「耳の聞こえづらい人」が集まったら… 思う存分「会話を楽しむ」イベントを難聴当事者の記者がレポート

「耳の聞こえづらい人」が集まったら… 思う存分「会話を楽しむ」イベントを難聴当事者の記者がレポート

2025年9月29日 06時00分

難聴を抱え、補聴器を着けるなどして生活していると「聞こえる」人との会話で苦労したり悩んだりすることが少なくない。雑音や話し声が響くような場所ではさらに苦悩は深まる。

そんなつらさを脇に置いて、当事者や支援する人たちが集まり、思う存分おしゃべりを楽しむというイベントが9月中旬、三ノ輪橋ー早稲田間を走る都電荒川線の車両を借り切って開かれた。

偶然その存在を知った難聴当事者の記者(55)も参加し、身をもって「聞こえにくいこと」に向き合った。(中山高志)

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◆配慮しながら話すのが難しい環境だけど…この日は違った


スマホの音声アプリを使い会話する参加者=9月15日、東京都内で

スマホの音声アプリを使い会話する参加者=9月15日、東京都内で

9月半ばとは思えない猛烈な蒸し暑さの15日昼過ぎ、都電荒川線三ノ輪橋駅(東京都荒川区)の前に、約30人が集まった。

記者を含め多くの人は補聴器や人工内耳を着けている。そのせいか、初対面でも会話が弾んだ。

みんなで乗り込んだ都電の車内は、正直やかましい。ガタンガタンという走行音や独特のモーター音。時折「カンカンカン」と遮断器の音も交じる。聞こえにくさを抱える人間にとって、周囲に配慮しながら抑え気味の声の大きさで会話をすることが難しい環境だ。

しかし、この日は違った。

補聴器や人工内耳を着けた人同士で輪ができて、電車の音があっても聞こえる程度の大きな声で話をし、時折遠慮なく聞き返す。

参加者が乗った貸し切りの都電荒川線の車両=9月15日、東京都荒川区で

参加者が乗った貸し切りの都電荒川線の車両=9月15日、東京都荒川区で


あるグループでは、この日の行き先である「あらかわ遊園」について盛り上がった。

「日本で一番遅いジェットコースターなんだって」。

一人が話すと、少し離れた位置にいて聞こえなかった別の人が会話に入ってきた。「えっ、何が?」。とがめるような視線や声はなく、心地のよい空気が車内に流れていた。

午後1時ごろに三ノ輪橋を出発し、早稲田で折り返して午後2時40分ごろに目的地の荒川遊園地前に到着。ホームで電車をバックに全員で記念写真を撮った。その後あらかわ遊園でも観覧車に乗ったりして楽しんだ。


◆「ふだんはこうやって聴覚障害者で話す機会がないから」

イベントを開いたのは、若者を中心に各地の聞こえない人たちがSNSなどでつながって結成したNPO法人「みみトモランド」だ。

立ち上げたのは、看護師で難聴当事者である高野恵利那さん(28)。

走行音などがする車内で会話を楽しむ高野さん(右から2人目)ら参加者=9月15日、東京都内で

走行音などがする車内で会話を楽しむ高野さん(右から2人目)ら参加者=9月15日、東京都内で


「聴覚障害の悩みを話したくても話せない」との思いから2023年、家でも学校でも職場でもない「サードプレイス」として、インターネット上の仮想空間「メタバース」に聴覚障害者のコミュニティを立ち上げた。

2024年に法人化し、ネット上とリアル社会双方で活動を展開している。

この日の参加者は20~30代の人が目立ち、ほとんどは聴力に何らかの障害や課題を抱える人だった。

「聴力は何デシベルですか」「補聴器はどこのメーカーを使っているの」「人工内耳の手術について教えて」

話題の多くは、それぞれの聴覚障害やコミュニケーション手段などについてだった。「ふだんはこうやって聴覚障害者で話す機会がないから」と一人は笑みを浮かべた。


◆参加者たちと話すことで伝わってきた「日々の悩み」

記者が手話やスマホの文字も交えながら参加者と話をしていくと、日々の悩みが伝わってきた。

音声アプリを駆使しながら会話する男性(35)は、聴覚障害で「人と会うのがおっくうになる」と思いを打ち明けた。聴覚過敏を抱える50代女性も「飲み会やファミレスでの会話が苦手」と話した。

音声アプリで取材に答える参加者=9月15日、東京都内で

音声アプリで取材に答える参加者=9月15日、東京都内で


人工内耳を装着する男性(29)は、当初は緊張気味だったが、次第にうち解けて楽しんでいた。記者の質問にスマホの音声アプリで「ふだん難聴者と話す機会がほとんどなくて、今日は交流できて楽しかった」と答えた。

高野さんとSNSで知り合い、運営に参加しているNPO法人理事の国友映里さん(28)も「若い人同士で集まる機会はなかなかなく、やってよかった」とうれしそうだ。

「みんなが電車に乗って『シーン』となってたら、どうしようかと思っていて」。あらかわ遊園を出たところで、高野さんが感想を笑顔で語った。

「聞こえる人も巻き込みながら『聞こえにくさ』を伝えていくことが、難聴者が生きやすい環境づくりにつながっていくと思う」


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