補聴器で聞こえない重い難聴、人工内耳の選択肢 術後リハビリも大切

補聴器で聞こえない重い難聴、人工内耳の選択肢 術後リハビリも大切

松本千聖2025年11月16日 11時00分

 耳は、おおまかに外耳、中耳、内耳に分かれ、それぞれの部位の働きが連なって音を感じる仕組みになっている。

 音は空気の振動として外耳に届き、鼓膜を震わせ、中耳の耳小骨で増幅される。さらに内耳の蝸牛(かぎゅう)という器官で振動が電気信号に変換され、聴神経から脳に伝わって音を感じ取る。

耳のつくりと難聴

耳のつくりと難聴


 難聴には二つのパターンがあり、外耳や中耳の機能が正常でなくなると、音が伝わらず小さくしか聞こえない伝音難聴になる。中耳炎などが原因となる。

 一方で、内耳の蝸牛や聴神経がうまく働かなくなるのが、感音難聴だ。小さく聞こえるだけでなく、音が割れて聞こえたり、響いた感じがしたりする。遺伝性や、加齢性の難聴があてはまる。

 伝音難聴と感音難聴が混ざった混合難聴もある。


人工内耳、手術の対象になる人は


 小さくしか聞こえない音を聞こえるようにするには、マイクのような役割の補聴器が有効だ。だが、感音難聴が進行すると補聴器では聞き取りが悪くなってくることもある。補聴器で効果が認められない重い難聴の人では、人工内耳という治療法がある。

 人工内耳は、体内に埋め込む内部装置と、耳に引っかけるように着ける外部装置から成る。外部装置が音の情報を処理して内部装置に送る。すると内部装置が、受け取った信号を蝸牛に挿入された電極に送り、聴神経が刺激されて音を感じられる。

人工内耳の外部装置。集音した音の情報は、皮膚の下に埋め込んだ内部装置を通じて聴神経へと伝わる

人工内耳の外部装置。集音した音の情報は、皮膚の下に埋め込んだ内部装置を通じて聴神経へと伝わる


 内部装置の埋め込みは、全身麻酔での手術になる。手術は国内では年間1千件ほど行われていて、先天性の難聴や、若年発症の難聴の治療として行われることが多い。加齢性の難聴で行うケースもある。

 国際医療福祉大学三田病院聴覚・人工内耳センターの高橋優宏部長は「人工内耳で聞こえるようになることで、周りとのコミュニケーションが豊かになる。補聴器では聞こえなくなった感音難聴の人にとっては唯一の、有効な治療選択肢だ」と話す。

 関連学会が人工内耳の適応基準を示しており、成人の場合は、両耳で、裸耳での聴力検査で平均聴力が90デシベル以上の重度感音難聴であることや、70デシベル以上90デシベル未満でかつ補聴器を着けても言葉の聞き取りが50%以下の高度感音難聴であることなどが条件になる。

 重度難聴は自分の耳ではほとんど音が聞こえない、高度難聴は非常に大きな音でないと聞こえないことなどが目安となる。

 また、手術では、頻度は少ないが味覚障害などの合併症のリスクがある。人工内耳の装着者では、MRI検査や激しいスポーツに制限があるなど、生活上の注意もある。


手術後のリハビリ 「マッピング」で調節


 手術すればすぐに順調に聞こえるようになるわけではなく、頻繁な通院でのリハビリが必要だ。

 手術後、2週間後をめどに、まずは装置の電源を入れる「音入れ」が行われる。さらにそこからリハビリを行う。リハビリは「マッピング」と呼ばれ、それぞれの耳の状態に合わせ、複数のチャンネルを持つ人工内耳の電極に、どのように電気信号を送るかを言語聴覚士が細かく調節していく作業。単音節や文章、静かな環境や雑音の中など、様々な条件で聞こえをチェックする。

 高橋さんは「最初の聞こえで違和感があっても、回を重ねると以前と変わらない聞こえ方になる人もいる」と話す。同院では、月1回の通院がしばらく続き、安定すると3カ月~1年に1回程度になる人もいるという。

 人工内耳の手術は限られた医療機関でしか受けることができない。日本耳科学会が実施施設一覧を公表している(https://www.otology.gr.jp/about/auditory.php)。


難聴になって20年超、会話も困難に 人工内耳で「聞こえる!」驚き

国際医療福祉大学三田病院聴覚・人工内耳センターの高橋優宏部長=東京都港区

国際医療福祉大学三田病院聴覚・人工内耳センターの高橋優宏部長=東京都港区


リンク先は朝日新聞というサイトの記事になります。


 

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