【資格】「手話で自己紹介」ができれば世界は広がる

【資格】「手話で自己紹介」ができれば世界は広がる

2026/1/24
福光 恵
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「社会に新たな動きがあると、新たな資格が生まれてきます。そんな多種多様な資格を取るために学ぶうちに、世界の見え方も変わってきました」。資格マニアの醍醐味をそう話すのは、1000を超える資格を持つ鈴木秀明さんです。

仕事のためにしぶしぶ受けた資格試験の勉強が、いつのまにか仕事の枠組みを超えた自分の教養になっていた……そんな経験を持つ人もいるはずです。

そこで、資格マニアの鈴木さんが世に数ある資格を、世の中の動きとともに案内する大人のための資格ガイド

今回は、2025年に日本で初めて開催された「東京2025デフリンピック」(※現在は終了)にちなんで、「手話技能検定」と奥深い手話の世界を紹介します。


INDEX

  • 英語の英検のように手話技能を検定
  • 今回のニュース
  • 入門レベルから専門家レベルまで
  • 「がんばれ」「ドンマイ」「拍手」は…
  • ドラマや舞台でも手話が身近に


英語の英検のように手話技能を検定

手話技能検定の詳細


今回のニュース

初のデフリンピック、手話の通訳者不足が課題に

「東京2025デフリンピック」が、東京体育館ほか各会場で2025年11月15日から26日まで開催されます(※現在は終了)。デフリンピックは聴覚に障がいがある、耳が聞こえない人、聞こえにくい人のためのオリンピックです。英語で「耳が聞こえない人」を意味する「デフ(Deaf)」と「オリンピック」が由来となっています。

デフリンピックは国際オリンピック委員会(IOC)に承認されていて、夏季大会と冬季大会がそれぞれ4年ごとに開催されます。 第1回大会が開催されたのは、1924年のフランス・パリ。そこから数えて100周年の記念すべきデフリンピックが、今回、初めて日本で開催されます。

選手は競技中、補聴器や人工内耳の使用が禁止されているため、デフリンピック独特の情報伝達が工夫されています。手話やジェスチャーなどによって出場選手と審判らのコミュニケーションを図るほか、たとえば、陸上競技ではスタートの合図とフライングの合図を音のほかに、ピストルと連動するランプを点灯して知らせたり、サッカーでは主審がホイッスルとともに旗を揚げたりするなど、聴覚だけに頼らない視覚による情報伝達がおこなわれます。

日本でデフリンピックが開かれるのは、夏季・冬季を通して初めてのこと。選手と審判、観客らとの重要なコミュニケーション手段となる手話の通訳の人手不足も課題とされています。

公的機関が認定する手話通訳の資格には、厚生労働大臣が認定する「手話通訳士」(約4000人が登録)、主に都道府県や政令市が養成する「手話通訳者」(約1万人が登録)があるほか、聴覚障がい者のコミュニケーションを支援する「手話奉仕員」(約3万人が登録)の養成制度がありますが、多くの地域で聴覚障がい者の人数に比べて手話通訳の人手不足が問題になっています。また手話通訳は、身振り手振りに伴う身体的な負担も少なくないだけに、高齢で引退する通訳者も増えているといわれています。

さらにデフリンピックのような国際大会では、「言葉の壁」も立ちはだかります。国や社会集団によってさまざまな言語が存在するのと同様に、手話も国ごとに違いがあり、外国人と手話で話すのには、「国際手話」ができる人同士が会話するのがもっとも円滑な方法になります。ただし、国際手話を使える人はまだ少なく、日本の手話と国際手話の両方ができる人は国内で500人ほどともいわれます。

そして、それぞれの国の手話通訳士不足が、国を越えたコミュニケーションの壁になっています。たとえば、外国からきたデフアスリートにインタビューするには、まず日本人の記者が音声で質問した内容を、日本の手話通訳者が日本語の手話に変換。それを国際手話の通訳ができる人に伝え、最終的に外国人選手の“母国手話”で伝えるというように、さまざまな通訳者が必要になるケースが出てきます。

実際のデフリンピックの現場では、ろう者を中心とした国際手話通訳者と、健聴者の日本の手話言語通訳者がペアを組んで通訳を担います。大会を機に、国際手話や日本の手話を通訳するスキルをもつ人材を育成する必要性が指摘されています。

手話をする女性(写真:yamasan / gettyimages)

(写真:yamasan / gettyimages)


入門レベルから専門家レベルまで

手話とは、耳や口が不自由な人が、手や身振りを使って他者とコミュニケーションするための共通言語のこと。前述のとおり、手話に関する資格は厚生労働大臣認定の「手話通訳士」をはじめとしていくつもありますが、今回は手話入門者レベルからでも取り組みやすい「手話技能検定」をご紹介します。
日本で使われている手話は、日本語独自のもの。しかも、その日本語手話も「統一された絶対的な言語体系が確立されている」というわけではなく、なかには方言を含んだ手話があるほか、大きく分けると「日本手話」と「日本語対応手話」という2種類の手話があります。

まず「日本手話」は、一般的な日本語とは異なる独自の文法体系をもつ手話であり、古くからろう者のコミュニティで慣習的に使われてきた手話言語です。手指動作だけでなく表情や姿勢などが重要な文法要素として使われることが特徴です。
もうひとつの「日本語対応手話」は、日本語の文法をベースとして、日本語の語彙を手話単語に置き換えて表現する手話言語です。また、この両者の特徴がミックスされた「中間手話(中間型手話)」という手話も使われています。

手話技能検定は、「日本手話」と「日本語対応手話」のどちらにも対応した試験内容となっています。五十音の「指文字」を覚える7級から、日常生活や業務上のあらゆる場面において手話で会話できるレベルの1級まで、7つのレベル(級)が設けられています。

政見放送や裁判など公的な場での手話通訳は「手話通訳士」の資格がなければできないとされていますが、合格率は例年10%前後とかなりの難関試験です。一方で、手話技能検定は入門レベルから専門家レベルまで幅広い層の受験者に対応していて、手話スキルを身につけたい人の目標設定やベンチマークとして、より有用な資格だといえるでしょう。


「がんばれ」「ドンマイ」「拍手」は…


手話技能検定公式サイトの「各級のレベルと目安」というページには、各級の試験範囲となる単語数や、学習時間の目安(講座やサークルでの学習)が記載されています。また6級~2級については「試験範囲集」が公開されていて、各級の出題対象となる手話単語のリストを閲覧することができます(1級は単語の制限なし)。

デフリンピックで選手を応援するときに使えそうな単語から、手話をいくつかご紹介しましょう。

まず「がんばれ」は、両手をグーにして胸の前に置き、拳を力強く2回下におろすという動作をします。また「ドンマイ(大丈夫)」は、少し曲げた右手の指先を左胸にあててから右胸にあてます。そして手話の「拍手」は、両手を上にあげて手をひらひらとさせて表現します。

こうした単語を表す手話のほか、あいうえおの五十音をあらわす「指文字」という手話もあり、こちらは対応した手話がない固有名詞などを表すときに使われます。たとえば指文字の「た」は親指を立てるいわゆる「いいね」の形で、「の」は人差し指でカタカナの「ノ」を書く動作をします。

手話技能検定でもっとも初心者向けの級である7級は、この「指文字(五十音)の基本形を覚え、ゆっくり表現し、読み取ることができる」レベルと設定されています(ただし濁音、半濁音などは含まない)。学習時間目安は8時間程度とまさにビギナー向けのレベル感なので、ぜひ皆さんも自分の名前を手話で自己紹介するやり方を学んでみてはいかがでしょうか。

なお、6級〜3級は手話の映像を見て単語を読み取ったり、手話で表された長文を解釈したりする筆記試験(マークシート形式)で、2級・1級は手話でスピーチなどを行う実技試験です。最難関の1級は学習時間目安が3年(240時間)以上と、かなりのトレーニングを積んだ人のための級となっています。


ドラマや舞台でも手話が身近に

1995年のTVドラマ「愛していると言ってくれ」(主演・豊川悦司、常盤貴子)の大ヒット以来、聴覚障がい者を主人公としたドラマや映画は数多く制作されています。

最近も、若年性両側性感音難聴の主人公とその恋人とのラブストーリーを描いた「silent」(主演・川口春奈)や、生まれつき両耳が聞こえない遺品整理士の純愛を描く「星降る夜に」(主演・吉高由里子、北村匠海)、ろう者の刑事事件の法廷通訳を担う手話通訳士を描いた「デフ・ヴォイス」(主演・草彅剛)など、多くの作品がヒットしています。

エンタメの世界でも、ダンスや手話でパフォーマンスを行うユニット「HANDSIGN」が活躍していたり、吉本新喜劇で「手話新喜劇」が上演されたりするなど、手話が身近な存在になってきています。

とはいえ、冒頭のニュース部分でも触れたとおり、手話の現場の人手不足はいまだ深刻です。手話の世界のエスペラント(人工的な国際共通語)のような存在である「国際手話」の担い手を増やすことも急務となっています。

現代は多様性や共生社会の時代。さまざまなバックグラウンドを持つ人が集まることで、新しい視点やアイデアが生まれ、イノベーションが加速すると期待されるなかで、手話が一役買うことも予想されています。デフリンピックが日本で開催されることをきっかけに、デフアスリートのこと、手話のこと、そして共生社会のことをあらためて考えるきっかけになるといいなと思います。

たとえば、地域ビジネスにおいても、お店やイベントに聴覚障がいがあるお客さんが訪れたとき、「こんにちは」「ありがとう」などいくつかの単語だけでも手話での表現を覚えておくと、コミュニケーションが広がるはず。手話は動きや表情などのアクションを伴うものであるため、言葉だけよりも気持ちがより伝わる表現方法だといえるのではないでしょうか。

ちなみに「東京デフリンピック」では、日本の手話をベースにした「サインエール」と呼ばれる視覚的な応援方法が開発されています。「行け!」「大丈夫 勝つ!」「日本 メダルを つかみ取れ!」の3つの基本要素からなるサインエールで応援することが推奨されています。

この試みが多くの人にとって手話に触れ、考えるきっかけとなればいいなと思いますし、手話に興味を持った人のさらなる学びのきっかけとして、この検定が多くの人に活用していただけると嬉しいですね。

鈴木秀明

鈴木秀明(すずき・ひであき) 1981年生まれ。総合情報サイト「All About」資格ガイド。東京大学理学部卒。東京大学公共政策大学院修了。年間80個ペースで資格試験を受験し、米国公認会計士、気象予報士、中小企業診断士など1000を超える資格を取得。雑誌・テレビ・ラジオなどのメディア出演実績は500件以上。著書に『効率よく短期集中で覚えられる 7日間勉強法』(ダイヤモンド社)など。

取材・文:福光恵
編集:鈴木毅(POWER NEWS)
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
タイトルバナー:gettyimages


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