注目の《骨伝導》を利用した補聴器は一般的な補聴器よりよく聞こえるのか「加齢性難聴の多くには不向き」「まずは耳鼻科に相談を」【専門家が教える難聴対策Vol.19】

注目の《骨伝導》を利用した補聴器は一般的な補聴器よりよく聞こえるのか「加齢性難聴の多くには不向き」「まずは耳鼻科に相談を」【専門家が教える難聴対策Vol.19】

 頭蓋骨への振動によって音が伝わる「骨伝導」。この仕組みを採用した骨伝導イヤホンが人気となっているが、補聴器や集音器を選ぶときには注意が必要だという。「骨伝導を大々的にアピールした集音器も販売されていますが、骨伝導の仕組みを理解して、正しい製品選びをしてほしい」と、認定補聴器技能者で補聴器専門店の代表を務める田中智子さん。詳しく解説いただいた。

イラスト「骨伝導ならよく聞こえそう!!!」

「骨伝導は話題だから…」だけで飛びついてはいけないという。理由を専門家が解説


教えてくれた人

認定補聴器技能者・田中智子さん

田中智子さん

田中智子さん
うぐいす補聴器代表。大手補聴器メーカー在籍中に経営学修士(MBA)を取得。訪問診療を行うクリニックの事務長を務めた後、主要メーカーの補聴器を試せる補聴器専門店・うぐいす補聴器を開業。講演会や執筆なども手がける。https://uguisu.co.jp/


「骨伝導」の問い合わせが増えている


 最近は補聴器業界でも話題の「骨伝導」。頭蓋骨に伝わる振動によって音が聞こえる仕組み「骨伝導」の技術は、イヤホンや集音器、補聴器にも採用されています。

 当店でも「骨伝導」の補聴器についての問い合わせが増えてきています。定期的に開催している補聴器の勉強会でも、参加者から必ずといっていいほど、骨伝導補聴器についての質問が挙がるほど、みなさんの関心の高さが伺えます。

→骨伝導とは?


骨伝導補聴器は自分に合っているか?不向きか?


 長年研究が続けられている骨伝導ですが、もともとは補聴器の技術として開発されました。一般的な補聴器よりも「よく聞こえるのでは」「扱いやすいのでは」と考えるかたも多く、骨伝導補聴器に興味を示されるお客様も増えてきました。

 ただし、補聴器を必要とする難聴のかたの場合、誰もが骨伝導補聴器が適しているわけではない点に注意が必要です。耳のどの部位の機能が低下しているかによって、骨伝導が有効か否かは、変わってくるのです。

 補聴器専門店でもお客様にお伝えしていることなのですが、骨伝導にかかわらず自分に合う補聴器を選ぶためには、「音が伝わる仕組み」や「難聴の種類」について、理解しておくことが大切です。


音が伝わる仕組み


 まず、音が伝わる仕組みを考えてみましょう。私たちが日ごろ聞いている音ですが、音が伝わる仕組みは2種類あります。

■気導音

 耳の穴(外耳道)に入った音が、鼓膜・耳小骨を通り、蝸牛(かぎゅう)に伝わります。それが電気信号となって脳に伝わり、音を認識する。

■骨導音

 頭蓋骨の振動が蝸牛に伝わり、蝸牛からの電気信号が脳に伝わり、音を認識する。

 ちなみに、蝸牛とは、音を電気信号に変えて脳に伝える器官のことで、音を感じるセンサーの部分だととらえるとわかりやすいかもしれません。

目を閉じて指で両耳をふさぐ女性

「耳に指を入れてしゃべってみると普段と違う声で聞こえますよね? それが骨伝導での聞こえ方です」(田中さん)(写真/tyak_factory/イメージマート)


難聴の種類「高齢者の特徴」とは?

 次に、難聴の種類を解説します。難聴は、大きくわけて3種類あります。

 1つ目は、外耳や中耳といった手前(耳たぶから鼓膜・耳小骨まで)の部分に問題が生じているケースは「伝音難聴」(でんおんなんちょう)。

 2つめは、耳の奥の内耳(蝸牛)や聴神経、脳などに問題が生じているケースは「感音難聴」(かんおんなんちょう)。

 3つめは、上記のどちらも併発したケースで、混合性難聴(こんごうせいなんちょう)と呼ばれます。加齢による難聴は多くの場合、「感音難聴」か「混合性難聴」が考えられます。


骨伝導補聴器が不向きの人とは?


 骨伝導は、外耳や中耳を通さずに、頭蓋骨に伝わった振動が蝸牛(音を感じるセンサー)に直接届くことで、音を感じる仕組みです。そのため、外耳や中耳に問題がある「伝音難聴」の場合には、骨伝導補聴器は有効といえます。

 一方、高齢者に多い「感音難聴」「混合性難聴」は、音を感じるセンサー(蝸牛)に問題がある場合が多いです。骨伝導で、音を感じるセンサーに音が直接入ってきたとしても、そのセンサー自体に問題があるので、正しく脳に音を送れません。したがって、骨伝導補聴器を使ったとても、音がしっかりと脳に届かない(よく聞こえない)というわけです。

 加齢による難聴の多くの場合、「骨伝導補聴器」ではなく、一般的な「補聴器」が適しているといえるでしょう。


骨伝導補聴器のメリットとデメリット


「骨伝導補聴器」は振動板によって耳の回りの骨に振動を起こします。一般的な補聴器やイヤホンのように、耳の穴に耳栓を入れる必要がないので、先天的に耳の穴が塞がっている人や耳が小さい症状を持つ人には向いています。

 しかし、振動板が当たる位置がずれてしまうと音質が低下することもあります。また、一般的な補聴器と比べると音質が劣る、大きなパワーが出せないとも言われています。


骨伝導補聴器を選ぶときには注意して!【まとめ】


 耳を塞がない快適さなどからイヤホンに採用され、人気となっている「骨伝導」。補聴器にも採用されていますが、加齢による難聴は骨伝導が適さないケースもあります。利用を考えている場合は、まず耳鼻咽喉科に相談することが大切です。

 骨伝導集音器なるものも販売されているのですが、前段で説明したように、音を感じるセンサーの部分に問題がある場合は、骨導音も気導音でもどちらでも20代のころのような聞こえには戻りません。

 そもそも集音器と医療機器でもある補聴器は、別のものです。

→そんなに違いがないと思っていませんか?【補聴器と集音器】「実は全然異なる」そのメリット・デメリットを解説【専門家が教える難聴対策Vol.2】

 加齢性の難聴のかたには、骨伝導の補聴器や集音器は適さない場合が多いので注意しましょう。難聴を改善したい場合、「つけ心地がよさそう」「流行っているからなんだかよさそう」「『広告によく聞こえる』と書いてあった!」。こうしたことだけで骨伝導を選んではいけません。

イラスト「うぐいす先生」
 難聴の種類や程度、生活環境に合わせて、専門家や専門医と相談しながら進めることが大切です。


加齢性の難聴の場合、骨伝導の補聴器や集音器は適さない場合が多いので要注意

→【専門家が教える難聴対策】同じシリーズの記事を読む

取材・文/立花加久 イラスト/奥川りな


リンク先は介護ポストセブンというサイトの記事になります。


 

Back to blog

Leave a comment