耳鳴り患者の9割が難聴を併発。“脳の興奮”が引き起こす耳鳴りのメカニズムとは

耳鳴り患者の9割が難聴を併発。“脳の興奮”が引き起こす耳鳴りのメカニズムとは

2025.08.12

聴覚の名医が教える、聞こえが劇的によくなる方法(2) 耳の疾患のなかでも多くの人が悩まされている難聴。併発しやすい耳鳴りも、実は難聴と同じく脳の状態に原因があります。耳鳴りが起こるメカニズムと対処法について、『難聴・耳鳴りの9割はよくなる』(新田清一著、世界文化社刊)より解説します。・前回の記事はこちら→


音を補うために脳が興奮すると耳鳴りが起きる

耳鳴りは難聴と密接に結びついた病気で、耳鳴りに悩む人のおよそ9割が難聴を併発しているというデータがあります。

老化により聴覚機能が低下する「加齢性難聴」では、一般的に高音域の音から聞こえにくくなります。すると、脳は高音域の音の電気信号が弱まっているぶんを補おうとして活動が高まり、過度に興奮した状態になります。その結果、「キーン」という耳鳴りが生じるわけで、「耳鳴りは脳で鳴っている」といえます。


■耳鳴りが発生するメカニズム

耳鳴りが発生するメカニズム

このメカニズムは加齢性難聴以外にも当てはまります。難聴になる病気は、総じて耳鳴りを引き起こす可能性があると考えてよいでしょう。

病気の種類や難聴の進行度によって、たとえば低音域が聞こえにくくなれば「ゴーッ」「ブーン」という耳鳴りになります。全体的に聞こえが悪くなっている人は「ザーッ」というテレビのノイズのような音や、「ジーッ」というセミの鳴くような音が聞こえます。

いずれにしても、「耳鳴りの生じる背景に難聴がある」と理解することが大切です。


耳鳴りが悪化していく負のサイクル

耳鳴りが聞こえ始めると、脳は正体不明の音に注意を向け、不安を感じるようになります。気づけば「今日も音が鳴っているか」「今日の耳鳴りの大きさはどうか」と、一日じゅう耳鳴りに意識を向けるようになってしまいます。

両耳をおさえる女性

その結果、耳鳴りが治らない不安にかられたり、仕事に集中できないイライラが募ったりしてストレスが増加。苦痛が強まり自律神経が乱れて、耳鳴りはだんだん治りにくく悪化していきます。


正しく理解するだけで耳鳴りの5割が改善

しかし、ネガティブに受け止めすぎることはありません。現在、このように耳鳴りの発生メカニズムははっきりわかっているため、その治療の方向性もはっきりしてきました。

まずは患者さんにカウンセリングを行い、先ほど述べた「耳鳴りの発生メカニズム」と「悪化するサイクル」についてお話しします。

患者さんが耳鳴りのメカニズムを知ると、「心配していたほど重大な病気ではない」と理解します。すると次第に耳鳴りへの不安や心配が軽減し、どんどん悪くなる負のサイクルから抜け出すことができるようになるのです。

症状がそれほど重くない人であれば、カウンセリングだけで耳鳴りが気にならなくなり、治療はそこで完了します。たとえ静かな場所に行って耳鳴りが聞こえたとしても、「体に大きな害はないから大丈夫」と思えて苦痛を感じなければ、それは「治った」といっていい状態ではないでしょうか。こうして、カウンセリングだけで約5割の人の耳鳴りが治っています。


補聴器で耳鳴りの9割はよくなる

一方、症状の重い耳鳴りの患者さんは、カウンセリングだけでは治りきらないこともあります。難聴を併発している人の場合は、補聴器を使ったトレーニングが有効です。

耳かけ型補聴器をつけた女性

繰り返しになりますが、耳鳴りの発生メカニズムは、①ある音域が聞こえにくくなると、その音域の電気信号が脳に入らなくなる、②足りない音域を補おうとして脳が興奮し、耳鳴りが起こる、というものです。

そこで、検査でどの音域が聞こえにくくなっているかを確認したうえで、足りない音域に音が聞こえるよう、1人ひとりに合わせて補聴器を調整します。調整した補聴器を装用すると、今まで音の電気信号が伝わっていなかった音域に信号が届くようになるため、脳の興奮が治まり、耳鳴りが落ち着きます。

済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科の608人の耳鳴りの患者さんに、この補聴器リハビリを行ったところ、6カ月で9割以上の人がよくなるという結果が出ました。耳鳴りはけっして治らない病気ではないのです。

なお、補聴器リハビリのより詳しいやり方は、下記の書籍に掲載されています。


新田清一先生

新田清一先生

しんでん・せいいち 済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科主任診療科長・聴覚センター長、“聞こえる”プロジェクト代表。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学医学部耳鼻咽喉科学教室入局。同教室助手、横浜市立市民病院耳鼻咽喉科副医長などを経て、2004年より現職。専門は聴覚医学(耳鳴り、補聴器、小児難聴など)、耳科学(中耳手術、人工内耳診療など)。


「宇都宮式補聴器リハビリ」の第一人者・新田清一博士が、誰でも実践できる補聴器の使い方を解説します

新田清一『改訂版 難聴・耳鳴りの9割はよくなる』

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イラスト/あべゆきこ 写真/PIXTA ※この記事は、新田清一『改訂版 難聴・耳鳴りの9割はよくなる』を再構成しています。


リンク先は家庭画報.comというサイトの記事になります。


 

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