公開日:2025/09/17

聴力検査の数値の見方とは?メディカルドック監修医が聴力検査の数値で分かる聞き取りレベルや、基準値、検査を受けたことで見つかる病気などを解説します。

監修医師:
小島 敬史(国立病院機構 栃木医療センター)
慶應義塾大学医学部卒。医師、医学博士。専門は耳科、聴覚。大学病院および地域の基幹病院で耳鼻咽喉科医として15年以上勤務。2年間米国で基礎研究に従事の経験あり。耳鼻咽喉科一般の臨床に従事し、専門の耳科のみならず広く鼻科、喉頭、および頭頸部腫瘍疾患の診療を行っている。日本耳鼻咽喉科学会専門医、指導医。日本耳科学会、日本聴覚医学会、日本耳鼻咽喉科臨床学会の各種会員。補聴器適合判定医、補聴器相談医。
聴力検査とは?
耳の聞こえにくさ、すなわち難聴を診断するために行われる最も基本的で重要な検査が聴力検査です。難聴の有無だけでなく、その程度や原因がどこにあるのかを推測するための手がかりを得ることができます。今回は、聴力検査の数値とその見方について解説します。
聴力検査とは?
一般的に耳鼻咽喉科で「聴力検査」という場合、多くは「標準純音聴力検査」を指します。これは、外からの音を遮断する防音室や静かな部屋の中でヘッドホンを装着し、「ピー」や「ポー」といった様々な高さの純粋な音を聞き、どのくらい小さな音まで聞き取れるかを調べる検査です。
健康診断と耳鼻咽喉科で行う聴力検査の違いとは?
学校や職場の健康診断でも聴力検査が行われますが、これは耳鼻咽喉科で行う精密な検査とは目的が異なります。健康診断の検査は、主に難聴の疑いがある人を見つけ出すためのスクリーニング検査です。そのため、日常会話で重要な1000Hz(ヘルツ)と、騒音などの影響で初期に聞こえにくくなりやすい4000Hzという、特定の高さの音を30dB(デシベル)程度の一定の音量で聞かせ、聞こえているかどうかのみを判定します。一方で、耳鼻咽喉科で行う検査は、より細かい周波数(音の高さ)で、聞こえる最小の音量を詳細に調べる精密検査です。これにより、難聴の程度や種類を正確に診断し、適切な治療方針を立てることが可能になります。
聴力検査の種類
聴力を評価するためには、いくつかの異なる種類の検査を組み合わせて行います。それぞれ目的が異なり、多角的に耳の状態を把握します。
標準純音聴力検査
標準純音聴力検査は、聴力検査の中で最も基本となるものです。様々な高さの純音を用いて、聞こえる最小の音量を測定します。この検査には、気導聴力検査と骨導聴力検査の二つの方法が含まれています。この2つの検査により、外耳・中耳に原因のある伝音難聴と、内耳・神経に原因のある感音難聴を判定します。
気導聴力検査
気導聴力検査は、ヘッドホンを両耳にあてて行います。音が空気の振動として耳に伝わり、外耳道、鼓膜、中耳の耳小骨を経て、内耳の蝸牛へと届く、通常の音の伝達経路全体の聴力を測定します。この検査によって、何もしない状態でどれくらいの音が聞き取れているか判定します。
骨導聴力検査
骨導聴力検査では、耳の後ろにある骨の部分に振動する端子を当てて検査します。音の振動が骨を直接震わせ、内耳の蝸牛に直接信号を伝えます。この検査により、外耳や中耳を経由せず、内耳以降の機能を直接評価することができます。気導聴力と骨導聴力の両方を測定し、その結果を比較することで、難聴の原因がどの部位にあるのかを推測することができます。
語音聴力検査
語音聴力検査は、「あ」「し」といった単音がどれだけ正確に聞き取れるかを調べる検査です。人間の会話に必要な言葉を聞き取る能力がどの程度であるか調べるものです。この検査では、音は聞こえているのに言葉が聞き取れないといった、より実生活に近い聞こえの問題を評価することができます。
ティンパノメトリー
ティンパノメトリーは、鼓膜の可動性を調べる検査です。例えば、滲出性中耳炎のように中耳に液体が溜まっていると鼓膜の動きが悪くなるため、この検査によって診断の手がかりが得られます。痛みはなく、短時間で終わる検査です。
聴力検査におけるマスキングとは?
マスキングとは、片方の耳の正確な聴力を測るために、もう一方の耳に意図的に雑音を聞かせる操作のことです。例えば右耳の聴力を調べている時に、検査音が大きくなると、頭蓋骨を伝わって左耳でもその音が聞こえてしまうことがあります。この現象を交叉聴取と呼びます。このままでは右耳の正しい聴力が測れないため、左耳にザーという雑音を聞かせて、検査音が聞こえないようにします。左右の聴力に差がある場合など、正確な聴力を知るために不可欠な手法です。
検査で流す音の範囲
聴力検査で調べる音域には、大きく分けて低音域、中音域、中高音域、高音域があります。
低音域(125, 250Hz)
この周波数帯は、男性の低い声や、太鼓、ベースのような楽器の音、あるいは冷蔵庫やエアコンの室外機のうなるような音に代表される低い音の領域です。会話においては、抑揚を感じ取るために必要とされています。地響きや振動の感覚としても役立ち、危機察知能力に必要な音域と考えられています。
中音域(500,1000,2000Hz)
500、1000、 2000Hzは、私たちの日常会話の中心となる最も重要な周波数帯です。特に1000Hzは、ほとんどの言語において必要な母音の聞き分けに関与しています。500Hzはやや低音域で、それ自体が日本語において言語の明瞭度に関わる重要な音域です。2000Hzは「まみむめも」や「たちつてと」といった有声子音の聞き分けに必要な音域です。中音域の聴力は言語の聞き取り能力に直結します。
中高音域(3000,4000Hz)
鳥のさえずりなどがこの範囲に含まれます。また、「さしすせそ」や「はひふへも」といった無声子音の聞き取りや、英語の聞き取りには重要で、この領域の聴力が低下すると言葉の聞き間違いが多くなります。4000Hzは、騒音性難聴で最も初期に障害されやすい特徴的な周波数でもあります。
高音域(8000Hz以上)
電子レンジの終了音や体温計の音のような電子音や、金属がこすれるような甲高い音がこの領域です。加齢による聴力低下は、一般的にこの高い周波数から始まります。若者にしか聞こえないと言われる不快な高周波音であるモスキート音は17000Hz前後を指し、この非常に高い周波数帯に含まれます。
聴力検査の数値で分かる聞き取りレベル
検査結果はオージオグラムという聴力図に記録されます。縦軸が音の大きさ、横軸が音の高さを示しており、この図から聴力の状態を読み解きます。
聴力検査の数値0,5,10,15…の意味
縦軸の数値はデシベル(dB)という単位で表され、音の大きさを示します。注意が必要なのは、この0dBが「無音」を意味するわけではないということです。聴力検査における0dBは、健康な聴力を持つ若者が聞き取れるであろう最も小さな音量を基準としています。そのため、数値が大きくなるほど、より大きな音でないと聞こえない、つまり聴力が低下している状態を示します。ちなみにデシベルは対数の単位なので、5dB大きくなると音のエネルギーは約3.16倍(√10)、10dB大きくなると約10倍、20dBでは約100倍になります。
聴力検査の数値マイナスの意味
オージオグラムで、測定結果が0dBの線より上に、つまりマイナスの値(-5dBや-10dB)で記録されることがあります。これは聴力が悪いのではなく、むしろその逆です。基準とされている0dBよりもさらに小さな音を聞き取れる、平均よりも優れた聴力を持っていることを示しています。
「聴力検査」の異常値と内容
聴力検査の結果は中音域(500,1000,2000Hz)の聴力の平均値で表されます。この平均聴力が25dBを超えると、何らかの聴力低下、つまり難聴があると判断されます[1]。難聴は片方の耳だけに起こることもあれば、両方の耳に起こることもあります。
軽度難聴
聴力レベルが26〜40dBの範囲を指します。このレベルでは、静かな場所での一対一の会話はあまり問題になりませんが、ささやき声や小声での会話は聞き取りにくくなります。また、会議やレストランなど、周囲が騒がしい場所では聞き間違いが増え、話の内容を理解するのが難しくなることがあります。
中等度難聴
聴力レベルが41〜70dBの範囲です。普通の声の大きさでの会話も聞き取りが困難になり、しばしば聞き返すようになります。テレビの音量を大きくしたり、話す相手に大きな声で話してもらったりする必要が出てきます。この段階になると、補聴器の使用が有効な選択肢として検討されます。
高度難聴
聴力レベルが71〜90dBの範囲を指します。耳元で大声で話されないと会話を理解することができず、日常生活におけるコミュニケーションに大きな支障をきたします。補聴器の使用が強く勧められるレベルです。補聴器を装用しても会話が困難である場合、人工内耳手術の適応となることがあります。
耳鼻咽喉科健康診断の「聴力検査」の異常で気をつけたい病気・疾患
ここではメディカルドック監修医が、「聴力検査」で見つかる病気を紹介します。
どのような症状なのか、他に身体部位に症状が現れる場合があるのか、など病気について気になる事項を解説します。
耳垢栓塞
耳垢が外耳道に完全に詰まってしまい、音の通り道を塞いでしまう状態です。自分で無理に取ろうとすると耳の皮膚を傷つけたり、耳垢をさらに奥に押し込んでしまったりする危険があるため、聞こえにくさを感じたら耳鼻咽喉科を受診し、専門医に安全に除去してもらうことが大切です。
中耳炎
風邪などをきっかけに、鼓膜の奥の中耳に細菌やウイルスが感染して炎症を起こす急性中耳炎や、炎症によって滲出液が溜まる滲出性中耳炎などがあります。どちらも耳の痛みや発熱に加え、伝音難聴を引き起こします。治療は抗生物質や消炎剤の内服が中心ですが、必要に応じて鼓膜を切開して膿や液体を排出することもあります。耳の痛みや聞こえにくさを感じたら、耳鼻咽喉科を受診しましょう。
突発性難聴
何の前触れもなく、ある日突然、主に片方の耳が聞こえなくなる感音難聴の一種です。原因はまだ完全には解明されていませんが、ウイルス感染や内耳の血流障害、ストレスなどが関与していると考えられています。突発性難聴は、できれば3日以内、遅くとも1〜2週間以内の治療が強く推奨されています。副腎皮質ステロイド薬による治療が一般的です。突然の聞こえにくさを自覚したら、なるべく早く耳鼻咽喉科を受診してください。
「聴力検査の数値」についてよくある質問
ここまで聴力検査の数値などを紹介しました。ここでは「聴力検査の数値」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
聴力検査の数値が30だと難聴でしょうか?
小島 敬史医師小島 敬史(医師)
はい、聴力検査で30dBであれば、軽度難聴に分類されます。世界保健機関(WHO)などの基準では、聴力レベルが25dBを超える場合を難聴としています。30dBは、難聴の自覚はほとんど伴わないものの、小さな声や騒音下での会話が聞き取りにくくなるレベルであり、医学的には軽度の難聴と診断されます。
聴力において良い数値はどの範囲まででしょうか?
小島 敬史医師小島 敬史(医師)
一般的に、25dBまでが正常範囲とされています。0dBは健康な若者の平均的な聴力を示しており、これに近いほど聴力は良好です。さらに、-5dBや-10dBといったマイナスの数値は、平均よりも聴力が優れていることを意味しますので、良い数値と言えます。ただし、医学的には25dB以下であればすべて正常と判定し、例えば10dBと15dBを比べるような優劣はつけません。
まとめ 聴こえに異常があれば耳鼻咽喉科の受診を
聴力検査は、ご自身の聞こえの状態を客観的に把握し、隠れた病気を見つけるための重要な検査です。聞こえにくさや耳鳴り、耳の詰まった感じなどの症状は、身体が発している重要なサインです。特に、突然の難聴は、早期治療がその後の聴力を大きく左右する緊急性の高い疾患である可能性があります。少しでも耳に異常を感じたら、決して自己判断で放置せず、できるだけ早く耳鼻咽喉科の専門医にご相談ください。また、近年は難聴へしっかり対応することが認知症を予防する方法ではないかと考えられています。特に両側の難聴と診断された場合、放置せず補聴器などを積極的に検討しましょう。
「聴力検査」の異常で考えられる病気
耳鼻咽喉科系の病気
耳垢栓塞
急性中耳炎
滲出性中耳炎
真珠腫性中耳炎
耳硬化症
慢性中耳炎鼓膜穿孔突発性難聴
メニエール病
騒音性難聴
先天性難聴加齢性難聴聴神経腫瘍側頭骨骨折
髄膜炎
難聴を呈するのは耳の異常・耳鼻咽喉科の病気による場合が多いです。
参考文献
この記事の監修医師

小島 敬史 医師(国立病院機構 栃木医療センター)
監修記事一覧
慶應義塾大学医学部卒。医師、医学博士。専門は耳科、聴覚。大学病院および地域の基幹病院で耳鼻咽喉科医として15年以上勤務。2年間米国で基礎研究に従事の経験あり。耳鼻咽喉科一般の臨床に従事し、専門の耳科のみならず広く鼻科、喉頭、および頭頸部腫瘍疾患の診療を行っている。日本耳鼻咽喉科学会専門医、指導医。日本耳科学会、日本聴覚医学会、日本耳鼻咽喉科臨床学会の各種会員。補聴器適合判定医、補聴器相談医。
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