手話・エイサー・バスガイドに挑戦し、可能性を探る「沖縄お笑い界の怪物ルーキー」<島袋忍さん>◇沖縄芸人ナビFILE.47

手話・エイサー・バスガイドに挑戦し、可能性を探る「沖縄お笑い界の怪物ルーキー」<島袋忍さん>◇沖縄芸人ナビFILE.47

公開日時 2024年07月21日 19:00 更新日時 2024年07月21日 19:00

島袋忍さん(左)とナビ芸人の松田正さんの写真

この記事を書いた人 饒波 貴子


今回話を聞いたのは島袋忍さん。ピン芸人として10年以上活動を続け、手話で喜劇を演じる「劇団アラマンダ」やエイサー団体「吉本橙風太鼓(よしもととうかじだいこ)」のメンバーとしても活躍しています。2023年には試験に合格してバスガイドを始め、「芸人さんがガイドを務めるバスに乗ってみたい」というお客さまを迎え入れたそうです。多方面で活躍する事務所の後輩を、「初恋クロマニヨン・松田正(まつだ・しょう)」さんはどんな風にナビゲートしたのでしょうか。2人のトークをお楽しみください。

 (執筆:フリーライター・饒波貴子)

よしもとエンタテインメント沖縄」所属の島袋忍さん(左)とナビ芸人の松田正さんの写真
「よしもとエンタテインメント沖縄」(http://yoshimoto-entertainment-okinawa.jp/)所属の島袋忍さん(左)とナビ芸人の松田正さん。久しぶりに会った上にゆっくりと話す機会は少ないようで、盛り上がっていました。


声を掛けられ、いろんな組織に所属

松田ナビ:かなり前のことだけど、「大喜利ライブ」を主催した時に忍に出てもらったことを思い出しました。あのころは、今よりもっとキャラクターが強くなかった?

島袋:当時も今も、自称「沖縄が生んだお笑い界の怪物ルーキー」です(笑)。「大喜利ライブ」のことはよく覚えています。養成所を卒業して割とすぐ、芸人活動を正式に始めたころでした。

松田ナビ:「大喜利ライブ」をするにあたって、キャラが強い人を入れたかったんだと思う。はっきり覚えていないけど(笑)、忍はキャラもネタも強めで存在感があったから声をかけたかも。もう10年くらい経ちましたが、あれからどうですか?

島袋:ネタを頑張らないといけないとずっと思っていますが、ネタ以外も頑張らないといけません。

対談をする島袋忍さんとナビ芸人の松田正さんの写真

松田ナビ:いろんな組織にいるから、確かにそう感じさせる。ピーチキャッスルとやっていた、釣りのYouTubeチャンネル「南国ジキシーズ」は動かさないの?

島袋:ピーチキャッスルさんは東京に行っちゃいましたが、メンバーの与儀と僕は沖縄にいるのでまたやりたいと話しています。

松田ナビ:「チャンネル登録者が1万人になるまで、生配信を続けます」という企画だったよね!? 何日目まで粘った?

島袋:シーズン1は、24時間連続で40日くらいやりました。松田さんはじめ芸人さん仲間が遊びに来てくれたので、その時が休憩時間みたいでありがたかったです。松田さんは来なさそうなタイプですが(笑)、来てくれましたね。

松田ナビ:40日生配信しっぱなしだなんておかしくなる(笑)! 遊びに行った1番の理由は、忍が持っていたマネキンを借りてライブで使いたかったから(笑)。泡瀬の海から生配信していたけど、シフト制でやっていた?

島袋:はい。アルバイトがある時は別の人がやるなど、それぞれのスケジュールに合わせて交代していました。家で寝られたのは週に3回くらいで、お風呂に入るために帰ったりしていました。

松田ナビ:それはヤバい(笑)。でも登録者数は伸びたでしょう?

ナビ芸人の松田正さんの写真

島袋:2000人くらいから始まって、最終的には5000人くらいになりました。釣りチャンネルといっていた割には、全然釣れませんでしたけどね。

松田ナビ:他にもいろいろな組織に属しているけど、そこにいる時は自分がこの組織を引っ張っていくぞ! というマインドになりますか?

島袋:誘われることが多いんです。たくさんのことにチャレンジしたい気持ちがあるので、誘われたらなるべく断らないようにしています。

松田ナビ:誘われやすいのも才能のひとつだと思うよ。


手話を学んで気付いた「伝えることの大切さ」

松田ナビ:手話のコメディー集団「劇団アラマンダ」からも声がかかったの?

島袋:はい、劇団を立ち上げる時に座長の(大屋)あゆみさんに声を掛けてもらいました。

島袋忍さんの写真

松田ナビ:お笑いでは行かないような現場もあるだろうし本土にも行く。手話通訳士の方が舞台にいますか? そしてお笑いの感覚とはやっぱり違う?

島袋:全然違います。前は舞台に通訳士の方がいましたが、今は演者だけで手話を覚えてやっています。メンバーの又吉広人さんが脚本を書いていますが、ウケるところがお笑いとは全く違うんですよ。そして台本も手話も覚えるので、めちゃくちゃ時間がかかります。稽古しながらこの場面を変えてみようとか普通にあることですが、そうなると手話も覚え直すので大変です。文化の違いでろう者の方にダジャレが通じなかったりすることもあります。

松田ナビ:なるほど! アプローチを変えなければいけない面があるんだね。どういうボケがウケやすいと感じる?

島袋:見て分かりやすいボケ。エイサーの場面ならチョンダラーが出てきて・・・みたいな感じがウケると思っています。

松田ナビ:キャラが立っているような笑いが伝わりやすそう。手話はどうですか?

手話で喜劇を演じる「劇団アラマンダ」の写真
手話で喜劇を演じる「劇団アラマンダ」の旗揚げメンバーとして活躍中

島袋:最初は「おはよう」もできないレベルでした。「おはよう」という手話は、「朝」と「あいさつ」の組み合わせ。「こんにちは」は顔を時計に見立てて、長針と短針を重ねて12時にします。でもまず単語を覚えて、その上に文法も覚えなければいけません。英語の文法と同じですが難しいですよ。

松田ナビ:すごい! フリートークも手話でやっている!?

島袋:ちょっとした会話ができる程度は覚えました。先輩の寺崎ガザオさんはイジられキャラで、めっちゃ面白いじゃないですか。アラマンダでもイジられるんですけど、手話では反論できないんですよ(笑)。手話を間違えてもイジります。

松田ナビ:「コイツは手話ができないんですよ」とツッコめて、手話でしっかりイジることができるんだね。アラマンダの経験で気付いたことは?

島袋:伝えることの大切さに気付きました。お客さんがどうやったら自分と同じように、このボケを面白がってくれるのか、など考えるようになりました。アラマンダに入る前は、ただ自分がやりたいことをやっていたんです。

松田ナビ:ピンの芸人さんはやりたいことを先行するイメージがある。それもいいけれど、伝えることも重要だと思えるね。手話の練習は最近どんな感じですか?

島袋:基本的には週に1回練習しています。芸人は舞台に向けて稽古するのが多いですが、アラマンダは舞台がなくても週1で集まります。

松田ナビ:それはすごい! 他にもエイサーなどいろいろやっている。

よしもと沖縄の芸人で結成した「吉本橙風太鼓」でエイサーを披露する島袋さんの写真
よしもと沖縄の芸人で結成した「吉本橙風太鼓」でエイサーを披露

島袋:「吉本橙風太鼓」という団体名で、週に1〜2回はエイサーの練習をしています。そしてオリオンリーグの玉代勢さんと、バスガイドもやっています。去年研修を受けて週に1〜2回実車して、座喜味城跡や東南植物楽園など中部を案内するコースを担当しました。お客さんは数人の日もありましたが多い時は30人くらい。今年も秋以降に予定があります。

松田ナビ:バスガイドは、どのタイミングでしゃべる? 長時間しゃべる機会はないでしょう。

2023年から、那覇バスの「定期観光バス」でガイドを担当をする島袋さんの写真
2023年から、那覇バスの「定期観光バス」でガイドを担当

島袋:バスターミナルでお客さまを乗せて、高速での移動中に40分くらい話していますよ。

松田ナビ:40分! そんなに話すことないない(笑)。

島袋:台本がありますし、自分で勉強したことや高速から見える景色についてもガイドします。本土の方が多いですがお城マニアもいらっしゃって細かく質問されるので、めちゃくちゃ勉強しました。座喜味城跡には護佐丸が中国から習ってきた技術が使われていたり、沖縄戦の影響を受けた部分があったり。そして沖縄のお城は台風が来ても雨風をしのぐ構造で曲線が多いなど、いろいろあるんですよ。

松田ナビ:沖縄ならではの特徴を伝えると、マニアの人も喜ぶでしょう。でもお城の知識だけを入れる訳にはいかないし、その土俵だけで戦いたくはないな(笑)。バスガイドの経験でトークは鍛えられただろうね。

笑顔の島袋さんの写真

島袋:渋滞もあるので、30分で着くところが1時間かかったりもして、その分の話題もストックしておかないといけません。大変ですがやって良かったと思っています。今まで自分は沖縄のことを全然知らなかったことに気付きました。

松田ナビ:「しばしご歓談」ってことにできないの(笑)?

島袋:一応芸人ガイドだから、しゃべる空気なんですよ(笑)。「那覇バス定期観光コース」ですからどんなお客さまが利用するのも分からず、鍛えられました。

松田ナビ:ライブ会場みたいで、すごいけど過酷。バスガイドもエイサーもやってアラマンダで手話。激務だな。

島袋:そうですけど、自分はひとつのことだけをできないかもしれないと思うんですよ。いろいろ並行しながらやっているのが性に合っていると感じます。

対談をする島袋忍さんとナビ芸人の松田正さんの写真


種まきしながら全国区に


松田ナビ:「お笑いをやろう」と思ったきっかけを教えてください。

島袋:カメラマンになりたかったんです。それで養成所(NSC沖縄校)のスタッフコースに入ったんですが、芸人コースのネタ見せの授業で1人あまっているからコンビを組んでほしいと先生に言われ、やってみたのが始まりです。

笑顔で語る島袋さんの写真

松田ナビ:カメラマンになりたかった理由はあるの?

島袋:モザイクの裏側を見たかったというか・・・分かりますか(笑)?

松田ナビ:現場の裏側が見たかったってこと?

島袋:そうです!バラエティーなど、現場はどうなっているのか見たかったですね。

松田ナビ:先生にコンビネタをやってとお願いされて、それからも続けたということは、お笑いが性に合っていたということ!?

島袋:「ボディせっけんず」というコンビ名を付け、ネタを見せたらめっちゃウケたんです。ちゃんとウケた訳ではなかったですが東京の講師に「お前らそのままでいい。変わるなよ」と言われ、調子に乗ったんでしょうね。

松田ナビ:あ~好奇の目だ。当時の忍の感じを思い返したら分かる。コンビはどうして解消したの?

対談をする島袋忍さんとナビ芸人の松田正さんの写真

島袋:相方の「まきしまきお」が東京に行きたいと言って、彼は今マセキ芸能社で頑張っています。初めてピンでネタをやったのが卒業ライブで、めちゃくちゃ緊張しました。

松田ナビ:1人でコンビと戦うのは大変! ありんくりんほか強い人たちがいっぱいいたな。

島袋:オーシャン、魁バーバリアン、みんな同期です。それもあって、マネキンを買ったんでしょうね。ヤフオクで5000円、あーずーと名付け今も家にいます。

松田ナビ:まわりが強いコンビばかり。1人だと難儀になる瞬間はなかった?

島袋:ダメなのかもしれませんが、ならなかったんですよ。「大丈夫」と言っていました。NSC沖縄校を3期生として卒業して、ありんくりんはじめ目立つメンバーが「サゴテン団」というユニットでライブを開催して、サゴテンメンバーとそれ以外に分かれた感じでした。

松田ナビ:なるほど。これだけお笑いをやっていたら後は個々の勝負だろうと思うけど、当時はその世界がすべて。

島袋:でも思い出したらイライラしてきました(笑)。

3歳のころの忍さんの写真
3歳のころの忍さん

松田ナビ:分かります。勢いがある方がウケるんだよな。若い人には静かなコントは不利に映るだろうしね。

島袋:又吉広人さんはピンで静かなコントをやっていて、すごいと思いますね。僕は間が怖いんです。し~んと静まったシチュエーションは苦手なので、ずっとしゃべっています。ネタには濃いキャラを付けますしね。

松田ナビ:性格的には照れ屋かな。素の自分を見せるのが恥ずかしい。学生時代はお笑いをやったりしていた?

島袋:小学校のころはクラスみんなで劇をやったりして、リーダーの補佐をする役回りでした。

小学生時代の島袋さんの写真(野球チーム 「武蔵」に所属していました)
小学生時代、野球チーム「武蔵」に所属していました

松田ナビ:現状に近いんじゃない? 団体の中にいるのがしっくりくるのかも。でもいろいろな団体や場所で重宝されて素晴らしいと思います。例えば劇団アラマンダでは、どんな立ち位置ですか?

島袋:座長の大屋あゆみさんの次に手話ができないといけない、という気持ちでやっています。キャラが濃い役をいただくことが多いのでしっかり演じて、最後のトークでは手話があまりできない人のフォローをするくらいまでになりたいですね。

松田ナビ:団体によって立ち位置が違ったりする!? エイサーの時はどんな顔(笑)?

島袋:エイサーは青年会長だったマエショーさんが引っ張ったり、オリオンリーグの剛さんがリーダーみたいな感じだったりしますね。自分はポンコツだと思っていますよ。

松田ナビ:そうだ、ポンコツっぽいキャラなのかと思う時期もあったけれど、今はそうでもない。痩せて変わった?

島袋:5~6年くらい前に座間味島でライフセイバーを2カ月くらいやったんです。そこから約10キロ、体重が落ちました。

松田ナビ:前はもうちょっとぽっちゃりしていて、中性的なキャラや天然っぽいキャラに乗っかっていた。痩せて印象が変わったかもしれないな。浦商出身で野球が得意で映画「沖縄を変えた男」(2016年)は、おいしい役で出ていたね。

島袋さんの写真

島袋:めっちゃおいしかったです。オーディションで監督とプロデューサーに「新しいキャラクターを作っていい?」と言われ、台本になかった役を演じました。暴力シーンが多い作品だったので、中性的な役を入れたかったそうです。

松田ナビ:なかったはずの役を作らせる存在だったんだ、反響もあったよね!?

島袋:ありましたけど、映画館のスクリーンで自分を見るのはめちゃくちゃ恥ずかしかったです。「太田くん、バナナ食べる~?」とか演技をしていて(笑)。

松田ナビ:いろいろ経験してきましたね。「忍は元気かな」と半年に1回くらい思っても、最近会う機会があまりなかったから、普段思い出すことがなかったよ(笑)。深い話ができるのは楽しい。たくさんのことに興味を持ち、いい意味で流動的なのが忍の強みだと思うけれど、展望はありますか?

島袋:全国区になりたいです。芸人として全国区になるのが1番ですが、いろいろな可能性を探っていきたいと思っています。

松田ナビ:そのためにもいろんなところに種をまいているのでしょうね。頑張ってください!




対談を終えて・・・

☆島袋忍☆

意外に楽しかったです。意外と言ったら失礼ですが、昔話もできて良かったしとても楽しい時間になりました。松田さんと話すのは本当に久しぶりでした(笑)。

☆松田ナビ☆

いろいろな可能性を探りながら戦っている姿勢が、とてもうらやましいです。いい意味で肩肘を張らないナチュラルなスタイルだからこそ、なせる技だと思いました。

対談を終えた二人の写真


プロフィール

★島袋 忍(しまぶくろ・しのぶ)

生年月日:1995年5月8日
出身地:沖縄市
趣味:野球観戦、釣り、ゴルフ、プロレス観戦、スキューバダイビング
特技:マネキンを自由自在に操ることができる(ネタで)、野球、ライフガード
X:@shinobu0508oki
Instagram:@shinobu.shimabukuro

★松田 正(まつだ・しょう)/初恋クロマニヨン

生年月日:1984年8月22日
出身地:読谷村
趣味:ソフトボール/漫画
特技:野球
X(旧Twitter):@hatsukoimatsuda


インフォメーション

◆劇団アラマンダ公演「民宿アラマンダ~弟の夢と家族の想い~」

日時:2024年7月27日(土) 18:30開場/19:00開演
会場:沖縄県男女共同参画センターてぃるるホール(那覇市西3丁目11-1)

チケット:前売券 大人2000円/中学生以下1000円(当日券はそれぞれプラス500円)

出演者:大屋あゆみ、島袋忍、マエショー(ピーチキャッスル)、又吉広人、寺崎ガザオ、ゆか(ハイビスカスパーティー)リョウジ(ハナフラワー)
ゲスト:田仲メリアン

※チケットのお求め、詳細は「よしもとエンタテインメント沖縄」または「FANYチケット 劇団アラマンダ」まで
「FANYチケット 劇団アラマンダ」:https://ty.funity.jp/ticket/show/page?clientid=yoshimoto&show=510658&sno=2&skb=1&showno=9

電話:よしもとエンタテインメント沖縄 TEL 098-861-5141


◆初恋クロマニヨンとゲストがネタをたくさんやるライブ「初恋と♡」
日時:2024年7月31日(水)開場19時/開演19時30分

料金:2000円(ドリンク代別)

会場:ライブハウスOutput(那覇市牧志2-3-22 高良産業ビル2階/電話098-943-7031)

出演:初恋クロマニヨン、リップサービス、カシスオレンジ

問い合わせ:よしもとエンタテインメント沖縄 TEL 098-861-5141


◆初恋クロマニヨン 出演中!
QAB「ウチラン UCHINA-RANKING」

ありそうでなかった「沖縄ネタ」を、独自目線で紹介するランキング番組。MCは初恋クロマニヨン。

放送:毎週日曜 午後4時放送(再放送:毎週日曜 深夜0時25分)

公式サイト:https://www.qab.co.jp/uchina-ranking/
公式X(旧Twitter):@UCHIRAN_TV
見逃し配信==> https://www.youtube.com/@UCHIRAN/featured


饒波貴子(のは・たかこ)

那覇市出身・在住のフリーライター。学校卒業後OL生活を続けていたが2005年、子どものころから親しんでいた中華芸能関連の記事執筆の依頼を機に、ライターに転身。週刊レキオ編集室勤務などを経て、現在はエンタメ専門ライターを目指し修行中。ライブで見るお笑い・演劇・音楽の楽しさを、多くの人に紹介したい。


リンク先は琉球新報というサイトの記事になります。
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