障害者への向き合い方を学ぶ「検定」今注目の理由

障害者への向き合い方を学ぶ「検定」今注目の理由

浦和レッズスタッフも受検「必要性を感じた」

福原 麻希 : 医療ジャーナリスト
2025/02/03 14:00

障害がある人などとの向き合い方、学ぶ方法があります(写真:Fast&Slow/PIXTA)
障害がある人などとの向き合い方、学ぶ方法があります(写真:Fast&Slow/PIXTA)


2024年4月、「障害者差別解消法」が改正され、国の行政機関や地方公共団体だけでなく、事業者(一般企業など)でも障害がある人への合理的配慮の提供が義務化された。

改正障害者差別解消法のポイントは2つ。

1つは、障害を理由にサービスの提供を拒否したり、サービスの時間帯や場所を制限したり、障害のある人にだけ条件を付けたりする、「不当な差別的取り扱い」を禁止すること。

もう1つは障害のある人から何らかの対応を求められた場合、過重な負担のない範囲で対応することや、対応内容について話し合い、対応できないことがある場合はその理由を伝えることを、法的に義務づけている。これを「合理的配慮の提供」という。


どんな場面でどう対応すればいいか

そうとはいえ、実際にはどんな場面で、どのような対応をすればいいかわからない人も多いだろう。

そんなときに株式会社ミライロ(大阪市、以下ミライロ)の「ユニバーサルマナー検定」がとても参考になったと好評で、これまで1000社以上の企業が社内研修として導入している。どんな内容の研修だろうか。

ユニバーサルマナー検定は、ミライロが考案したものだ。

ユニバーサルマナーとは、「自分とは違う誰かのことを思いやり、適切な理解のもと行動すること」という意味で、同社が名付けた。障害のある人、高齢者、妊婦、子ども連れ、外国人など、多様な人と向き合うときには、さりげない配慮を心がけながら積極的に歩み寄ってほしいという思いが、この検定に込められている。

同社の垣内俊哉代表取締役社長は、遺伝性の骨形成不全により歩くことができなくなり、幼少期から車いすを用いて生活してきた。そんな経験をもとに検定は開発された。

「これまで何度も世界各国を視察した経験から、日本は世界の中でも、先進的に建物や道路、公共交通機関などのバリアフリー化が進んでいる。一方で、ブラジルで体験したように明るくフレンドリーな雰囲気で障害のある人に声をかけてくる人は、日本人には少ないと感じています」と話す。

垣内氏
垣内氏。2010年、立命館大学経営学部在学中にミライロを設立した(写真:編集部撮影)


知っているだけでかっこいい

垣内氏の著書『バリアバリューの経営 ―障害を価値に変え、新しいビジネスを創造する』(東洋経済新報社刊)
垣内氏の著書『バリアバリューの経営 ―障害を価値に変え、新しいビジネスを創造する』(東洋経済新報社刊)


日本のバリアフリーが「惜しい」のは、障害者と接する機会が少ないことから、人々の意識にバリア(障壁)があることだと垣内さんは指摘する。

そこで同社では、「障害者が『何に不便を感じ』『どこでサポートを必要とするか』といった基本的な知識があれば、声をかけやすくなる」「たとえ、コストや構造の問題でハードが変えられなくても、人々のハートは変えられる」と考え、ユニバーサルマナー検定を推進してきた。

垣内さんは「最低限のマナーを知っているだけでかっこいいよね、ぐらいの感じです」と言う。

ユニバーサルマナー検定では、多様な人を理解するとともに、どんなアクションを起こせばいいかを3段階のステップ(3級、2級、1級)で学ぶ。

3級では「人と人との違いを理解し、基本的な向き合い方や声がけ方法」、2級では実践的なサポート方法の実技と「特性に応じたより詳しい知識」、1級では「当事者のリアルな体験を通して、それぞれの価値観や世界観を知る」の講義を受ける。


障害のある講師が体験を語る

2024年12月に筆者は3級を受講した。講義の前半はユニバーサルマナーの基本的な知識を座学で、後半は場面別の対応法について、テキストを見ながらグループワークで話し合った。

例えば、「車いすの人が建物の構造上などで、階段で移動しなければならないときは、どのように車いすを支えればいいか」「視覚障害のある人が移動するときは、どのように案内をすればいいか」「聴覚障害のある人と筆談するときは、どんなことに気を付けたらいいか」などについて、その理由も含めて考えた。

座学だけでなく、受講者が話し合うことによって、お互いの経験や視点を知ることができ、楽しく学べた。

また、3級では垣内さんをはじめとする障害のある講師が自身の体験談を交えながら話す。

筆者が受講したときに講師を務めた薄葉ゆきえさんは、幼少期に肺炎にかかった後遺症で難聴となり、手術で人工内耳を埋め込んでいる。講義では集音マイクや文字情報に変換するアプリを活用し、受講者とスムーズにコミュニケーションを取る姿が印象的だった。

ユニバーサルマナーの講義を担当する薄葉さん(写真:筆者撮影)
ユニバーサルマナーの講義を担当する薄葉さん(写真:筆者撮影)※ユニバーサルマナー検定についての詳細はこちらをご覧ください


3級は座学とグループワーク終了後に、認定証を受け取る。

2級は受講後に選択問題形式の試験があり、100点満点中70点を取れば合格する。1級は受講後、レポート試験を受けることで合否が決まる。講義で聞いたことを確認する意味で、試験はとてもよい機会になる。

2013年から始まった同検定は、10年間で受講者が約23万人(2024年12月時点) になった。

スタート初回の受講者は5人だったが、垣内さんを含めた社員4人が大阪から深夜バスで上京し、企業に研修を普及させるための飛び込み営業を続けた。

7年経った頃、ようやく認知度が高まり、大手企業からも継続的に研修依頼がくるようになった。現在は主に金融機関や、結婚式場などの冠婚葬祭業者、ホテル・旅館などの宿泊施設 、大学やエンターテインメント業界から声がかかる。


きっかけは盲導犬を連れた人の観戦

サッカーJ1リーグの浦和レッズ(浦和レッドダイヤモンズ株式会社、さいたま市) も、社内研修にユニバーサル検定を導入している。

同社のクラブ理念に掲げる「安全・快適で、熱気ある満員のスタジアム」において、誰もが楽しめるスタジアム「レッズワンダーランド」を実現するためには不可欠な知識として、雇用形態にかかわらずスタッフ全員を研修の対象としている。

きっかけは、2021年、埼玉スタジアムの試合に盲導犬を連れた人が試合観戦に訪れたことだった。

身体に障害のある人をサポートする身体障害者補助犬(盲導犬・介助犬・聴導犬)は、法律に基づいて訓練施設で育成され訓練を受けたあと、指定された法人で認定されている。特に不特定多数が利用する施設では、ユーザーが補助犬を連れている場合、受け入れる義務がある。

しかし、運営側にとっては初めてのできごとだったこともあり、「周囲の方にも配慮して、別の席にご案内すべきではないか」「盲導犬をお預かりしたほうがいいのではないか」「犬のトイレはどうしたらいいか」など、短時間でさまざまな判断を迫られた。

試合終了後、クラブスタッフは「我々ができることは何だったんだろう」「適切な対応を学びたい」と、公益財団法人日本盲導犬協会(東京・渋谷区)によるセミナーを受講した。

同社コーポレート本部総務担当の柳紫乃課長は、「受講してわかったことは、『正しい知識を身につけていない場合、差別にもつながりかねない対応を無自覚にしてしまう可能性がある』ということでした」と振り返る。

その後、同社はマニュアルを作成した。スタジアムでも、補助犬を連れた人は購入したチケットの席に座る権利があるため、来場時は通常通りに案内する。犬は座席の下に座ってもらう。近くの座席に犬アレルギーの人がいる場合は、スタッフが仲介して、別の場所が調整できるようであれば、対応する。

さらに、そのときの対応が適切か、定期的に補助犬ユーザーを試合観戦に招待して、フィードバックをもらっている。その都度、マニュアルも更新するという。

埼玉スタジアム。足元にいるのが盲導犬(写真:@URAWA REDS)
埼玉スタジアム。足元にいるのが盲導犬(写真:@URAWA REDS)

浦和レッズ補助犬受け入れマニュアル(一部抜粋)
浦和レッズ補助犬受け入れマニュアル(一部抜粋)


ユニバーサルマナー検定はパートナー企業と話し合うなかで知った。


当事者意識を持つ必要性感じた

2023年12月、まず同社のスタッフ32人が3級を受講した。受講後のアンケート調査では、回答者25人のほぼ全員(96%)が障害のある人や多様な困りごとに対して、「当事者意識を持って取り組む必要性を感じた」と答えた。さらに半数(52%)は「多様な方との向き合い方に自信がついた」とも回答した。

2024年からは年1回、新規スタッフも受けられるよう、1カ月の受講期間を設定する。「社内全体的なボトムアップがないと、取り組みが進まないからです。会社として必要な経費として予算を確保しています」と、柳さんは話す。

社会の意識を変えていくとき、学校や企業で学ぶ機会を持つことはとても効果的だ。2025年、人々の心のユニバーサルデザイン化がますます進んでいくことを期待する。

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福原 麻希 医療ジャーナリスト


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