそういった柔らかさを感じました。

森下suuは、「ヨンジュンの姿勢にも、かわいらしさとやさしさがあふれている」と語る

森下suuは、「ヨンジュンの姿勢にも、かわいらしさとやさしさがあふれている」と語る
[c] 2024 KC Ventures Co.,Ltd & PLUS M ENTERTAINMENT & MOVIEROCK Inc., All Rights Reserved


マキロ「障がいに対する偏見もないし、とてもステキなキャラクターですよね。私は恋に落ちている男性を見るのがすごく好きなんですが、ヨンジュンを見ていてトキメキました」

なちやん「逸臣とヨンジュンで性格はまるで違うけれど、2人ともやさしくて大胆なところがある。そして彼らには、世界へと飛び出しながら手話と出会うという共通点もありました。偶然とはいえ驚きました!」

マキロ「ヨンジュンは、ヨルムに対して『君のことを知りたいんだ』という想いで一生懸命に手話を使って語りかけていきます。その表情が最高で、こちらも乙女のような気持ちになりました」

なちやん「ヨルムに語りかける時に、いつも前屈みになっているのがとてもいいですよね。ヨンジュンのあの姿勢にも、かわいらしさとやさしさがあふれていました」

マキロ「強引すぎないところも、すごくステキ!そして、身近にいてくれそうなキャラクターだよね」

なちやん「ワンチャン、会えるかも!と思わせてくれる。絶対に会えないんだけどね(笑)!」


「手話に対してもとても誠実に向き合っていることが伝わってきました」(マキロ)

――劇中における手話の表現で、印象的だったことがあれば教えてください。

キャスト陣は数ヶ月にわたって手話を特訓し、撮影に臨んだ

キャスト陣は数ヶ月にわたって手話を特訓し、撮影に臨んだ
[c] 2024 KC Ventures Co.,Ltd & PLUS M ENTERTAINMENT & MOVIEROCK Inc., All Rights Reserved


マキロ「役者さんは、この映画のために手話を覚えたということですよね…。すべてが自然に感じられて、すごかったですね。指先ってすごく感情が表れるところだと思うので、『ゆびさきと恋々』も手ではなく“ゆび”という表現を使っているんです。本作でも役者さんが指先からも感情が伝わるような演技をされていて、手話に対してもとても誠実に向き合っていることが伝わってきました」

なちやん「皆さん、バーっとおしゃべりをしているように手話をされていましたよね。なんの違和感もなく彼らの会話を感じられたので、本当にすごいなと。『ゆびさきと恋々』では逸臣がまだあまり手話を使うことができない時代もあるので、ボードや携帯のメッセージで書いた文字を見せるというシーンもあるのですが、本作では3人とも“手話ができる人”という設定なので、全編を通して会話の中心が手話になります。あそこまでできるようになるには、役者さんは相当な練習をされたのだろうなと思います」

――登場人物が手話を通して心がつながっていく姿を描く本作は、「ゆびさきと恋々」との重なりも感じられます。お2人が、手話を使った作品を紡ぎ出す上で心がけていることはどのようなことでしょうか。

キャスト陣が、キャラクターの生活や感情まで伝わるような手話を披露している

キャスト陣が、キャラクターの生活や感情まで伝わるような手話を披露している
[c] 2024 KC Ventures Co.,Ltd & PLUS M ENTERTAINMENT & MOVIEROCK Inc., All Rights Reserved


マキロ「ろう者の方に敬意を持ち、家族や友だちなどその身の回りにいる人たちも、傷つかないような表現をすること。それはとても大事にしています。そして、本作にも同じような想いを感じました。決してお涙ちょうだいの悲劇であったり、過剰に社会になにかを訴えようとするのではなく、ヨンジュンとヨルムという人を見つめている。障がいを題材にしようとしているのではなく、どこにでもある恋愛だという描き方をしている点は、私たちが大切にしていることでもあります」

なちやん「手話を使うキャラクターを描く際、私自身はキャラクターの目線をとても大事にしています。手話でやり取りをするシーンでは、相手に対してキャラクターの顔が横を向いていたり、目線が違うところを向いていたりするわけにはいきません。本作でも、目線や構図にはかなり気を遣って取り組んでいるのではないかと感じました。またアップで表情を描きたいと思っても、手元までしっかりと見せていくことになるので、構図が固定されてしまう場合もあります。本作では坂道を利用するなど、手元を見せるために構図にも工夫が込められていて、すごいなと思いました。ヨンジュンとヨルムの衣装も、手話が見やすいような色を選んでいるのではないかと思います。向き合っている相手と共に、観客にもきちんと手話を伝えたいという真摯な想いを感じました」


「観終わった後に、必ずもう一度観たくなる映画です」(マキロ)

――構図に注目した視点は、なちやん先生ならでは。とても興味深いです。他に工夫しているシーンとして、気になる場面はありましたか。

美しい世界の光が、2人の恋を包み込む

美しい世界の光が、2人の恋を包み込む
[c] 2024 KC Ventures Co.,Ltd & PLUS M ENTERTAINMENT & MOVIEROCK Inc., All Rights Reserved


なちやん「ヨルムとヨンジュン出会いのシーンは場所からもフレッシュさが感じられたり、2人の距離が離れて暗い気持ちになるような場面では、影の落ちるような場所。クライマックスは緑豊かな場所で彼らの様子を捉えるなど、ロケーションや構図が登場人物の心情にものすごくマッチしていました。それでいてどのシーンも彼らの感情を誇張するような描き方ではなく、自然の光や緑を利用しながら作り上げられているので、まるで世界がヨルムとヨンジュンを包み込んでいるようで美しいシーンばかりでした」

マキロ「そうそう!日の光など、この世界にあるものを使って2人を輝かせているのがとてもよかったなと思いました。私がそういう年齢になったからかもしれませんが、俯瞰しながらヨルムとヨンジュンの恋愛を見守っているような気持ちになりました」

なちやん「私は、彼らの“壁”になろう!と思えたよね」

――雪と逸臣の恋も、壁になった気持ちで見守っている人は多いと思います。

なちやん「壁になってくださると、すごくうれしいです!」

――どのような人にオススメしたい映画でしょうか。

姉妹の絆にも注目だ

姉妹の絆にも注目だ
[c] 2024 KC Ventures Co.,Ltd & PLUS M ENTERTAINMENT & MOVIEROCK Inc., All Rights Reserved


マキロ「ほのぼのテイストで物語が展開しつつも、軸がしっかりとある映画ですよね。姉妹や家族の絆も描かれていて、本当にすごくいい作品だなと思いました。『ここでキュンとして!』という押し付けがあるのではなく、観た人それぞれの感性に任せているところもすばらしい。お世辞抜きに、大好きな映画です。忙しくて『毎日しんどいな』と感じていたり、情報過多になっている方たちに、日常でまとわりついたいろいろなものを削ぎ落として、ぜひこの世界に没入していただきたいなと思いました。そして観終わった後に、必ずもう一度観たくなる映画です。愛の原点回帰を目にしたようで、久しぶりに心の奥底までじんわりと温まる映画を観られた気がしています」

なちやん「復讐劇やとんでもない不幸が起きたりするようなドロドロとした韓国映画も大好きですが、こういったピュアで感動的な作品も最高です。ドイツに行った時には機内で6本も映画を観たんですが、もっとも心と頭、視覚にも残ったのが本作です。そういった作品にはなかなか出会えないので、本当に観てよかったなと思いました。また日本と韓国の手話は似ているところもあり、そういった意味でも楽しめる映画でした」

プールで想いを打ち明けるシーンもグッとくる!

プールで想いを打ち明けるシーンもグッとくる!
[c] 2024 KC Ventures Co.,Ltd & PLUS M ENTERTAINMENT & MOVIEROCK Inc., All Rights Reserved


マキロ「私は日本と韓国でどれくらい同じ手話の表現があるんだろうと、メモしながら観ていたんです。“友だち”、“ありがとう”、“電話”、“助ける”など、似た表現がたくさんありました。いま手話を勉強している方が観ても、おもしろいのではないでしょうか」

なちやん「ろう者のキャラクターが登場するとなると、当事者の方のなかには警戒する人もいると思うんですが、本作は安心して観られる映画だとオススメしたいです。そして構図の勉強にもなる映画で、クリエイティブなことに携わる方にもオススメ。あまりにもステキだったので、私たちももっと頑張らないと!とクリエイティブな面でも刺激をもらいました」

マキロ「なんだか、負けていられない!という危機感すら覚えて、もっと頑張りたいなと思いました。『ゆびさきと恋々』に取り掛かる際には、聴覚障がいのある方に『これは違和感がある』『こういう描き方は嫌だ』『こういうことに困っている』などいろいろな話を聞いてから臨みましたが、私たちは実在するろう者の方を描くのではなく、自分たちのキャラクターを描かなければいけないと思っています。自分たちのキャラクターである雪という女性を描くことを、大切にしていきたいです」

取材・文/成田おり枝


リンク先はMOVIE WALKER PRESSというサイトの記事になります。


 

ブログに戻る

コメントを残す