映画「私たちの話し方」のワンシーン

考え方も境遇も異なる、20代ろう者3人のリアルな胸の内を。力を入れたサウンドデザインについて

水上賢治
映画ライター
4/25(土) 11:31

映画「私たちの話し方」のワンシーン

「私たちの話し方」より


 近年のろう者の世界を舞台にした映画の代表作として挙げられる、2021年の「Coda コーダ あいのうた」と2024年の「ぼくが生きてる、ふたつの世界」。

 日本で大きな反響を得た両作品は、これまであまり語られることのなかったCODA(※Children of Deaf Adultsの略称。聴えない、もしくは聴こえにくい親の元で育った聴者の子ども)に焦点を当て、CODAという言葉とその存在を広く世の中に伝えることになった。いわばろう者の間では認識されていたが、一般社会ではそこまで認識されていなかったことに目を向け、世の中に気づきを与える形となった。

 映画「私たちの話し方」もまた同じように、わたしたちに新たな気づきを与えてくれる。

 本作がメインで描くのは、ろう者の間にグラデーションがあることだ。

 いまの社会は、ろう者の存在を、どこか画一的なイメージに当てはめていないだろうか?

 ろう者にはたとえば初めから聴こえない人もいれば、途中から聴力を失った人もいる。少し想像すれば、ろう者といってもさまざまでひとくくりになどできないことはわかる。

 でも、そこまでなかなか考えが及ばない。どこかでひとつにまとめてみてしまうところがある。

 その中で、本作には、3歳で聴力を失い、人工内耳を装用し「聴こえる人」として普通に社会生活を送ろうとするソフィー、生まれながらのろう者で自身が手話話者であることに誇りをもつジーソン、手話と口話の両方を自在に使いこなす、人工内耳装用者のアランという20代の若者が登場。

 生活環境も違えば聴力も違う、ろう者としての自身の境遇に関しても異なる意見をもつ三人は時に励まし合い、時に苦悩を分かち合い、そして時に激しくぶつかり合ってしまう。

 そんな彼らの青春群像劇を通して、本作はろう者といっても一色ではない、「聞こえない」ことに対して、さまざまな意見をもった人物がいることに改めて気づかせてくれる。

 手がけたのは映画監督のほか、俳優としても活躍、スタジオ・ジブリ作品「風立ちぬ」で主人公・堀越二郎の広東語版声優を務めたアダム・ウォン。

 ろう者を主人公にした映画を作ろうと考えたきっかけはなんだったのか?

 どのようなリサーチのもと、脚本を作り上げたのか?

 作品を通して、描こうとしたことは?

 来日したアダム・ウォン監督に訊く。全五回/第五回

アダム・ウォン監督   筆者撮影

アダム・ウォン監督   筆者撮影


サウンドデザインにはこだわりたかった

 前回(第四回はこちら)は、香港におけるろう者をめぐる環境の変化について聞いた。

 ひとつ表現手法についても聞きたい。ひじょうに手の込んだサウンドデザインをすることで、ろう者の世界を表現しようとしている。

 音を作る上でどのようなことを考えたのだろうか?

「ろう者の物語ですから、できるだけ作品に登場するろう者の聞こえ方を再現して、観客に共有してほしいと当初から考えていました。

 ですから、サウンドデザインについてははじめから力を入れようと考えていました。

 ただ、具体的にどのシーンでどのような音を入れるかはまったく決めていませんでした。

 編集を終えた段階で、決めていく形をとりました」

 

一番苦労したのはソフィーの世界

 どのような点に苦心しただろうか?

「一番苦労したのは、ソフィーです。

 彼女は人工内耳をつけているのですが、なかなかクリアな音で耳に入ってこない。

 人工内耳の不調でほとんど聞こえないときもあれば、変な雑音が混じって聞こえてくるときもある。

 これを表現するのはひじょうに難しいのですが、ソフィーの苦悩を考えると絶対に表現したいと考えました。

 ですから、ソフィーの聞こえる世界を再現するために、同じく人工内耳をつけている何人ものろう者から話を聞きました。

 その中で、意見を集約させていくとだんだんとどうサウンドデザインすればいいかが見えきたところがありました。

 たとえば、人混み、大勢の人間の話が飛び交っているところに入ってしまうと、焦点が定まらない感じで変な聴こえ方になってしまう。

 それから、音の大きさで、たとえばすぐ後ろに人がいるとか、ちょっと離れたところにいるとか、距離感がつかめるんです。でも、均一に聞こえてくるので、その距離感の区別がつきづらくなってしまうところがある。

 そのような意見をもとにトライ&エラーを何度も何度も繰り返して、ソフィーの聞こえる音の世界を構築していきました」

「私たちの話し方」より

「私たちの話し方」より

 

全ろうのジーソンのサウンドデザインについて

 また、こういう悩みもあったという。

「生まれながらのろう者である、全ろうのジーソンを、全部音を消してしまう、ミュートにしてしまうのが果たしていいのかひじょうに悩みました。

 迷った末に、ジーソンの主観になるシーンの場合、彼の抱いている気持ちや感じていること、想像していることを表す映像と音を入れることで表現するようにしました」

 

日本文化に大きな影響を受けてきました

 では、最後に日本公開を迎えての心境は?

「そうですね。

 まず、わたしは日本文化が大好きで、大きな影響を受けてきました。

 ですから、宮崎駿監督の『風立ちぬ』の香港公開版で、主人公・堀越二郎の広東語吹替を務められたのはとても光栄なことでした。

 その日本で、今度は自分の監督作品を上映できて喜ばしい限りです。

 いろいろなろう者がいること、彼らがふだんどんな日常を送り、社会の中でどんなことに困って生きているのか、知ってもらえたらうれしいです」(※本インタビュー終了)

 

記事のポイント! 

ろう者といっても一様ではなく、聴力や生い立ち、価値観の違いによって多様な世界があることを描いている点が魅力です。特に人工内耳使用者の聞こえ方や、全ろう者の感覚を再現するサウンドデザインは、当事者のリアルな体験を観客に伝える工夫として注目されます。

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気になる症状がある場合は  

聞こえに不安がある場合は、早めに耳鼻咽喉科への相談をおすすめします。 


原文掲載元はこちら 

 https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/4582ac9cf312d1874a2c0d7bfb223568cb0f5d17

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