聞こえづらくて微笑んでいませんか?難聴は「微笑みの障害」。放置すれば10年後の認知症発症リスクが倍に!医師や当事者が警鐘を

聞こえづらくて微笑んでいませんか?難聴は「微笑みの障害」。放置すれば10年後の認知症発症リスクが倍に!医師や当事者が警鐘を

2025年11月16日
オーティコン ファンミーティング2025&みみともコンサート 2025
宇都古舞

聞こえにくそうな男性のイラスト(写真:stock.adobe.com)

(写真:stock.adobe.com)


補聴器ユーザーなど難聴当事者と、補聴器や聞こえに関心がある方が「聞こえのケア」を学び交流する、「オーティコン ファンミーティング2025」が、2025年10月19日、東京・千代田区のイイノホール&カンファレンスセンターで開かれました。
ファンミーティングは聴覚障害学専門の耳鼻科医師と、難聴に悩みながらも補聴器を使用し前向きに生きる当事者が登壇しました。同日午後には「オーティコンみみともコンサート2025」も開催。
本コンサートは健聴者も難聴者もお子さんも楽しめるクラシックコンサートとして、オーティコン補聴器が2014年から毎年開催して、今年12回目を迎えるインクルーシブなコンサートです。午前中のファンミーティングを中心に、当日の様子をレポートします。 (取材・文:宇都古舞 写真提供:オーティコン補聴器 以下すべて)


難聴は「微笑みの障害」


「聞こえのケア」を学び交流する「オーティコン ファンミーティング」は、今年で2回目の開催です。このイベントには、補聴器ユーザーだけでなく、その家族や友人、補聴器の調整を行うフィッターなどの関係者が参加。抽選で選ばれた50人が出席し、難聴当事者への理解やケアについてさまざまな意見が交わされました。

専門家によるセミナーでは、東京女子医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野教授の水足邦雄さんが「聞こえづらくて微笑んでいませんか?補聴器で『微笑みの障害』を改善」という題で講演。

まず始めに、「周囲の話について行けなかったり、意味が分からなかったりしても、その場の雰囲気を壊さないよう無理に笑顔を見せているのです」と、難聴者の苦悩を代弁。難聴は「微笑みの障害」であると話しました。

登壇した東京女子医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野教授の水足邦雄さん (写真提供:オーティコン補聴器)

登壇した東京女子医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野教授の水足邦雄さん (写真提供:オーティコン補聴器)


難聴で認知症発症リスク倍増も

続けて、「難聴は認知症の発症率を上昇させることが研究で分かっている」といいます。難聴を放置すると、10年後の認知症発症リスクが倍になるという研究報告があるというのです。また、難聴があると聞き取りに労力がかかり(リスニング・エフォート)、余分な脳の力を使うので、従来は記憶などの認知に使っていた脳の力が減少し脳神経の容量にも影響が出るという「認知負荷仮説」が、難聴と認知症の関係を示唆しているとの説明がありました。

水足さんは「難聴が進むと脳全体の機能に低下が見られ、運動機能の低下、最終的には社会的な孤立につながります」と警鐘を鳴らし、「難聴を放置してはいけない」と訴えました。補聴器は認知症の進行を遅らせる一つの手段になるのです。

補聴器は残された「聴く」力を補う器械。難聴者の方が補聴器で音を大きくして聴くことには意味があり、補聴器を使う利点としては、会話の聞き取りを楽にすることができること、会話音以外の音の聞き取りができることが挙げられました。

では、補聴器をどの段階で使用すればいいのかというと、「静かな会話も“ある程度”聞こえている、軽度の難聴でも補聴器の使用を」と水足さんは勧めます。聞こえにくくなる70~80代では「補聴器なしで社会生活を送ると、認知機能の低下や社会的孤立が危惧されるようになるのです」とのこと。広く補聴器を使用して欲しいと呼びかけました。

また、日本の補聴器使用の現状について、他の先進国に比べて補聴器の使用率が15%と極端に低いといいます。また、聞こえに不便さを感じるようになってから補聴器を使うまでに平均7年もかかっているというデータもあるとのこと。
水足さんは「補聴器を早期に使用することで、脳の知識力の低下が抑えられるという研究報告も出てきています。難聴に悩んでいる方は、いち早く補聴器を使ってもらい、周囲に合わせた“作り笑い”ではなく、“本当の笑顔”で毎日を過ごして欲しい」と訴えました。

ファンミーティングの参加者

熱心に講演を聞くファンミーティングの参加者 (写真提供:オーティコン補聴器)


難聴当事者の話

続いては、補聴器ユーザーの樋田祐一さんがゲストスピーカーとして登壇。難聴当事者ならではの思いを語りました。

樋田さんが難聴と診断されたのは、32歳の時。小学校教員に転職し、それに伴う健康診断で分かりました。検査員から「真面目にやってください」といわれ、大学病院で検査をしたところ中度の難聴が分かったそうです。その時は「まさか自分が難聴者だとは思ってもみなかった」といいます。

補聴器ユーザーの樋田祐一さん

樋田祐一さん(写真提供:オーティコン補聴器)


苦悩を持つ人に寄り添えるように

自身が補聴器を使うきっかけとなったのが、樋田さんが受け持ったクラスに“場面緘黙”(大人数の場など特定の場面では話せなくなる)の子どもがいたこと。「その子が勇気を持って話そうとしてくれているのに、声が小さくて自分が聞き取れないことがとても苦しかった。ほかの先生はその子の声が聞こえていたのに」と、当時の苦悩を振り返ります。また、樋田さんの妻や子どもにもコミュニケーションで迷惑をかけられないと思い、その翌年、33歳の時に補聴器を使うように。

補聴器を使用して「〈脳が疲れない〉という実感が湧き、コミュニケーションが取りやすくなった」という樋田さん。「これまでは大勢の人との会話を避けていましたが、今は比較的楽しめるようになった」そう。また、難聴者の立場から他人に寄り添えるようにと、仕事場の小学校では声が聞こえにくい子のフォローを図り、自信がない子達の「安全基地」になれるよう心がけていたそうです。


難聴の経験を生かして

「以前は“聞こえていない自分が悪い”と思い込んでいました。しかし、補聴器を使うようになり“聞こえないです”と自信を持って言えるようになりました。そうすることで、気持ち的にも楽になりました」と、樋田さん。

現在は、高齢者の生活支援事業を営んでいます。利用者から難聴について相談されることも多く、親身になって伝えられることにもやりがいを感じているそう。「自分が難聴であることにいち早く気付き、対処した経験が今の仕事にも生かされています」と話します。

最後に難聴に悩んでいる人に向けて「補聴器をいち早く使ってほしい。フィッターさんに気軽に相談して、自分に合った補聴器を使えば、気持ちはとても楽になります」とエールを送りました。

ファンミーティングの様子

ファンミーティングの様子(写真提供:オーティコン補聴器)


水足さんが伝える「周囲のサポート」の大切さ

ファンミーティングの後に開かれた懇親会では、補聴器ユーザーやケアする立場の人たちからも水足さんへ質問が殺到していました。懇親会後に水足さんにお話を伺うと、これから補聴器を装用したいと考える人に向けてのほか、私たち周囲の健聴者ができることについても教えてくれました。

「難聴は“微笑みの障害”といわれています。耳が聞こえにくい人は、コミュニケーションが上手く行かないと無理に作り笑いをする。そうするうちに、自然と疎外感を感じるようになるのです。

また、どの方向から声が飛んでくるかでも、聞こえは変わります。例えば、お母さんが台所で洗い物をしているところに後ろから声をかけたとします。雑音もありますから、とても厳しい状況です。こんなとき、肩を軽く叩いて、顔をお互い見合った状態で話せば、同じ大きさの声でも聞き取りやすくなる。周囲の人の工夫でもコミュニケーションは変わります。

実は、難聴者はうつ病につながりやすいことが研究で分かっています。特に男性にその傾向が見られ、退職後に社会との接点が急激に減ってしまうということも関係しているのではないかと推測します。

高齢者に多いというイメージを持たれる方がいらっしゃると思いますが、実は難聴を発症するのに、年齢は関係ありません。難聴に気付いたらいち早く補聴器の使用を検討してください。聴力はその間も徐々に失われていき、失われたものを取り戻すのは難しいのです」

取材に応える水足さん(写真提供:オーティコン補聴器)

取材に応える水足さん(写真提供:オーティコン補聴器)


補聴器フィッターへ気軽に相談を

続けて、補聴器の使用を迷っている人へのアドバイスも。

「補聴器は金額も比較的かかるので、“自分に合った補聴器じゃなかったらどうしよう”と購入するのをためらう人も多いと思います。しかし、一度購入すれば、販売店のフィッターに調整してもらうのは無料です。つまり、金額には「購入後のメンテナンス代」も含まれているのです。

販売店には認定補聴器技能者もいますし、気軽に相談に乗ってくれます。長期間使えるという点を踏まえると、決して高いものではありません。遠慮せずに何度も調整してもらえるので、たんすの肥やしには決してなりませんよ」

水足さんが、広報委員を務める、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は耳鼻咽喉科専門医の育成と、学問・研究の推進および新しい診断・治療法の確立に努めており、国民の健康と医療の将来に貢献しています。

耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のホームページでは、難聴啓発プロジェクト(https://owned.jibika.or.jp/portal)を通じて、難聴にかかわる情報を発信しています。補聴器診療が可能な耳鼻科医師の補聴器相談医のリスト(https://www.orlsj.jp/consulting_doctor/)も公開しています。サポートを受けられる環境が整っているので、聞こえづらさを感じたら安心して補聴器相談医に相談してほしいといいます。


周囲の心づかいも大切

最後に、周囲の健聴者ができることについて教えていただきました。

「相手が補聴器をしているからといって、健聴者のように聞こえているわけではありません。例えば、足腰がとても弱っている高齢者に100万円の杖をプレゼントしたとして、若者同様にしゃきっと歩けるようになることはないですよね。補聴器もそれと同じなのです。

だからこそ、周囲の人の気配りも大切なのです。“今からあなたに話しかけますよ”“あなたの話に耳を傾けますよ”というサインを積極的に送ってあげてください。社会全体でサポートしようとする姿勢があれば、難聴者ももっと生きやすくなるはずです」

ファンミーティングの途中で、参加者らは「みみともコンサート」の会場へ移動。コンサートが始まる前のバックステージを見学することができます。会場では演奏者とともに記念撮影も。その後、昼食を兼ねた懇親会が行われ、本日の登壇者である、水足さんや、樋田さんをはじめ参加者同士での交流を深めていました。

みみともコンサート2025の演奏者との記念撮影

みみともコンサート2025の演奏者(ゲーデ弦楽四重奏団)との記念撮影(写真提供:オー ティコ)

難聴疑似体験VRコーナー

会場内には難聴疑似体験VRコーナーも(写真提供:オーティコン補聴器)


みみともコンサート

午後からはコンサートが開催されました。

コンサート冒頭、オーティコン補聴器プレジデントの齋藤徹氏が以下のように挨拶をしました。

「昨今の補聴器技術の進歩により、補聴器は見た目も性能も目覚ましく進化しています。以前コンサート会場などで起こりやすかったハウリングも、ハウリング抑制システムなどにより発生しにくくなっています。しかしながら、こういった技術をうまく活用されていない場合、ハウリングが発生することもあるため、コンサート会場ではハウリングへの配慮に関するアナウンスを入れていることが多いようです。

この注意喚起が〈他の人の迷惑になるかもしれない〉と補聴器ユーザーに過度なプレッシャーを与えてしまい、コンサート会場から足が遠のく方も一定数いらっしゃるようです。本コンサートでは、音のバリアだけでなく、心のバリアである〈気遣いする気持ち〉も取り除けるように、一般的なハウリングの注意喚起をしていません。
 
もし、途中でハウリングされている方がいらっしゃったら、周囲の皆さんは温かく見守りながら、そっと優しく教えてあげてください。当コンサートを通じて、健聴者の皆様には 聞こえや難聴、補聴器についても理解を深めていただけたら大変嬉しいです。

本日の演奏者〈ゲーデ弦楽四重奏団〉は2011年10月に創立されました。東日本大震災直後、ウィーン・フィルをはじめほとんどの海外の演奏家達が日本公演を中止する中で、敢えて日本の皆さんを勇気づけようとダニエル・ゲーデさんが実の弟であるセバスティアン・ゲーデさん、幼馴染である名手ステファン・フーヴァーさん、マティアス・シェスルさんと共に創立。その素晴らしい演奏は〈スーパー・カルテット〉として圧倒的な評価を獲得されています。本日の演奏も大変楽しみです」

また、このコンサートでは、演者の会話を要約してモニターに字幕表示する要約筆記や、ヒアリングループなど、難聴をお持ちの方が楽しめる工夫が施されていました。

ゲーデ弦楽四重奏団は、伝統的なクラシックから、都はるみさんの「北の宿から」はじめ日本人おなじみの楽曲なども演奏。子ども同伴の来場者も多くいて、健聴者・難聴者ともにリラックスしてコンサートを楽しんでいました。

みみともコンサート

コンサートの様子(画像提供:オーティコン補聴器)


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***字幕付オンデマンド動画「きこえのミライ」シリーズご紹介***

講演内でも説明があった、難聴があると聞き取りに労力がかかる「リスニング・エフォート」について解説した字幕付オンデマンド動画「きこえのミライ」シリーズ3作目である「きこえのミライ シーズン3」を現在無料で配信中です。

◾️オーティコン補聴器がオンデマンド動画「きこえのミライ シーズン3」

https://oticon.satori.site/kikoenomirai3

配信期間:2025年10月14日(火)~2026年2月28日(火)
上記特設サイトより、2026年1月31日(土)まで申し込み受付中

聞こえの支援」に関わる最新情報を、耳鼻科医師、教育者、研究者、補聴器メーカー、小児オーディオロジストなどの多彩な専門家がそれぞれの立場から解説しています。

「きこえのミライ」シーズン1,2、ライブ版の字幕付き動画は、オーティコンYouTube公式チャネルで無料公開しています。

■「きこえのミライ」(シーズン 1)
https://www.youtube.com/playlist?list=PLKB6L7jIfYfWbUXK3NNE3MlsyudEWiuzr

■「きこえのミライ シーズン 2」
https://www.youtube.com/playlist?list=PLKB6L7jIfYfVpZetF7HZudKbGCWBAnxaT

■「みんなで創るきこえのミライ」
https://www.youtube.com/playlist?list=PLKB6L7jIfYfUvaOd4R1nLzyW9y3mLruJ1

出典=WEBオリジナル


リンク先は婦人公論.jpというサイトの記事になります。


 

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