報道陣なしの客席で――佳子さまは手話で何を伝えた? 秋篠宮家と縁の深いろう者俳優の“復帰舞台”

報道陣なしの客席で――佳子さまは手話で何を伝えた? 秋篠宮家と縁の深いろう者俳優の“復帰舞台”

つげのり子
2/3(火) 14:01

佳子さま(撮影:H.AOKI)

佳子さま(撮影:H.AOKI)


1月24日、秋篠宮家の次女・佳子さまが、黒柳徹子さんが理事長を務めるトット基金主催の「第45回 手話狂言・初春の会」を観劇された。
会場は国立能楽堂。筆者が会場で見渡した限り、テレビカメラや報道陣の姿はなく、今回は「私的なご訪問」だったため、客席には佳子さまのご来場に気づかない人もいたようだ。

同じ公演を見ていた筆者の目に映ったのは、舞台に向けて背筋を伸ばし、演者の動きを確かめるように見つめていらっしゃる佳子さまの姿だった。


◆佳子さまが見つめた「手話狂言」の舞台

「手話狂言」は、日本の伝統芸能である狂言の世界観を保ちながら、セリフを手話で伝える表現だ。音声に頼らない分、視線や手の運び、間(ま)が物語の理解につながる。
佳子さまは、客席後方のセパレートされたエリアの席に着かれた。装いは、以前もお召しになっていたアプワイザー・リッシェの白地に黒いラインが入ったノーカラージャケットに、白いタートルネックセーター。落ち着いた雰囲気で客席になじんでいた。

手話狂言の前に恒例トークで黒柳さんは、1979年に米国のろう者劇団が日本公演を行った際、当時の皇太子同妃殿下(現・上皇ご夫妻)が足を運ばれたことに触れ、
「上皇さまと美智子さまが来てくださったおかげで、“ろう者の人たちは手でしゃべる”ことを、多くの人たちに知ってもらえました」
と、感謝を語っていた。皇室と手話の世界が、長い時間をかけて結ばれてきたことを感じさせる場面でもあった。

この日の演目は3本。佳子さまは、演者の動き一つひとつを真剣に目で追っていらっしゃった。
「手話狂言」は、単にセリフを「手話」に置き換えるのではない。観客に届くように舞台言語を組み立て直す創作でもある。
手話を学び、聴覚障がいのある人々との交流を重ねてこられた佳子さまは、その工夫を実感として受けとめられたのではないだろうか。

国立能楽堂の舞台(筆者撮影)

国立能楽堂の舞台(筆者撮影)


◆秋篠宮家とゆかりのある、ろう者俳優・井崎哲也さんの舞台復帰

今回の出演者の一人に、ろう者俳優として知られる井崎哲也さんがいた。
井崎さんは、手話狂言を上演する「日本ろう者劇団」に設立から参加し、平成3年から10年以上にわたり、秋篠宮邸で紀子さまに手話指導を行ってきた人物でもある。

井崎さんが出演したのは3本目の「茸(くさびら)」。屋敷に奇妙なキノコが生え、山伏に祈祷を頼むが、呪文を唱えるほどに珍しいキノコが増え、最後に毒々しい「鬼茸」が現れる物語だ。
井崎さんは鬼茸役として、鬼の面を付け、真っ赤な唐傘を手に登場。傘を開いて毒を撒き散らすという、気迫に満ちた動きで舞台を引き締めた。

井崎さんは近年、腰の手術の影響で出演ができなかったが、「今回の演目『茸』には出演したい」と強く希望し、自主トレーニングを重ねて舞台に立ったという。
井崎さんに取材したところ、
「本番では倒れてはいけないと思い、腹に力を入れ集中して演じました。無事演じ終えた瞬間、感動がこみあげてきてウルっと来てしまいました」
と語った。

終演後、佳子さまは井崎さんと手話で会話された。佳子さまから出演した演目を尋ねられ、井崎さんが、
「『茸』で鬼茸として出演しました。この狂言では、みんながお面を付けていたので、誰だか分からなかったと思います」
と答えると、佳子さまは、
「傘(が印象的)ですね。様子が面白かったです。茸が動く様子は、とても面白くてよかったです」
と、舞台上の演出を具体的に挙げて、感想を伝えられたという。


◆手話が“対話”になる瞬間――広がる理解の輪

井崎さんは、去年11月にろう者の国際芸術祭「手話のまち」のオープニングセレモニーでも、佳子さまとお会いしたという。
佳子さまから、
「大変ご無沙汰しております」
と声をかけられ、「覚えていてくださったことが、とても嬉しくありがたかった」と井崎さんは語る。

また井崎さんはしばらくぶりに再会した佳子さまが、手話での会話がよりスムーズになっていた点が印象に残ったという。
「佳子さまは出演したろう者一人ひとりと順番にお話をされ、手話での会話がスムーズで、大変上達されていました」
佳子さまの手話が“学び”にとどまらず、“対話”として根づいていることがうかがえる。

去年、聴覚障がい者の国際スポーツ大会・デフリンピックが日本で初めて開催され、佳子さまは開会式や閉会式に出席するなど、さまざまな形で力を尽くされた。
井崎さんは、
「手を動かしていてもデタラメではなく、聞こえない人は言語として自然に表現しています。手話をもっと多くの人たちに知ってもらいたいと思います」
と語った。

報道のカメラが入らない形でのご訪問は、華やかなニュースにはなりにくい。公務かどうかにかかわらず、佳子さまが足を運ばれ、手話で向き合う姿勢そのものが、当事者にとっての力になっている。

つげのり子 放送作家、ノンフィクション作家

つげのり子
放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。西武文理大学非常勤講師。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)などがある。


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著者:つげのり子
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