聞こえる人もそうでない人も「音がなくてもつながれる」 ろう者の理容師だった祖父モチーフ、小説「音のない理髪店」

聞こえる人もそうでない人も「音がなくてもつながれる」 ろう者の理容師だった祖父モチーフ、小説「音のない理髪店」

2025/02/27

「音のない理髪店」の表紙

「音のない理髪店」の表紙


 1933年、日本で初めてろう者のための理髪科が設けられた徳島県立盲聾☆(口ヘンに亞)学校(現・県立徳島聴覚支援学校)卒業生の半生を描いた、一色さゆりさん(36)の小説「音のない理髪店」が刊行され、話題を呼んでいる。

 実際に同校を卒業した1期生で、ろう理容師になった一色さんの祖父がモチーフになった。テーマの一つは「音がなくてもつながれる」だ。

 主人公は現代を生きる、耳が聞こえる新人女性作家。次回作の構想に行き詰まり、小説家でありながら「伝えたいこと」を見失いそうになっていた時、亡くなった祖父がろう者の理容師だったことを思い出し、その半生に触れながら物語は進んでいく。

 幼い頃に聴覚を失い、戦前の徳島で眉山や吉野川といった自然に囲まれながら、学校の理髪科で理容師のノウハウを学んだ祖父。

 「ろうは恥ずかしい」という偏見にさらされるが、同級生と心を通わせ、ろう者として生きていく覚悟を決める。祖父の生き方を知った主人公は「伝わったときの尊さ」に気がつき、自身の伝えたいことや周囲との関係を見つめ直していく、というストーリーだ。

 一色さんは、作家として伝える手段を持っていながら伝えたいことが分からなくなっている主人公について「交流サイト(SNS)の現状を象徴させた」と語る。

 SNSはコミュニケーション手段の一つだが、その情報の中には内容が薄く真偽不明なものもあり「どうしても伝えたいことなのだろうか」という疑問を抱いてきたためだ。

 作中では、聴覚障害がある母親が、耳が聞こえる小さい娘が言おうとしていることを理解できず、親子の距離が開くエピソードがある。だが、やがて娘は自発的に手話を使い、親子はつながる。

 一色さんは「耳が不自由な人は困難を知っているからこそ、伝わるときの尊さも知っている。作品を書いているうちに現代人との対称性に気がついた」と振り返る。

 ろう者が受ける差別を描いてはいるが、作品を通じて一番伝えたかったのは「乗り越えた勇気や支えた人の愛情」。

 一色さんは「聞こえるかどうかにかかわらず、人と人がつながる普遍的なテーマを描いた」と語った。

小説家の一色さゆりさん(森清撮影)

小説家の一色さゆりさん(森清撮影)


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