「聞こえにくいのは単なるトシのせい」と油断するとヤバい…"難聴"に隠された「命にかかわる深刻な病気」

「聞こえにくいのは単なるトシのせい」と油断するとヤバい…"難聴"に隠された「命にかかわる深刻な病気」

高血圧や高血糖の人は要注意
PRESIDENT Online
天野 篤
心臓血管外科医

様子見でいい体調不調と見落としてはいけない不調はどう違うのか。上皇陛下の心臓手術執刀医で、順天堂大学医学部特任教授の天野篤さんは「心臓病発作が起こったときは、急に胸が締めつけられるような痛みが生じるのが特徴だが、心臓病で全身の血流が悪化することで、難聴が起こるとも推察されている。この難聴を見逃してはいけない」という――。(第1回/全3回)

※本稿は、天野篤『血管と心臓 こう守れば健康寿命はもっと延ばせる』(講談社ビーシー/講談社)の一部を再編集したものです。 

心臓を手でおさえる男性写真=iStock.com/SasinParaksa

※写真はイメージです


血流の悪化が難聴を招く

音が聞こえにくくなる「難聴」は、高齢になると多くみられる耳の障害ですが、じつは心臓病とも深く関係しています。

富山大学の研究では、狭心症や心筋梗塞といった心臓血管疾患の既往のある高齢者は、難聴のリスクが約2倍に増加すると報告されています。

われわれの耳は「外耳がいじ」「中耳ちゅうじ」「内耳ないじ」に分かれていて、音は外耳から入って鼓膜を振動させ、耳小骨じしょうこつで増幅されて内耳に伝えられます。続いて内耳の蝸牛かぎゅうにある有毛細胞ゆうもうさいぼうで感知されたあと、聴神経から大脳に伝達されて処理され、音として認識されます。難聴はこれらの経路のどこかに障害が起こって生じる症状で、外耳から中耳までの経路に障害があるものを「伝音難聴でんおんなんちょう」、内耳から聴覚中枢に至るまでの経路に障害があるものを「感音難聴かんおんなんちょう」、両方が混在したものを「混合難聴」と呼びます。

年をとって耳が遠くなる加齢性難聴、近年増加している突発性難聴やヘッドホン難聴は、感音難聴に該当します。

ところが、狭心症や心筋梗塞などの動脈硬化性の心臓病があると、全身の血流が悪化します。当然、内耳や脳の血流も悪くなるため、音の感知能力や認識能力が低下して難聴が起こると推察されているのです。

若い男性が耳に手を当てる写真=iStock.com/Daria Kulkova

※写真はイメージです


難聴と心臓病の共通点


これとは逆になりますが、難聴がある人は心臓病のリスクがアップする可能性も十分に考えられます。糖尿病、高血圧、脂質異常症といった生活習慣病は、加齢性難聴を悪化させるリスク因子で、大規模な疫学調査でも糖尿病があると加齢性難聴を悪化させることが判明しています。

また、高LDLコレステロール血症の人で、自分の両親や祖父母といった近い家族に加齢性難聴の人がいる家族歴がある場合、コレステロール降下薬「スタチン」による治療の早期介入によって難聴の発症が予防されたという報告もあります。実際、臨床の現場でも、糖尿病や高LDLコレステロール血症の治療をしっかり実践している患者さんは、比較的、聞こえが保たれている方が多い印象です。

このように難聴リスクを上げる糖尿病、高血圧、脂質異常症といった生活習慣病は、動脈硬化を促進させるため、冠動脈心疾患の代表的なリスク因子でもあります。つまり、難聴と心臓病はリスク因子が重なっているのです。


難聴は心臓病のサインにもなる

また、難聴には全身の慢性炎症が関係しているのではないか、という見方があります。慢性炎症があると内耳にも炎症が波及し、だんだんと感音難聴が進行していくと考えられています。この慢性炎症は心臓病とも深くかかわっていて、体内に慢性炎症があるとIL-6(インターロイキンシックス)や、TNF-α(ティーエヌエフアルファ)といった炎症性サイトカインが過剰に放出され、動脈硬化が進んで心臓病のリスクを上げることが知られています。ここでも、難聴と心臓病のリスク因子が重複しているのです。

先ほどふれたスタチンは、体内でのコレステロール合成を抑制するという主作用に加え、抗炎症の作用も持っています。このスタチンの作用が動脈硬化の予防に加え、高LDLコレステロール血症の人の難聴予防に関与している可能性があり、難聴と心臓病の深い関係を示しているひとつの要素といえるかもしれません。

これらを総合的に解釈すると、心臓病の家族歴がある人が比較的早期に難聴を生じた場合、動脈硬化が野放しになっていて、いつ心臓病を起こしてもおかしくない状態まで進んでいる可能性があるといえます。難聴が心臓病のサインになっているかもしれないということです。

難聴と心臓病の関係について、現時点では大規模な研究結果が出ているわけではないため、科学的に確かな根拠があるとまではいえません。しかし、まったく関係ないともいえないので、無視せずに対策を講じておくに越したことはありません。耳が遠くなってきたと感じたら、高血糖、高血圧、高LDLコレステロール血症などの生活習慣病がないかを検査でしっかり確認し、異常があればきちんと治療を受けて数値をコントロールすることが大切です。

難聴の悪化と心臓病の発症を予防します。 さらに、心臓ドックなどを受けて自分の動脈硬化の程度を把握しておくのも有用です。

また、難聴は認知症リスクを大幅に上昇させることもわかっていて、高度難聴の人は、難聴がない人に比べて認知症の発症率が5倍高く、軽度難聴であっても2倍高いという報告もあります。聞こえづらいと感じたら、そのままにしないで全身の点検をすべきサインだと受け止めることが、健康寿命を延ばすことにつながるように思います。


狭心症や心筋梗塞で頭痛に

頭がズキズキしたり、ズーンと重く圧迫感が続いたり……と、「頭痛」を経験したことがないという人はいないでしょう。片頭痛へんずつうや緊張性頭痛など、日本人の4人に1人は慢性的な頭痛を抱えているといわれ、とても身近な症状といえます。

そのほとんどはほかに原因となる病気がない一過性のものですが、脳卒中などの命にかかわる脳血管疾患のサインであるケースもあるため、甘く考えてはいけません。なかには心臓病が隠れている頭痛もあります。代表的なものが「放散痛(関連痛)」と呼ばれるものです。

狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患は、心臓に血液を送っている冠動脈が狭くなったり、詰まったりすることで起こります。血流が悪化して心臓に必要な酸素や栄養が十分に運ばれなくなるため、激しい胸痛が生じます。

この痛みが、みぞおち、背中、腕、肩、あご、歯といった場所に表れるのが放散痛です。心臓や血管の痛みも、みぞおち、背中、腕、肩、あご、歯などの痛みも、いずれも脊髄せきずいを通って脳に伝えられます。このとき、痛みが起こっている箇所を脳が取り違えると、一見、心臓とは関係のない箇所に痛みを感じます。この放散痛が、頭痛として発生するケースがあるのです。

頭を抱える男性写真=iStock.com/Pornpak Khunatorn

※写真はイメージです


生活習慣病を抱える人は要注意


国際頭痛分類でも「心臓性頭痛」として記載されていて、虚血性心疾患にともなう頭痛はたくさん報告されています。心臓病のリスク因子となる高血圧などの基礎疾患がある人に多くみられ、労作時や胸痛にともなって頭痛も起こるのが典型的なケースとされています。ただ、症状が頭痛だけだったり、くも膜下出血を疑うような激しい頭痛が主症状だったケースも報告されているので注意が必要です。なかには、血栓で詰まった冠動脈を再灌流させると、頭痛が著しく改善したという報告もあります。

なぜ、虚血性心疾患にともなって頭痛が起こるのかについては、放散痛のほかにもいくつか原因が考えられていますが、はっきりわかっていません。

虚血によって心拍出量が減少することで脳血流が低下したり、静脈還流量が減少して脳圧が上昇するために頭痛が起こるという意見や、心筋梗塞によって放出された炎症性物質が脳血管の痛覚神経に影響を与えるためとの見方もあります。

いずれにせよ、高血圧、高血糖、高LDLコレステロール血症などの生活習慣病を抱えている人が激しい頭痛を起こした際は、心臓病かもしれないという疑いを頭に入れておいたほうがいいでしょう。


心臓の構造が片頭痛の原因に

また、片頭痛が「卵円孔開存らんえんこうかいぞん」という生まれつきの心臓の構造と関係しているという報告もあります。卵円孔開存というのは、心臓の右心房と左心房の間の壁(心房中隔しんぼうちゅうかく)に小さな穴=卵円孔が開いている病態で、本来なら出生時に閉じるはずの卵円孔が、閉じないまま成長してしまったケースです。成人の15~20%が該当するといわれています。穴が大きくない場合は特に心配することはありませんが、近年、片頭痛の原因として疑われているのです。

血管と心臓 こう守れば健康寿命はもっと延ばせる天野篤『血管と心臓 こう守れば健康寿命はもっと延ばせる』(講談社ビーシー/講談社)

血管と心臓 こう守れば健康寿命はもっと延ばせる天野篤『血管と心臓 こう守れば健康寿命はもっと延ばせる』(講談社ビーシー/講談社)


右心房と左心房の間に小さな穴があると、ちょっとした体の動きで心臓内の血液が行き来することになります。このように、全身から右心房に流れ込んだ静脈血じょうみゃくけつと、肺で酸素を取り込んで左心房に入った動脈血どうみゃくけつが少量でも混ざる「逆流」が起こると、最悪のパターンでは静脈内にある血栓が移動して脳梗塞の原因になります。それだけでなく、セロトニンなどの片頭痛を誘導する物質が肺を通らずに、穴を通過して直接、大動脈に入ってしまうことで片頭痛を引き起こすのではないかと考えられているのです。

欧米でも日本でも、卵円孔を閉鎖するカテーテル手術を行うと、高確率で片頭痛が軽快したという報告があります。こうした例からも、片頭痛の裏に心臓トラブルが隠れている可能性があるのです。

 

頸動脈がドクドクして眠れない

ほかにも、頭痛とまではいきませんが、頭部の違和感が心臓トラブルと関係しているケースがあります。大動脈弁閉鎖不全症で、心臓の弁がうまく機能していない場合です。心臓からの血流の出口である大動脈弁の閉まりが悪くなり、大動脈に押し出された血液が再び心臓内に逆流する病気で、拍出された血液が心臓に戻って、再び拍出されるため、脈圧が上昇します。その分、心臓はフル回転を強いられ、首を通って脳へ血液を送っている頸動脈の拍動が強くなります。さらに、就寝時に横になると下半身の血液が心臓に戻ってくるのでより拍出量が増加し、「頸動脈が激しくドクドクして眠れない」と訴える人もいます。こうした頭部付近の症状から、大動脈弁閉鎖不全症の病状がわかるケースもあるのです。頭痛が心臓病のサインになっている可能性もあるということを覚えておくといいでしょう。


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