「キーン」「ブーン」「ゴー」…耳鳴りがある人の9割がかかっている“病気”とは?【専門医が解説】

「キーン」「ブーン」「ゴー」…耳鳴りがある人の9割がかかっている“病気”とは?【専門医が解説】

小川 郁:オトクリニック東京院長
楠本知子:フリーライター
社会 | 生活習慣病リスクを総点検
2025.3.7 11:00

目を閉じて両耳を手で押さえる女性

写真はイメージです Photo:PIXTA


周囲で何も音が鳴っていないのになぜか断続的に音が聞こえる――耳鳴りは不快ではあるものの痛みがないため、つい見過ごしてしまいがちだ。放置するとどうなるのか? 耳鳴りに隠された病気とは? 原因と対処・治療法を専門医に聞いた。(取材・文/フリーライター 楠本知子)


本来「ない」音が聞こえる

耳鳴りのメカニズム

「耳鳴りとは、音が何もしていないのにもかかわらず、何か音がしているように聞こえる症状のことです。日本人の4人に1人がこの症状を経験しているいるといわれています」

 こう話すのは、オトクリニック東京院長で慶應義塾大学名誉教授の小川郁先生だ。耳鳴りには大きく分けると2種類ある。

「体内に血流などの“音源”があり、他人も聞くことができる『他覚的耳鳴り』と、体内に音源がないのに本人には聞こえる『自覚的耳鳴り』です。ほかに、外耳に耳垢がたまったり、水、虫などが入ったりして耳鳴りを起こすケースもあります」

 他覚的耳鳴りの場合、基本的に、医師が診察した際に音源を探して治療することで耳鳴りが聞こえなくなる可能性がある。しかし、多くの場合は自覚的耳鳴りだという。外耳と聴覚中枢を結ぶ聴覚路に何らかの障害が起き、その結果、その人の耳には音として感知されてしまう。

 耳鳴りで悩む人の多くは、「耳鳴りがうるさいから聞こえが悪い」と訴えるというが、実は耳鳴りのある人の約9割に「難聴」がある。耳鳴りと難聴は表裏一体の症状なのだ。

「耳鳴りの音色は、難聴で聞こえなくなった周波数と類似しているという特徴があります。高齢者の場合、一般的に高い音が聞こえなくなってくるため、高齢者の耳鳴りは『キーン』『シーン』『ピー』など、金属音・電子音のような高い音が聞こえます」

 高齢者でなくても、音楽を大音量で聴いたり演奏したりする人、日常的に大きな騒音の中で生活しているような人も同様。このほか、結核の特効薬のストレプトマイシンやカナマイシンなどの薬の副作用で起こる耳鳴りも高い周波数の耳鳴りがする。

 一方で、『ブーン』『ゴー』など、モーター音のような重低音が聞こえる場合もある。めまいを伴うならメニエール病、耳が詰まったり、自分の声が響いて聞こえたりする場合は「耳管開放症」が疑われる。

 このほか、疲れや睡眠不足、ストレス、頭痛や神経痛などの体の不調、気圧の変化なども原因となる。


気づくのが難しく治療が遅れがち…

耳鳴りを放置するとどうなる?

 急な気圧の変化などによって一時的に起こる耳鳴りは誰にでも起こりうるもので心配はいらないが、そうでない場合、「会話に差しさわりはないから」などと放置すると、症状が固定化したり悪化したりするケースもある。

「耳鳴りがあるということは、聞こえが悪くなっているということです。例えば、耳鳴りが起こるとともに、急に聞こえが悪くなる病気に突発性難聴という病気があります。突発性難聴にも低い音が聞こえなくなるものと高い音が聞こえなくなるものがあるのですが、いずれも自覚を持ちにくく、治療が遅れがちです」

 つまり、耳鳴りを放置したから難聴になるのではなく、耳鳴りがあるということは難聴になっているサインの1つだと考えられる。

「急に耳鳴りが起こった場合、急性の難聴であれば早めに治療することで難聴も耳鳴りも改善します。しかし、難聴が治らなければ耳鳴りはずっと続きます。まずは耳鼻咽喉科を受診して、適切な治療を受けることが重要です」

 耳鳴りの症状が現れたら1週間以内には受診し、すぐに治療を開始できるようにしたい。

「そういう意味では耳鳴りは一種の救急疾患ともいえますが、痛みがあるわけではありませんし、片方の耳が聞こえていれば会話ができないわけでもないので、半年くらい放置してしまう方も多く見受けられます。しかし、2カ月も経ってしまうと、どのような治療をしても治すのが難しくなってきてしまいます」


耳鳴りになったらどんな治療?

最新の「音響療法」とは

 放置すると危険な耳鳴り。ならないためにできる予防法はあるのだろうか。

「日ごろから意識的に耳をいたわることが大切です。たとえばコンサートに行ってスピーカーの近くの席だったら、近いほうの耳に耳栓を入れる。一定音量で音楽を1時間くらい聴いたら、休みを30分くらい入れるなど、耳に悪い影響を及ぼしそうなものを極力排除するのです。耳はいつも受動的に音を聞いているので、私たちは音によって耳が疲れていることを自覚しにくい傾向があります。だからこそ意識的に耳を休めるのが大切です」

「耳が疲れたから休憩を入れる」のではなく、時間で区切って耳を休ませるようにすることが大切だという。

 また、通勤中に電車や雑踏の中などでイヤホンを使って音楽を聴く場合、騒音の中で聴くためボリュームを上げがちだ。イヤホンではなくヘッドホンを使うほうが周囲の音が入りにくく、音量をある程度下げることができるため耳への負担を少なくすることができる。

 耳鳴りが起こってしまったら、基本的に、原因となる病気の治療と、耳鳴りの苦痛をやわらげるための治療を並行して行う。

「薬に関しては、原因となる病気を治すためには西洋薬や漢方薬、鍼灸などさまざまなものがあります。ただし、耳鳴り自体への特効薬や、耳鳴り止めの薬はありません」

 病気ではない場合、耳鳴りのせいで眠れないから入眠薬を飲む、耳鳴りのせいで気分が優れないから抗うつ薬を飲むというような、耳鳴りが原因で起こる症状に対して薬を処方するしか方法はない。

「今、一番効果的とされているのが、音を音で制する『音響療法』です。小型の補聴器のような機器を装着し、環境音などを使って耳鳴りに慣れさせるのです。これに加えてカウンセリングを行い、耳鳴りへの理解を深めて不安を軽減させます。この2つを合わせてTRT(耳鳴り再訓練法)と呼び、積極的に取り入れる医療機関が増えてきています」

 耳鳴りにならないためには、セルフケアとして耳をいたわる意識を持つとともに、「おかしいな」と思ったら、早めに耳鼻咽喉科で診療を受けることが重要だ。

(監修/オトクリニック東京院長 小川 郁)


リンク先はDIAMOND onlineというサイトの記事になります。


 

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