盛岡のマツコ・デラックス あふれる人間味、酸いも甘いも歌い奏でる

盛岡のマツコ・デラックス あふれる人間味、酸いも甘いも歌い奏でる

三浦英之2025年5月22日 14時00分

悲しみや喜びを全身で表現し、歌う伊藤ともんさん=盛岡市、三浦英之撮影

悲しみや喜びを全身で表現し、歌う伊藤ともんさん=盛岡市、三浦英之撮影


 「盛岡のマツコ・デラックス」――。そう呼ばれて愛されている飲食店経営者がいる。盛岡市内丸でバー「燈門(ともん)」を営む伊藤ともんさん(59)。軽快なトークと含蓄に富んだ笑い。本職はミュージシャンだ。ゲイであることをカミングアウトし、歌とフルートで「人間」を歌う。

 「嫌だわ、そんな昔の話、やめて~」。アップライトのピアノが置かれ、窓から盛岡城の内堀跡が見える店内に、常連客らの笑い声が響く。その日の話題は「初恋の人」。伊藤さんの、ではなく、伊藤さんに、恋をした女性の話だ。

 学生時代、伊藤さんに片思いをしていた女性がある日、伊藤さんがゲイであると明らかにした上で、大阪でバーを経営していると知る。会いに行きたいが、1人では恥ずかしいからと、知人の男性を誘って一緒に会いに来る話だ。「その『知人の男』っていうのが彼なのよ。もう、すっかり私のファンになっちゃって」。大阪から来たというカウンターの客が恥ずかしそうに笑う。

バー「燈門」の店内。窓から盛岡城の内堀跡が見える=盛岡市、三浦英之撮影

バー「燈門」の店内。窓から盛岡城の内堀跡が見える=盛岡市、三浦英之撮影


 岩手県雫石町出身。盛岡の高校を卒業後、関西の大学に進学し、一度は一般企業に就職したが、ゲイであることをからかわれ、つらい日々を送った。自分のやりたいものは何か。中学から大学まで吹奏楽に夢中だったことを思い出し、渋谷や新橋、大阪でミュージシャンが演奏できる店を出した後、2018年に盛岡に戻ってきた。

 「おもしろおかしく生きてきたつもりだったけれど、色々あってね」。店ではやくざに絡まれ、最愛の父と姉が自殺。母は結婚と離婚を繰り返し、今は仙台の施設に入って年々記憶が遠のいていく。それでも、笑顔を忘れずに生き抜いてきた。

 「甘いだけでなく、酸っぱかったり苦かったりするのも、ちゃんとした『人生の味』なんだって、最近になって気づいたのよ」

 16年に発表したファーストアルバムは「赤とんぼ」。表題曲は、記憶が薄れていく母親に、髪が白くなった中高年の息子が寄り添う感動的な歌だ。これまでの経験を振り返りながら、全身で歌うその曲を聴きに、東京や大阪から客がやってくる。6月の盛岡公演は完売。5月に開かれた街角コンサートには約100人が詰めかけ、立ち見で涙ぐんでいる観客もいた。

「赤とんぼ」を歌う伊藤ともんさん=盛岡市、三浦英之撮影

「赤とんぼ」を歌う伊藤ともんさん=盛岡市、三浦英之撮影


 近年は、二戸市出身のハンドシンガー・星ゆきこさんと舞台で並ぶ。コンビ名は「レイン・ゴー・アウェー」(雨よ去れ)。星さんは聴覚障害者。床面から音を感じるため、裸足でステージに立ち、手話で歌う。

 笑いながら、伊藤さんは言う。「誰だってつらい時があるじゃない? でもさ、振り返ってみて、『いつか笑えるかもしれない』って思えるだけで、心がフッと軽くなる時があるのよ」

ハンドサインで歌う星ゆきこさん=盛岡市、三浦英之撮影

ハンドサインで歌う星ゆきこさん=盛岡市、三浦英之撮影

バー「燈門」の店内に立つ伊藤ともんさん=盛岡市、三浦英之撮影

バー「燈門」の店内に立つ伊藤ともんさん=盛岡市、三浦英之撮影

「春よ、来い」を演奏する伊藤ともんさん=盛岡市、三浦英之撮影

「春よ、来い」を演奏する伊藤ともんさん=盛岡市、三浦英之撮影


リンク先は毎日新聞というサイトの記事になります。


 

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