2026.02.02
「ローワライ」雪野朝哉が直撃2
ヤングマガジン編集部

NON STYLE石田明さん(写真左)と「ローワライ」作者の雪野朝哉さん
2008年のM-1グランプリ王者であり、今も第一線を走り続ける実力派コンビ・NON STYLEの石田明さん。ベストセラーになっている著書『答え合わせ』(マガジンハウス刊)では帯に「生粋の漫才オタク」と書かれています。そんな石田さんに、Xで20万以上の“いいね”を獲得した漫画『ローワライ』の作者・雪野朝哉さんが思う存分質問する対談2回目は、バラエティ番組の笑いを中心に、お笑いを紐解いていきます。漫才オタクの石田さん、ローワライのためにお笑いを徹底的に研究している雪野さんが、バラエティ番組などの“平場” (ひらば/ネタ以外の場面で芸人がトークなどを行う時間や空間を指す用語)の笑いについて考察します。

©雪野朝哉/「ローワライ」/講談社「ヤングマガジン」
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『ローワライ』
聴覚障害者の平里(ひらり)と、聴覚健常者の嶋が大学で出会い、お笑いコンビ“ローワライを結成し、漫才の頂点を目指す物語。この、第92回ちばてつや賞の優秀新人賞受賞作は、2026年1月26日発売号から『週刊ヤングマガジン』本誌で連載がスタートした。
「「ローワライ」雪野朝哉がNon Style石田明に直撃」第1回
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司会/ヤングマガジン編集部 構成・文/前川亜紀
「ローワライ」の二人はお笑いの才能があるか
編集:対談1回目では、『ローワライ』の平里と嶋が、あたかも実在の人物であるように、今後の展開や才能のあり方について、お二人で考えていたのが印象的でした。
雪野朝哉(以下、雪野):ローワライはXで公開されて、多くの人からいいねやリポスト、コメントをいただきました。聴覚障害の当事者の方々からも、好意的な感想をいただけて、ものすごく嬉しかったです。読者の方の感想の中には、「彼らがもし『アメト――ク!』に出たら、どんなトークをするんだろうと考えてみたけれど、そういえば二次元にしかいないんだった、寂しい」というようなコメントもあったりしました。
石田明(以下、石田):読者さんは、ローワライの2人が実在している感覚で、読んでくれていたんですね。
雪野:作者冥利に尽きます。この世界に平里と嶋がいて、やがて彼らがテレビに出てくることをリアルにイメージしながら読んでくれていることが、ものすごく嬉しくて。
石田:キャラクターが確立していることの証明ですよね。
雪野:だから、彼らにお笑いの才能があるか、石田さんにお伺いしたかったのです。
石田:間違いなく才能があります。平里にはボケと気づかれないボケの才能があり、物事に動じない嶋はツッコミに向いています。ツッコミはお客さんの代弁者的な役割もあるので、客観性を求められますが、一番重要な時は、主観で突っ込まないとダメなんですよ。

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エバース町田の「さすがに末締めだろ」は…
雪野:主観?
石田:「何言うてんねん」とか「そうはならんやろ」などは、客観のツッコミ。主観のツッコミの代表例は、 エバースの町田の「さすがに末締めだろ」(※)……これはめっちゃ主観なんですよ。客観的だったら、「そんなのどうでもええわ」になると思うんですよ。
※編集部注:2024年の『M-1グランプリ』でお笑いコンビ・エバースが決勝で披露したネタ「桜の木の下」。この漫才で、町田和樹さんはこの名ツッコミにより、観客の心を掴んだ。
雪野:なるほど。
石田:嶋は物語中も常に主観で話している。彼はいいツッコミだと思いますよ。この2人の関係性は意識していたんですか?
雪野:はい。「ボケてやるぞ」「突っ込んでやるぞ」と意気込むと、リアリティがなくなるので、日常会話の中でも適当なことを言ってボケて、適当にツッコミをする。そのツッコミさえもボケになるほど、ナチュラルな雰囲気を意識しました。
だから、平里は表情があまり変わらない。でも、舞台に立つとめっちゃ変顔する。むしろ嶋の方が日常ではボケっぽい……ということを考えて描いていました。でもそれが、お笑いの才能になっているとは。

©雪野朝哉/「ローワライ」/講談社「ヤングマガジン」
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石田:彼らがどう平場(ひらば/ネタ以外の場面で芸人がトークなどを行う時間や空間を指す用語)でどう動くかにも興味があります。
トーク番組での芸人たちの「連携」
雪野:平里は耳も聞こえないし話せないので、どう動いていくか。どんな立ち回りをすることになるのか私も気になります。ところで、平場の「強さ」ってなんでしょうか。
石田:それこそ、戦い方はそれぞれなんですよ。“笑い”は植物の“実”のようなものなんです。早く摘む人もいれば、熟すのを待つ人もいる。井上(NON STYLE・井上裕介さん)は、異変を感じた瞬間に刈り取る。皆が熟す時期を観ているのにね。だからいつも「井上、ここで刈り取るな。今俺らが、熟れるのを待ってんねん」と思っていますよ。
雪野:平場では芸人のみなさんが連携している。
石田:はい。井上タイプの芸人がもう一人いると、ぶつかり合う。そこに熟成型の芸人が入ると、グッと話がおもしろくなるんです。熱くなった話の流れを、一度止める人もいますね。宮迫博之さんや、品川庄司の品川祐さんがこのタイプです。
雪野:熟成型はどんな人ですか?
石田:ケンドーコバヤシさん、ブラックマヨネーズの吉田敬さん、千鳥の大悟さんなどは、熟成に熟成を重ねる。だから、千鳥のノブさんはぐいっと突っ込まない。
僕も麒麟の川島明さんと一緒だった時に「川島さんはこの後何かあるだろうから、先に軽く何かやっておこうか」という感じになることがあります。
雪野:事前に打ち合わせもせずにですか?
石田:その場で取れる笑いはとり、川島さんにつなげる。これはその場で生まれる“生(なま)”のトークです。川島さんがボケに回りたいと思っていることを察したら、僕は突っ込んでいきます。

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博多大吉さんはアウトボクシングの「手練れ」
雪野:バラエティ番組を観ているとき、芸人さんたちは頭をフル回転させていると思っていました。それだけではなく、全体を俯瞰し、場を読み、知識も身体感覚も総動員しているんですね。
編集:サッカーでありながら、格闘技でもありますね。
石田:はい。感覚的にやる人もいれば、アウトボクシング的な人(相手からのパンチが届かない距離を保ちながらチャンスを窺うこと)もいれば、インファイター的な人(接近戦)もいて、いろんなタイプが入り混じっているんです。
雪野:面白い。
石田:アウトボクシング型の手練れは、博多華丸・大吉の大吉さん。ずっと俯瞰から客観的に突っ込んできます。例えば有名な漫才「ユーチューバー」で、「おじさんが何を言ってんのやろう」みたいな客観的なツッコミをしながら、ちょいちょい主観を入れている。
雪野:アウトボクシング、インファイター……いろんなタイプの人がバランスを取りながら平場を回していくんですね。分析、改めてすごいですね。

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石田:その分析を超えてくるのが、とにかく本気で面白いことをやりたいだけの芸人の空中戦。今田耕司さんと明石家さんまさんがいると、“神々の遊び”みたいになります。
雪野:芸人さんのタイプを分かった上でキャスティングするのは、プロデューサーの腕の見せ所とも言えますね。
石田:そのとおりだと思います。
耳の聞こえない方から「NON STYLEの漫才はとても見やすいです」
雪野:ローワライの2人はどうなるのかな? 平里が喋れないから、嶋に向かって手話をする。それを司会者が見て「なんかあるの?」とか、周囲が「おっ?」と思ったら、嶋がバッと笑いをとる。この間を生かせたら何かできるかも。それに、平里は読唇でわかると思いますし。
石田:実は、僕たちは何回か耳の聞こえない方に話しかけてもらって、「いつも漫才見てます。NON STYLEの漫才はとても見やすいです」と言われているんです。
編集:ものすごく早口なのに?
石田:口がしっかりと動いているから、読みやすいと。あと、テレビでも僕らはとにかく動く。だから、個別のアップで映ることがほぼなく、常に引きで映っているんです。どちらかがアップになると、相方は見えませんからね。
雪野:ほぼ同時に喋っているのに、聴覚障害者の方は、両方の読唇をしている。
石田:動きも大きいですが、喋りのスピードと合っているから気にならない。舞台の空間全体を捉えて、お客さんの視線を誘導しながら漫才することは、意識的にやっています。漫画もそうですよね?
雪野:ページ全体と、話の流れを合わせ、読者さんが読みやすいように、物語に入りやすいようにコマ割りをしています。あ! 今、何かすごくいい気づきがあった。ありがとうございます!
石田:嬉しい。

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視覚障害を持ちながら活動する濱田祐太郎さんは…
雪野:芸人さんは、テレビに出る前に、劇場からスタートすると思います。そこにも平場がありますよね。今、ちょっと思ったのは、視覚障害を持ちながら活動をしている濱田祐太郎さんは、どうやってこの周りの空気を読むのだろうかと。
石田:めちゃくちゃ意識を張っていますよね。でも“フリ”(「この先こうなるだろう」と予測・期待させる前段階の仕込みや設定)が利いてることもあり、彼は平場に強いと思います。
雪野:濱田さんが『水曜日のダウンタウン』(TBS系/2025年11月放送)に出演し、一時的に声が出せないクロちゃんと筆談や音でコミュニケーションを試みるドッキリに出演。ご自身の障害をネタにしたパンチラインに大きな反響があり、絶賛されていましたね。
石田:まさに1回目でお話しした「才能を乗りこなす」ことができている。彼はめちゃくちゃすごいです。障害を抱えているという前提の場合、感動ものになりがちですが、笑いに変えていますから。あ、これはローワライも同じですね。そういえば、濱田さんはこの前、殺陣の舞台をやっていましたよ。
雪野:吉本新喜劇のですね!
石田:はい。刀を使いますから、すごく怖いと思いますよ。そもそも舞台に立つことって、本当は怖いものですから。
雪野:なるほど。ところで、聾唖者で漫才をやっている人っているのでしょうか?
石田:手話で漫才をやっている人はいますが、それは、聴覚障害の方に向けてのお笑いなので、多くの人に向けた芸ではないと思います。
雪野:じゃあローワライは開拓者になるかもしれませんね!
石田:そのとおりです。これからも平里と嶋の活躍を期待しています。
***
お笑い芸人は、自らの才能を乗りこなし、場の空気と流れを読み、全速力で走りながら、笑いに変えていく。しかも、息が上がっているところ、作為があることを見せてはならない。2人の対談は、バラエティ番組やお笑いの舞台を見ながら、澱のように溜まっていた「なんで面白いんだろう?」という疑問をリセットしてくれました。
この対談の3回目は、漫画の表現や『ローワライ』の魅力について、お話しいただきます。

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お笑いコンビ・NON STYLE 石田明(ノンスタイル・いしだ あきら)
1980年大阪府大阪市出身。中学時代に出会った井上裕介と2000年5月にコンビ結成。神戸・三宮でのストリート漫才で人気を博し、オーディションに合格してプロデビュー。2006年「第35回上方お笑い大賞」最優秀新人賞受賞、「第21回NHK新人演芸大賞」演芸部門大賞受賞、2007年、NHK「爆笑オンエアバトル」9 代目チャンピオン、2008年「M-1グランプリ2008」優勝など、数々のタイトルを獲得。2012年、2013年、2年連続で「THE MANZAI」決勝進出。「M-1グランプリ2015」では決勝の審査員を、「M-1グランプリ2023」では敗者復活戦の審査員を務めた。2021年から、NSC(吉本総合芸能学院)の講師を務め、年間1200人以上に授業を行っている。テレビドラマ、舞台でも活躍。 YouTubeチャンネル「NON STYLE石田明のよい~んチャンネル」も人気。著書『答え合わせ』 (マガジンハウス新書)はベストセラーに。
漫画家・雪野朝哉(ゆきのあした)
北海道出身、社会人を経て漫画家へ。2023年に『ひまわり』、2024年に『マイダンス』『残心』を発表。2025年『ローワライ』で、第92回ちばてつや賞 優秀新人賞を受賞しデビュー。好物は羊肉。1月26日発売の「週刊ヤングマガジン」から『ローワライ』連載がスタートした。
「「ローワライ」雪野朝哉がNon Style石田明に直撃」第1回
「NON STYLE石田明に聞く「浜田雅功・ブラマヨ小杉・フットボールアワー後藤」の共通点。絶対真似できないもの」はこちら
雪野朝哉さんロングインタビュー
1)デビュー前からXで20万いいね!「ローワライ」の覆面漫画家・雪野朝哉の「素顔」
2)20万いいね「ローワライ」漫画家・雪野朝哉に聞く「ろう者とのやり取りが漫才になる」理由
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耳が聞こえなくても漫才ができるのか。Xで20万いいね!雪野朝哉「ローワライ」の力
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