映画『アイ・コンタクト』上映会に、日本代表監督が登場?!監督どうしが時空をこえて女子デフサッカー対談

映画『アイ・コンタクト』上映会に、日本代表監督が登場?!監督どうしが時空をこえて女子デフサッカー対談

佐々木延江
国際障害者スポーツ写真連絡協議会パラフォト代表
9/2(火) 15:37

2009台北デフリンピック試合より 提供:映画「アイ・コンタクト」製作委員会

2009台北デフリンピック試合より 提供:映画「アイ・コンタクト」製作委員会


8月31日、東京都杉並区阿佐ヶ谷のダイニング・バー「バルト」で、映画『アイ・コンタクト』の上映会と中村和彦監督のトーク・交流会が開かれた。第2回上映にはデフサッカー・デフフットサル女子日本代表監督・山本典城氏が来場し、映画監督と現役監督による対談が実現。観客にとって大きなサプライズとなった。

デフリンピックは、聴覚に障害のあるアスリートが世界の舞台で戦う国際スポーツ大会である。パラリンピックより長い歴史を持ちながら、日本ではその存在が十分に知られていない。2025年には東京・福島・静岡を会場に、初めて日本で開催される。大会100周年(第1回大会/パリは1924年)の節目にもあたり、社会に「共生」の意義を問う歴史的な機会となる。

2009年 台北デフリンピックにて 映画「アイ・コンタクト」製作委員会

2009年 台北デフリンピックにて 映画「アイ・コンタクト」製作委員会


今回上映された『アイ・コンタクト』は、2009年台北デフリンピックに初出場した女子日本代表を追ったドキュメンタリー作品である。日本で唯一、デフリンピックを描いた長編映画として知られる。監督の中村氏は、サッカー日本代表のDVD制作を経て、知的障害者サッカーを描いた『プライド in ブルー』を発表。その後、デフサッカーとの出会いに強く惹かれ、「聞こえない世界を理解するには手話を学び、文化を知ることが必要だった」と制作過程を振り返った。

トークでは、当初は「サイレント映画」を構想していたが、実際に出会ったろう者は「口話でよく語る人」が多く、構想が大きく転換したことを明かした。手話講習や読書を重ねながら撮影を進め、現場での理解を深めていったという。また、映画に登場した選手たちのその後についても紹介し、代表を続ける者、ゴルフに転向した者、結婚や引退を選んだ者など、多様な道を歩んでいると伝えた。今秋の東京デフリンピックには、東海林香那、川畑菜奈、ゴルフ代表で中島梨栄ら3人が再び選手として出場する予定である。

映画「アイ・コンタクト」のチラシ 提供:映画「アイ・コンタクト」製作委員会

映画「アイ・コンタクト」のチラシ 提供:映画「アイ・コンタクト」製作委員会


飛び入りで登壇した山本典城監督は、2013年からデフフットサル女子代表を率い、2019年以降は「世界一を目指すには掛け持ちではなく、どちらかに専念して日常からレベルアップを図るべき」との方針を明確に示した。その結果、フットサルに集中する選手が増え、2023年ブラジル大会では女子フットサルを世界一へと導いた。

そして2024年11月、自国開催となる2025年東京デフリンピックでの女子サッカー競技でメダルを狙う強化方針のもと、山本監督はデフフットサルとデフサッカー両代表監督を兼任する打診を受けた。これにより、世界一を経験したフットサル選手の多くが、東京大会に向けてサッカー代表活動にも加わることになった。

2024年11月、Jヴィレッジでアメリカ代表との親善試合で来場者と記念撮影する山本監督(右から3番目) 写真・中村和彦

2024年11月、Jヴィレッジでアメリカ代表との親善試合で来場者と記念撮影する山本監督(右から3番目) 写真・中村和彦

山本監督は「聴者クラブで鍛えられた経験が代表強化につながった」と述べ、東京2025デフリンピックでのメダル獲得に自信をのぞかせた。

中村監督との対話では、映画が映し出した「黎明期」と、現場が積み上げてきた「世界一への現在」が交差した。記録者と指導者の視点が重なり合うことで、女子デフサッカーの歴史と未来への洞察が深まった。

議論は競技の課題にも及んだ。資金不足により2017年トルコ・サムスンデフリンピック出場を断念し、自己負担が続いた苦しい時代があった。2016年には日本障がい者サッカー連盟(JIFF)が設立され、2023年にはユニフォームも日本代表(=なでしこジャパン)と同じユニフォームに統一。日本サッカー協会(JFA)との連携により体制は改善した。中村監督は「かつては報道の間違いが多く、正しい理解を広めることが常に課題だった」と、メディアの乏しさを嘆いていたが、2006年は2.8%(内閣府調査)だった認知度は、現在では38.4%(日本財団)となった。

上映会後のトークでは、両監督と観客が入り交じり、質疑応答が行われた。「共生社会」「資金格差」「結婚観」といった生活に直結するテーマにも話題は広がり、手話通訳や筆記アプリを通じて意見が交わされた。会場は、聞こえる人と聞こえない人が共に語り合う「共生社会」の小さな実践の場となった。

2009年台北デフリンピックでの試合前の円陣 提供:映画「アイ・コンタクト」製作委員会

2009年台北デフリンピックでの試合前の円陣 提供:映画「アイ・コンタクト」製作委員会


東京デフリンピックは、無観客となった東京2020オリンピック・パラリンピックから観客が戻る国際舞台でもある。パラリンピックをきっかけにパラスポーツのファンとなった人々にとっても、あらためてデフスポーツやスポーツの意義を知る入口となるはずだ。東京2020開催をきっかけにアスリート雇用が広がり、デフサッカーやフットサルの選手の中にも競技に集中できる環境が整ってきた。

『アイ・コンタクト』上映と監督どうしの対話は、過去と現在をつなぎ、未来への展望を共有する場となった。100周年を迎える東京デフリンピック本番で、その歩みの続きがどのように描かれるか、現地で確かめてほしい。


<インフォメーション>

これから開催される「アイ・コンタクト上映会」のお知らせ(監督トークなし)
・9月13日(土)みみカレ・シアター
https://mimicollege2025.com/
・9月18日(木)イオンシネマ シアタス調布
https://eiga.com/movie/55234/


<参考>

記事:「ブラジルデフリンピック 未完の戦い」(中村和彦)
https://www.paraphoto.org/?p=36311

映画「アイ・コンタクト」予告編
https://youtu.be/j1Rdo1Iduks?si=Ly-ppVu-A_jpz6xD

東京デフリンピックを紹介する動画(スポーツ庁)
https://youtu.be/ymx5h5J76io?si=pmIRxQtaAeGL0SsH

(この記事は、PARAPHOTOに掲載したものとほぼ同じです)


佐々木延江

国際障害者スポーツ写真連絡協議会パラフォト代表
パラスポーツを伝えるファンのメディア「パラフォト」(国際障害者スポーツ写真連絡協議会)代表。2000年シドニー大会から夏・冬のパラリンピックをNPOメディアのチームで取材。パラアスリートの感性や現地観戦・交流によるインスピレーションでパラスポーツの街づくりが進むことを願っている。


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