予防可能な認知症リスク因子の影響 世界と日本の比較

日本人の認知症「4割予防できる可能性」 どう計算した? 世界との差 私たちは何に気をつければ… 研究した教授が解説

記事のポイント! 

日本人の認知症の38.9%が、生活習慣の改善や治療によって予防できる可能性が示されました。14のリスク因子の中で最も影響が大きかったのは難聴(6.7%)で、運動不足(6.0%)が続きます。特に注目したいのは、重度の難聴だけでなく、聞き間違いや騒がしい場所での聞き取りにくさを伴う軽度・中等度難聴も認知症のリスクと関連している点です。医師への相談や補聴器の適切な使用によって、コミュニケーションを維持することの重要性が指摘されています。

 

2026年10月13日

 難聴や運動不足など14のリスク因子を取り除けば、日本人の認知症の4割は予防できる可能性がある――。こんな研究結果を東海大の和佐野浩一郎教授(耳鼻咽喉科・頭頸部外科)らのチームが今年、英医学誌ランセット関連誌に発表し、注目されています。和佐野教授に研究結果の読み方や分析手法を解説してもらいました。

 

――研究内容・結果について、ポイントを教えてください。

 「認知症の中で、人々の行動次第で『予防できる可能性があるもの』がどれぐらいあるか」について、日本国内のデータを用いて分析した初めての研究です。生活習慣の見直しや治療によって変動しうる認知症のリスク因子(14種類)について、デンマークのコペンハーゲン大学認知症センターと協力して解析しました。

予防可能な認知症リスク因子の影響 世界と日本の比較


 リスク因子別の影響の大きさは、難聴が6.7%と最大で、運動不足(6.0%)、高LDLコレステロール(4.5%)、社会的孤立(3.5%)、糖尿病(3.0%)、高血圧(2.9%)、うつ(2.6%)が続きました。これら計14のリスク因子の影響を合わせると、38.9%という結果になりました。

 生活習慣などによって変動しうる認知症のリスク因子に関しては、英医学誌ランセットの委員会が2024年に公表しています。14のリスク因子を取り除けば、世界の認知症の45%を予防できる可能性があると発表しました。ただ、このときの研究は主に海外のデータを基に世界の認知症への影響を推計したもので、国・地域の差などは考慮されていませんでした。今回の私たちの研究は、この14のリスク因子について、日本の大規模な統計データを用いて、日本社会での影響を解析したものです。

 

リスク比、社会への影響の算出方法

――「認知症を予防できる可能性」という仮定のデータは、どのような分析・計算をして割り出されたのでしょうか?

 まず、世界中の複数の大規模研究(集団追跡調査)を横断的に解析して、「特定のリスク因子を持っている人が、持っていない人と比べて、どれぐらい認知症になりやすいか」の総合値を導き出します。例えば、糖尿病の人は、そうでない人に比べ「認知症の発症リスクが1.7倍になる」といった具合に「リスク比」を算出します。

 そのうえで、分析する集団の中に各リスク因子を持つ人がどれくらいいるか、その割合(保有率)を考慮して、各因子が社会に与える影響の大きさを算出します。「もしそのリスク因子が社会から完全になくなったら、認知症の発症をどれくらい減らせるか」を割り出すわけです。今回の私たちの研究は、「日本社会において、どうなのか」を知るために、国民健康・栄養調査など、日本の統計データを用いて分析しました。

 複数のリスク因子の影響が重なり合う部分もあるので、その点は統計学的に調整して割り出しています。例えば、「運動不足」の人は「高血圧」や「糖尿病」を併発しやすく、「難聴」は「社会的孤立」や「うつ」と相関する面があります。今回の研究結果では、そういった影響の重複を調整・計算した後の数値を示しています。

 確かに、認知症の中には、特有の遺伝子などに起因するものなど、生活習慣の改善だけでは予防したり、発症を遅らせたりすることが難しい部分が少なからずありますが、これまでの様々な研究で生活習慣の中にもリスク因子があることがわかってきました。いわば「生活習慣病」的な部分が、認知症の中に、どれだけあるのかを、このような手法で試算してみた、というわけです。

 

世界全体より低い!? 日本の予防可能性

――2024年にランセットが示した世界全体の予防可能性(45%)より、今回の日本のデータが低く出ているのは、なぜでしょうか。

 日本の高齢化率(65歳以上の割合)は、2024年時点で29.3%。世界で最も高齢化が進んでいる国です。その分、世界全体の予防可能性と比べ、シビアなデータが示されたと考えられます。

 日本の認知症患者数は、2022年時点で約443万人、2050年には587万人に上ると推計されています。高齢化先進国の日本は、認知症大国でもあるのです。日本の認知症対策は、世界各国から注目されています。

 

「運動不足」の影響大きい日本 「難聴」は世界共通

――世界全体と共通する傾向もありますが、影響力が2番目に大きい因子が「運動不足」となった点など、少し異なるように見える所もありますね。なぜでしょうか。

 「難聴」の影響が最も大きい、という点は日本も世界も共通しています。ただ、ここで問題にしている難聴は、会話がほとんど成立しないほどの重度の難聴だけではありません。「聞き間違い」や「騒がしい場所での聞きにくさ」といった身近な症状につながる軽度・中等度難聴でも、認知症の発症リスクが上昇することが報告されていて、注意が必要だということに注目してほしいと思います。

 世界との違いとしては、日本の場合は「運動不足」の影響が大きく出ました。日本のような先進国の場合は、生活の中に組み込まれた運動の時間が少なくなる傾向があるからだと思います。

 一方、世界全体では「教育不足」の影響が4.5%もありましたが、日本では1.5%と低く出ています。日本でも経済力の差から生まれる教育格差が問題視されることがありますが、世界全体と比べると、今のところ、日本は国民への教育が広く行き届いている方の国だと言えるのだと思います。

 世界全体との共通点や相違点を踏まえると、国・地域によって、優先すべき認知症対策が多少異なる、ということになるのだと考えています。

 

――認知症を予防するために、私たちは、何を心がけるべきでしょうか? 日本全体で取り組むべきことは?

 例えば、難聴になると、周囲の情報を把握できなくなり、コミュニケーションが不足することで、脳への刺激も減り、認知症になりやすくなる可能性があると考えられます。難聴になっても、医師に相談して、補聴器などの機器を適切に使用するなどして、コミュニケーションや刺激が不足しないようにすれば、認知症を予防したり、進行を遅らせたりできる可能性が高まると考えられます。

 日本人のデータでは、運動不足の影響が大きく出たので、日常生活の中に、適度に運動する習慣を組み込むことが、とても重要になると思います。個人個人の意識も大事ですが、日本社会全体で、中年期以降の人が運動に取り組みやすくなるような施策も考えた方がよいと思います。運動習慣がある人は、認知症のみならず、高コレステロール血症や高血圧、糖尿病などの生活習慣病も避けやすくなります。

 

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原文掲載元はこちら

 https://www.yomiuri.co.jp/yomidr/article/20260928-GYTET00001/

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