東京2025デフリンピックに向けて──「お金をかけない」国際大会から目指す新たなスポーツの価値とは?

東京2025デフリンピックに向けて──「お金をかけない」国際大会から目指す新たなスポーツの価値とは?

佐々木延江
国際障害者スポーツ写真連絡協議会パラフォト代表
6/21(土) 22:52

6月18日に都庁第二本庁舎で開催された、東京2025デフリンピック第2回プレスセミナー会場にて 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生

6月18日に都庁第二本庁舎で開催された、東京2025デフリンピック第2回プレスセミナー会場にて 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生


100年の歴史を持つ聴覚障害者のオリンピックといわれる「デフリンピック」が、今年11月、東京・福島・静岡を舞台に日本で初めて開催される。その第2回プレスセミナーが6月18日、東京都庁で行われた。

第25回夏季デフリンピックは、世界70~80か国から約3000人の聴覚障害のあるアスリートが参加する。開催に向けて行われた今回のプレスセミナーでは、「誰もがつながる大会」を目指す理念や、ろう者の文化と共生社会の実現に向けた取り組みが紹介された。

全日本ろうあ連盟の久松三二・常任理事。デフリンピックの理念について語る 写真・PARAPHOTO・秋冨哲生

全日本ろうあ連盟の久松三二・常任理事。デフリンピックの理念について語る 写真・PARAPHOTO・秋冨哲生


デフリンピックとは?──オリパラよりも長い歴史

デフリンピックは、1924年に第1回大会(パリ)が開催され、2024年に100周年を迎えた。同じ国際パラスポーツでもIOC(国際オリンピック委員会)と共催のパラリンピックとは異なり、ICSD(国際ろう者スポーツ委員会)のもとで自律的に運営されてきた独立した国際大会である。手話やろう者のアイデンティティを大切にする姿勢が国際的に尊重されている。


「スポーツは誰もが力を発揮できる共生の場」


全日本ろうあ連盟の久松三二・常任理事(上の写真)は、開会の挨拶でこう語った。

「デフスポーツの魅力を伝え、人々や社会をつなぐ。誰もが個性を生かし力を発揮できる共生社会の実現を目指す」

3月から始まった全国キャラバンでは、自治体と連携し手話言語の普及やろう文化の紹介を展開。大会を“観に行く”のではなく、“理解し、応援する”姿勢を育てる取り組みが進められている。


音がない世界での応援──新技術と「サインエール」


デフリンピックでは、音声による案内が使えない場面も多い。そこで注目されるのが「ユニバーサル・コミュニケーション(UC)」技術だ。透明ディスプレイや振動スピーカー、スマートグラスなどを活用し、情報を「光・文字・振動」で届ける。

東京都スポーツ推進本部・大会事業推進担当の木村賢一部長は、聴覚障害のある選手・観客・報道関係者を支える「ユニバーサル・コミュニケーション技術(UC)」の導入について紹介 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生

東京都スポーツ推進本部・大会事業推進担当の木村賢一部長は、聴覚障害のある選手・観客・報道関係者を支える「ユニバーサル・コミュニケーション技術(UC)」の導入について紹介 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生


さらに、手話の拍手を応援スタイルに変換した「サインエール」は、視覚的な一体感を生み出す新たな応援文化となるだろう。


観戦は無料、6万人の子どもたちに「知る応援」


大会では6万人を超える子どもたちが観戦を予定しており、事前に聴覚障害やデフスポーツについて学ぶ授業が実施される。ここでも「ただ観戦する」のではなく「理解を深め応援する」ファンを育てる狙いだ。

すべての競技観戦は無料で、会場には中・小規模の体育館も活用され、地域と国際スポーツが直接つながる場となる。そして、東京2020大会ではコロナ禍で実現しなかった「競技の最前線の熱気」を実現することになる。


デフリンピックスクエア──交流と文化発信の拠点に


今回の大会では選手村を設けない。代わりに代々木公園周辺に設けられる「デフリンピックスクエア」が交流拠点となる。練習会場、メディアセンター、文化体験の場が一体化され、選手や市民が自然に交わる空間を創出する計画だ。

東京都スポーツ文化事業団準備運営本部の北島隆COOは、「デフリンピックスクエア」の構想を語った。 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生

東京都スポーツ文化事業団準備運営本部の北島隆COOは、「デフリンピックスクエア」の構想を語った。 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生


「伝える自由と責任」──メディアアクセスの課題も

一方で、手話通訳の音声活用やフォトポジションの整備、撮影者の環境といったメディアアクセスの課題も浮き彫りとなった。「伝えたい」と願う人々の活動を支える仕組みづくりが、デフスポーツの価値を広める鍵となる。


スポーツ基本法改正とデフリンピックの意義


6月13日の参議院で可決し、14年ぶりに改正されたスポーツ基本法では、「障害の有無にかかわらず楽しみを享受する権利」が再確認された。だが現場では、少子化や東京五輪の不祥事の影響でスポーツ離れが加速している。

そんな中、「お金をかけない大会」を掲げる東京デフリンピックは、スポーツの原点と持続可能性を問い直すチャンスの象徴となるだろう。


「語られないまま終わるレガシーを作らない」ために


プレスセミナーには、東京2020パラリンピックを取材した記者たちも多く集まった。スポーツの魅力と文化的背景を正しく伝えること──その責任が、私たち報道に課されている。


(文:佐々木延江、写真:秋冨哲生)
※本記事は、NPO法人国際障害者スポーツ写真連絡協議会「PARAPHOTO」の記事を再構成したものです。


佐々木延江

国際障害者スポーツ写真連絡協議会パラフォト代表
パラスポーツを伝えるファンのメディア「パラフォト」(国際障害者スポーツ写真連絡協議会)代表。2000年シドニー大会から夏・冬のパラリンピックをNPOメディアのチームで取材。パラアスリートの感性や現地観戦・交流によるインスピレーションでパラスポーツの街づくりが進むことを願っている。


リンク先はYAHOO!JAPANニュースというサイトの記事になります。


 

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