「血圧やコレステロールの数値はあまり気にしなくてOK」「腰痛や難聴は重い病気のサインかも」 放っておいていい老化・見逃すと危険な老化【高齢者医療の専門医監修】

「血圧やコレステロールの数値はあまり気にしなくてOK」「腰痛や難聴は重い病気のサインかも」 放っておいていい老化・見逃すと危険な老化【高齢者医療の専門医監修】

2025.06.25 07:00

 全国の100歳以上の高齢者が過去最多を更新したという。日本人の平均寿命が年々延び続けているいま、老化との向き合い方が人生の充実度を決める。体の衰えは必然だが、比較的そのままにしておいて問題ない症状と、すぐに医療機関を受診すべき症状の見分け方を高齢者医療の専門医が解説する。

両手でこめかみをおさえる年配の女性

老いは必然だからこそ、全ての老化現象に悩まないで


教えてくれた人

長尾和宏さん/医師・長尾クリニック前院長、内山安男さん/順天堂大学大学院医学研究科老人性疾患病態・治療研究センター長、和田秀樹さん/高齢者専門の精神科医、石渡俊行さん/東京都健康長寿医療センター研究所・研究部長


人間は年齢とともに免疫機能も低下してく


 死を恐れ、不老不死の薬を探し求めた秦の始皇帝はある真夏の日、巡幸を終えて都への帰路、突然不帰の人となった。世界史上に燦然(さんぜん)と輝く大帝国の主ですら、不老不死を手に入れることは叶わなかった。

 老化は全身にさまざまな現象を引き起こす。長尾クリニック前院長で医師の長尾和宏さんが言う。

「脳が老化すると、神経細胞が減って、脳が萎縮して認知症になります。心臓の心筋細胞が老化すると、心臓が収縮しなくなってポンプ機能が低下し、慢性心不全になってくる。腎臓は機能が落ちると尿を作る能力が低下し、半分以下になると、腎不全になります」

 年齢とともに、免疫司令塔の胸腺が萎縮して、免疫機能も低下するという。

「誰でも毎日、体の中でがん細胞が生まれていますが、NK細胞や白血球、リンパ球が退治してくれるのでがんの発症が抑えられています。しかし免疫力が低下するとがんになりやすく、亡くなる人も増える。誤嚥(ごえん)性肺炎や感染症で亡くなりやすくもなります」(長尾さん)


女性ホルモンの減少は35才頃から


 女性の老化には、女性ホルモン「エストロゲン」の減少が大きく関係している。順天堂大学大学院医学研究科老人性疾患病態・治療研究センター長の内山安男さんが解説する。

「35才頃から女性ホルモンの低下が始まると、コラーゲンやエラスチンの減少により、皮膚が乾燥しやすく、シミやしわが増える。髪のボリューム低下や白髪が増えるなどの症状も出ます。40代以降は病的に骨密度が低下して骨粗しょう症のリスクも増え、加齢で筋肉が減る『サルコペニア』になると、骨粗しょう症と相まって骨折しやすくなります」

 女性特有の尿もれも、老化現象のひとつだ。

「エストロゲンは膀胱(ぼうこう)や尿道の組織を維持する働きがあり、低下すると組織の弾力性が失われ、尿もれしやすくなる。出産や加齢による骨盤底筋の緩みや尿道の変化も尿もれの原因です」(内山さん)


老化は自然現象 数値を意識しすぎず、老いを受け入れて

 いくつもの老化現象に悩まされるが、実は健康寿命を延ばすためには対処すべきものと、放置していいものがある。 高齢者専門の精神科医である和田秀樹さんは、老化を過度に恐れる必要はないという。

「“高齢だから仕方がない”とあきらめずに、少し努力すれば健康長寿につながることはあります。ただ一方で、老化は自然現象です。神経質にならずに老いを受け入れることで、幸せに過ごせることもあります」

 和田さんは「数値を意識しすぎない方がいい」と続ける。

「代表例は血圧です。高血圧の診断基準は140/90mmHgですが、この数字に明確な裏付けはありません。人は加齢によって血管の壁が厚くなるので、全身に血液を送るために自然と血圧が高くなります。老化による“自然現象”なのに、降圧剤をのんで無理に下げようとすると頭がぼんやりするなどの副作用が出やすい。思わぬ転倒や事故にもつながるので、注意が必要です。血糖値も同じで、数値が高いからと薬をのむと、急激な低血糖を招いて意識障害や発作、最悪の場合は死につながることもあります」(和田さん・以下同)

血圧を測る年配の女性

血圧が高くなるのは自然現象


 老化による高コレステロールも、過度に対処する必要はないという。

「閉経後はエストロゲンが減少するので、コレステロールの値が上がりやすい。病院に行くとスタチンなどの薬を処方されることがありますが、コレステロールは免疫細胞の材料なので、不足すると免疫力が低下しがんになるリスクが高まると指摘されています。よく『高コレステロールは心筋梗塞のリスクを上げる』といわれますが、日本人はアメリカ人と違って、心筋梗塞よりもがんで亡くなる人が12倍も多い。無理に下げるべきではありません」

 骨粗しょう症対策も、安易に行うべきではない。

「予防薬はあまり効かないうえに、胃腸障害などの副作用を起こしやすい。みなさん、骨量を増やそうと数値を気にしがちですが、痛みがないなら薬をのむべきではありません」


老化現象に抗いすぎると逆効果ということも


 体の不調だけでなく女性が気になるのは、老化に伴う見た目の変化だ。シミやしわ、多くの場合は年齢とともに体形は変化し、脂肪がつきやすくなってくる。でも老化に抗うことで、健康を害することもある。

「過度な糖質制限や低栄養によるダイエットで体形を維持しようとするのはやめましょう。筋肉量が減少してサルコペニアや健康と要介護の間である『フレイル』になるリスクが高くなります。女性の場合、(体重kg)/(身長m×身長m)のBMIを、21〜25に維持してください」(東京都健康長寿医療センター研究所・研究部長の石渡俊行さん)

 和田さんも言い添える。

「女性は40代以降太りやすくなりますが、問題ありません。少し太っている人はやせている人に比べて、6〜8年寿命が長いことがわかっています。加齢による体重増加は放っておきましょう」

気にしすぎなくていい老化現象

気にしすぎなくていい老化現象


この症状はセーフ?「気にしすぎなくていい老化現象5」

【1】高血圧

 血圧が上がるのは加齢とともに血管の壁が厚くなることへの適応現象。血圧を下げる薬には効果が期待できないうえ、頭がぼんやりするなどの弊害がある。

【2】高血糖値
 血糖値は低い方が危険。血糖値が50mg/dL近くまで下がると発作が起き、強い苦しみが襲うなど危険な状態に。

【3】高コレステロール
 閉経後はエストロゲンの減少に伴いコレステロール値が高くなる。コレステロールは免疫細胞の材料であり、コレステロール値が高い人ほどがんになりにくいという研究もあるため、無理に数値を下げなくてよい。

【4】軽度肥満
 やせすぎは太めの人と比べて6~8年寿命が短く、軽度肥満の方が長生きする。年齢を重ねると筋肉が落ちて脂肪がつくのは自然なこと。脂肪を落とすと免疫機能が落ちてしまう。脂肪がない体は免疫細胞を作れないため、がんになりやすい。

【5】骨粗しょう症
 予防薬はあまり効果がなく、胃腸障害などの副作用を起こしやすい。服薬は痛みがあるときのみにする。


見逃してはいけない「老化サイン」。体の痛みや難聴はがまんしない

 一方、ひざや腰の痛み、動悸、息切れなどのつらい症状は見過ごせない。

「動悸や息切れの根本原因には心不全が隠れていることがあります。病院を受診し、経過観察や治療を推奨します。ひざや腰の痛みも“高齢だから仕方がない”と言う人がいますが、薬でとれる痛みはとった方がいい。がまんすれば免疫力が下がります」(和田さん)

 石渡俊行さんは、健康寿命を延ばしたいならフレイルは放置すべきではないと話す。

「フレイルは栄養や運動不足が原因で発症します。そのままにしておくと、要介護リスクが高くなる。対処すれば進行を防ぎ、改善することも可能です」

 音が聞こえづらくなる加齢性難聴も、何もしなければ認知機能の低下を招く。

「多くの場合、加齢性難聴は、高い音から両耳が聞こえにくくなります。耳鼻科を受診して、早めに補聴器をつけて聴覚のリハビリを行うことで、社会的孤立、抑うつ、認知機能低下などの予防ができます」(石渡さん)

 頻尿や尿もれもうまく対処することで、日々の幸せ度がアップする。

「夜中、数時間おきにトイレに行くようなら、寝る数時間前は水分を控えるなど対策をした方がいい。ただし夏は脱水症になりやすいので、減らしすぎないこと。女性の尿もれは、骨盤底筋を鍛える運動や、薬物療法が有効です」(内山さん)

 長尾さんは、老化現象の中には重大な病気が潜んでいる可能性を常に頭に置いてほしいと話す。

「急なシミの増加にはがんの可能性があるし、腰痛も腰椎の圧迫骨折、肺がんの腰椎転移、大動脈解離などが隠れていることがある。急に物忘れが激しくなったということなら、甲状腺機能低下症や慢性くも膜下血腫ということもあるので、おかしいと感じたら病院に行ってください」

放置してはいけない老化現象

放置してはいけない老化現象


ただちに受診を!「放置してはいけない老化現象5」

【1】動悸、めまい、息切れ

 加齢に伴う動悸は、動脈硬化の進行など心臓の老化によって起こっていることも。息切れの原因は心臓の老化。

【2】急な認知機能低下
 物忘れなど認知症のような症状が進んだという場合は甲状腺機能低下症、慢性くも膜下血腫などの可能性が。神経難病の始まりだったということもあり得る。通常、認知症は5年〜数十年という期間でゆっくりと進行するもので、1か月で大きく症状が進むことはない。

【3】フレイル
 栄養不足、運動不足、持病が原因になって発症しやすい。歩行者用信号を青信号の間に渡りきれなくなったり、ペットボトルのふたを自分で開けられなくなったら要注意。フレイル外来などを受診して治療を。

【4】腰痛
 腰痛には、腰椎の圧迫骨折、肺がんの腰椎への転移、腎臓がん、大動脈解離など、命にかかわる病気のサインのこともある。

腰をおさえる人

腰の痛みには重い病気が隠れている可能性も

【5】難聴

 早めに補聴器をつけたり、聴覚のリハビリを行うことで、社会的孤立、抑うつ、認知機能低下の予防を。

【6】頻尿
 日中に8回以上、または、夜間に1回以上の排尿があることをいう。尿路感染症、糖尿病などが原因の場合もあるため、日常生活に支障をきたす場合には、早期に泌尿器科で検査を。


カラオケで歌うと脳、心臓、肺が元気に


 残念ながら若返りの特効薬はないが、生活習慣で老化を遅らせることはできる。老化を遅らせるには、体を酸化させないことが大事だと長尾さんは言う。

「活性酸素が増えると体が酸化して、老化が早まります。たばこは活性酸素を大量に発生させるので、禁煙はマスト。過度なストレスも活性酸素を増やすので、好きなことをして楽しむ時間をとりましょう」

 軽い有酸素運動は健康にいいものの、石渡さんは、過度な運動は避けてほしいと語る。

「関節炎や骨折の危険、不整脈などの発生リスクが高くなります。プロテインやサプリメントの過剰摂取もよくありません。肝臓や腎臓への負担となり、新たな疾患を生む可能性が高まります。自費診療の再生医療など、非科学的な若返り治療にも気をつけてほしい。現時点で科学的に実証された若返り法はありません」

 楽しめる習慣を生活に取り入れるのもいい。

「ウオーキングのような軽度な運動は、免疫力を強化して、老化のスピードを緩めます。カラオケなどで歌うこともおすすめ。脳や心臓、肺を使います。立って歌えば足腰も鍛えられるでしょう」(長尾さん)

 石渡さんは、過度に紫外線を浴びないよう予防に力を入れてほしいと話す。

「紫外線は細胞の炎症と酸化を引き起こすので、老化に強烈な影響を与えるといわれている。シミやたるみの原因にもなります」

 体の糖化を防ぐことも重要だ。

「米や麺類などの炭水化物を摂りすぎると最終糖化産物(AGEs)が増えて体の糖化が進み、糖尿病などの病気を引き起こします。食事はたんぱく質、炭水化物、脂肪のバランスを保ち、偏らないように。抗酸化作用のあるビタミンCやDHAはサプリメントで摂ることもできますが、できれば新鮮な野菜や魚を食べてください」(長尾さん)

 放置すべき老化、放置すべきでない老化の見極めが、健康長寿につながる。

写真/PIXTA

※女性セブン2025年7月3・10日号
https://josei7.com


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