真の共生社会創る人材育成 筑波技術大が来春 新学部開設へ 障害者が就職目指すだけでなく一線で活躍を

真の共生社会創る人材育成 筑波技術大が来春 新学部開設へ 障害者が就職目指すだけでなく一線で活躍を

2024年7月18日 07時46分

本部機能が入る天久保キャンパスの写真
本部機能が入る天久保キャンパス。来春設置予定の新学部聴覚障害コースの校舎となる=つくば市で

 聴覚障害・視覚障害者のための唯一の国立大、筑波技術大(茨城県つくば市)が来年4月、新学部「共生社会創成学部」の開設を予定している。障害者が単に就職を目指すだけでなく、職場などで「こうありたい」と自らの意思を積極的に発信し、真の共生社会を実現するリーダーとなれる人材を育てていくという。(青木孝行)

 「一流企業に就職しても『辞めたい』と相談に来る卒業生が絶えない」。同大で約30年間、学生や卒業生の就職相談に対応してきた石原保志学長(67)=心身障害学=がそう話す。

石原保志学長の写真
新学部設置について「国の政策に関わる人材を育てたい」と語る石原保志学長=つくば市で

 その背景の一つがコミュニケーションの問題。石原学長によると、就職先の企業などからは「障害者の社員をどう一人前に育てていいのか分からない」との声がある一方、障害者自身は「何を必要としているのかを、相手に伝えられない」と悩み、退職に至るケースが多い。

 根本的な解決策として石原学長が挙げるのが、障害者が意思や権利を主張する「セルフアドボカシー(自己権利擁護)」の考え方だ。自らが意見を主張し、課題を克服、改善へとつなげる力を養うことが必要だという。その結果、上司や同僚らとの議論が深まり、第一線で力が発揮できる人材に育つことが期待できる。

 新学部では、コミュニケーションの基礎となる一般教養の他に、情報通信技術(ICT)やデジタルトランスフォーメーション(DX)などの支援技術を学び、働きやすい職場環境を自ら整える力を身に付ける。

 さらに、就職後に即戦力となれるよう、障害のある学生自らが官公庁や自治体、企業と接触し勤務経験を積むことをカリキュラムに入れている。一般的なインターンシップ(就業体験)よりも実践的な仕事への関わり方を想定しているという。

 障害者差別解消法の改正により、ことし4月から事業者にも合理的配慮が義務化された。障害者雇用促進法でも法定雇用率が引き上げられるなど、障害者の社会参加を促す法整備は進んでいる。
 ここからさらに真の共生社会の実現を前進させるため、新学部の大きな目標として、国の政策立案に関わることができる人材育成を掲げる。石原学長は「(本大学から)そうした人材を育て、政策に当事者としての意思を反映させたい」と話す。

「共生社会創成学部」を紹介するパンフレットの写真
「共生社会創成学部」を紹介するパンフレット

 同大には現在、聴覚障害者が学ぶ産業技術学部(天久保キャンパス)と、視覚障害者の保健科学部(春日キャンパス)があり、障害別に学んでいる。新学部は情報科学と障害社会学の文理融合型で、視覚障害、聴覚障害双方の学生を受け入れ、学科によっては同じ教室で学ぶという。

 新学部の設置を約10年前から温めてきたという石原学長は、新学部への進学希望者に向け「少なくとも中学、高校の進路選択では自らの意思で決めてほしい。困難な場面はどんな所でも存在する。自分が決めたのだから、他者に依存せずにやり通してほしい」とエールを送る。

 新学部の定員は聴覚障害コース5人、視覚障害コース10人の計15人を予定。定員割れの続く保健科学部の鍼灸(しんきゅう)学専攻(定員20人)は10人減とする。産業技術学部の二つの学科でも計5人減らす。文部科学省に新学部設置の認可を申請中で、8月下旬に可否が判明する。

 既にオンラインでの大学説明会が始まっている。オープンキャンパスは聴覚障害コースが8月10日に、視覚障害コースは7月26日と8月24日にそれぞれ行う。他にオンライン受験相談会や、授業見学会がある。
 問い合わせは、聴覚障害コース=電029(858)9328、9329。メールkyoumua@ad.tsukuba-tech.ac.jp。視覚障害コース=電029(858)9507、9508、9509。メールkyoumuk@ad.tsukuba-tech.ac.jp。


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