2025年5月10日 17:58
長岡市に耳の聞こえないマスターが営むカフェがあります。コンセプトは音を必要としないカフェ。
「聴覚障害者が抱く生きづらさを少しでも減らしたい」
マスターが取り組む新たな挑戦とは……。
◆音のない世界で生きていくとしたら

春を告げる鳥のさえずり……信号機の音や救急車のサイレン……世の中は“無数の音”であふれています。
でも、音のない世界で生きていくとしたら……。
◆生まれた時から聴覚に障害


Q)今、車が来ましたが音聞こえましたか?
【倉又司さん】
「少し……今みたいに車が通ってもどちらから来ているのかわからないです」
長岡市に住む倉又司さん(39)。生まれた時から聴覚に障害があり耳が聞こえません。
◆コンセプトは“音を必要としないカフェ”
倉又さんは長岡市でカフェ「NOBI by SUZUKICOFFEE」を営んでいます。
コンセプトは“音を必要としないカフェ”。手話と優しい笑顔で出迎えてくれます。
Q)お金は別々?
「お金一緒?別々?」
<カフェの客>
「別々」(ジェスチャーしながら)」
自慢は苦みと酸味のバランスの良い香り豊かなブレンドコーヒー。静寂の中に、にぎやかな手話のやり取りが行き交います。
<カフェの客は>
「私も勉強し始めてから先生や周りのろう者の方と話す機会があったんですけど、それまでなかったのでこういう場がたくさん増えるといいなと思います」
◆カフェ開業のきっかけは聴覚障害者が抱く「生きづらさ」


音を必要としないカフェ。そのオープンは耳の聞こえない倉又さん自身が抱く「生きづらさ」がきっかけでした。
【倉又司さん】
「出かける際にも命がけという感じです。聞こえる人にとっては、どこに行っても音で知らせてもらえますが、私たちは聞こえないのでどこに行っても自分を守らなけ ればいけない緊張感があります。だから非常に疲れます」
◆少年時代の違和感から「誰もがのびのびと過ごせる居場所を」


少年時代の違和感……周りにいるのは耳が聞こえる同級生ばかりでした。
【倉又司さん】
「友達との会話もできない担任の先生の話も分かりませんでした。勉強もついていけず小学5,6年生から家に引きこもっていました」
『どうして自分だけ耳が聞こえないのか』
耳が不自由なためうまく言葉を発することができず、からかわれることもあり孤独を感じていました。
小学校を卒業後はろう学校へ進学。その後は工場やろう学校の指導員として働きましたが、耳の聞こえる人に囲まれて働くのは苦労の連続でした。
【倉又司さん】
「心を豊かにするはずのコミュニケーションが私の場合は苦しいばかりでした」
『障害の有無にかかわらず誰もがのびのびと過ごせる居場所を作りたい』
その思いで去年、カフェのオープンにこぎつけたのです。
<カフェの客>(手話で)
「おいしい!また来ます。ありがとう」
◆大切な“居場所” 心が通う大切な“つながり”

倉又さんにも大切な“居場所”があります。長岡市にある倉又さん行きつけのカフェ「scene coffee roaster」
スマートフォンに文字を打ち込み注文を伝えます。カフェを営む店主の人柄そして店の居心地の良さから常連になりました。
【倉又司さん】
「バッチリ!」
「私は耳が聞こえないけどあまり気にせずゆっくりできる大事な場所です」
【コーヒー店店主・平山拓弥さん】
「普通に接してもらいたいと思っている方が多いのかなと思うのであまり特別扱いとかはないようにしていますね。みなさん平等に接するようにしています」
会話をする際も使うのはスマートフォンのメモ機能……
<コーヒー店店主・平山さん>
「これはエチオピアの豆を使っています」
<倉又さん>
「やっぱりおいしいです」
<コーヒー店店主・平山さん>
「勉強熱心ですもんね」
<倉又さん>
「そちらには勝てません」
カフェを営む者同士コーヒーの話題で盛り上がります。耳が聞こえなくても心が通う大切な“つながり”
【倉又司さん】
「(平山さんは)障害者という見方ではなくて私個人として付き合ってくださるのでとてもありがたいです」
◆日常生活での障壁 スーパーでの買い物はコミュニケーションが不要のセルフレジに


聴覚障害は見た目では分かりづらいため日常生活は苦労の連続です。その苦労はスーパーでの買い物でも
【倉又司さん】
「今みたいに欲しいものがどこにあるか分からないときに、店員に聞けば楽だと思うんですけど聞きづらいので」
カバンには耳が聞こえないことを示すキーホルダーをつけています」
「慣れれば分かるかもしれませんが慣れたくもない気持ちもあります。不便に慣れるのもどうかなという気持ちもあるので」
音があふれている社会……ただ受け入れてしまえば聴覚障害者の生きづらさは消えない。現実に抗いたい気持ちもあります。会計の際には店員との会話がいらないセルフレジに自然と足が向かいます。
【倉又司さん】
「『袋は必要ですか?』と聞かれることがあります。なかなか答えづらいので大変だなと思って。それだったらセルフレジの方が聞かれることは全部画面に出てくるので私的には楽だなと」
何気ない日常でも、耳が聞こえないことによる壁が立ちはだかります。
◆聞こえる人も聞こえない人もつながれる社会に 手話教室を開催


聞こえる人も聞こえない人もつながれる社会にしたい……そう願う倉又さん、自ら営むカフェで“手話教室”を始めました。
手の形や動きと顔の表情を組み合わせ表現する手話。上達するためには相手の口ばかりを見ないことが大切だといいます。手話のコツは動きをよく観察すること。耳が不自由な人は目で見た情報を頼りに生きているというのです。
<倉又さん>
「手話(楽しかった)OK?」「楽しかった?」
<参加した人>
「ありがとうございました」
<参加者は>
「人の役に立てるものを少ししたいなと思って、昔から興味はあったんですけど学べなかったので参加しました」
「勉強のために集まるとかでなくて、もう少しハードルが低くてコーヒー飲みながら、手話でおしゃべりできたり気軽に来られる場所ができたのはすごくいい」
◆「生まれ変わってもろう者で生まれたい」

【倉又司さん】
「私は生まれ変わっても、ろう者で生まれたいと思っています。障害があるということでマイナスに考えずそれを受け入れて認めて自分ができることを広げて楽しんで生きていった方が楽なのかなと思います」
音のない世界で生きる人たちがいます。耳が聞こえる人もそうでない人も心が通う世の中に……
音を必要としないカフェできょうも倉又さんが待っています。
最終更新日:2025年5月10日 17:58
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