聴覚障害者の社会参入を後押しする「字幕テック」をデフリンピック会場で見てきた

聴覚障害者の社会参入を後押しする「字幕テック」をデフリンピック会場で見てきた

石井徹2025年11月27日 09時20分

 11月15日から26日まで開催された「東京2025デフリンピック」の併催イベント「みるTech」で、アイシンが開発した音声認識システム「YYSystem(ワイワイシステム)」が展示された。同システムは同大会の開会式・閉会式をはじめ、全競技会場の受付で採用されていた。

アイシンが開発した音声認識システム「YYSystem(ワイワイシステム)」が展示

YYSystemはアイシンが開発した音声を字幕を起こすシステムだ


 YYSystemは、リアルタイムで音声を文字化し、31言語に翻訳できるアプリケーションだ。聴覚障害者とのコミュニケーション支援を主目的に開発され、2024年11月時点で累計200万ダウンロードを達成した。

スマホのアプリから無料で利用できる

スマホのアプリから無料で利用できる


工場の騒音環境から生まれた高精度認識

 開発の経緯は独特だ。アイシンは従業員約3万人を抱える自動車部品メーカーで、社内に聴覚障害者が約300人在籍する。同社の担当者は「工場の中にいる聴覚障害を持つ仲間が仕事の中でコミュニケーションを取りやすくするために作った」と説明する。

 工場という騒音環境で開発されたことが、システムの特徴となった。音声認識エンジンはMicrosoft製をベースとしつつ、独自のノイズキャンセル処理とAI補正を組み合わせた。喋った内容から「えっと」「あの」といったフィラーを自動削除し、日本語特有の主語省略にも対応する。

固有名詞を認識する機能がある

固有名詞を認識する機能がある


 例えば「新幹線の停車駅は東京品川新横浜名古屋」という音声は、通常の文字起こしでは区切り位置が曖昧だ。YYSystemはAIが文脈を判断し、「東京」「品川」「新横浜」「名古屋」と駅名ごとに区切って表示する。翻訳時も、前の発言を参照して主語を補完するため、「窓際ですか? 通路側ですか?」という質問を英語化する際、座席(seat)という単語を自動挿入できる。

新幹線の停車駅など決まったフレーズはAIが補正して正確に認識する

新幹線の停車駅など決まったフレーズはAIが補正して正確に認識する


月80時間無料、オフラインでも動作

 料金体系は月80時間まで無料で、超過分は個人向けが10時間1000円、法人向けが10時間9800円。アプリ起動時間ではなく音声検出時間でカウントされるため、「誰も発話しなければ0分」(担当者)という仕組みだ。

 災害時を想定したオフラインモードもある。通常はクラウド経由で高精度なAI処理を行うが、ネットワーク切断時でも端末内のエンジンで文字起こしを継続できる。「震災の時に繋がらなくなって逃げるのに困った人たちがいる」との声を受けて実装した。精度は若干落ちるが、避難所での緊急アナウンスや指示を聞き取る用途には十分という。

相手に見せるように会話をしやすい

相手に見せるように会話をしやすい


ゆりかもめ、東急ステイ全店舗にも導入

 デフリンピック以外にも、ゆりかもめの駅窓口や東急ステイホテル全店舗に透明ディスプレイ型の端末が設置されている。透明ディスプレイを挟んで対面すると、スタッフ側には日本語、利用者側には英語やタイ語など選択した言語が表示される仕組みだ。

事前に指定したキーワードで画像を出すこともできる。駅やホテルなどで案内する際に便利だ

事前に指定したキーワードで画像を出すこともできる。駅やホテルなどで案内する際に便利だ


 開発元のアイシン製品開発センターLBS製品本部BR YYSystem事業推進部の横井志教部長は「競合他社とはライバルというより仲間」との立場を取る。「この世界ってまだ足りない。みんなで字幕文化を広げたい。世の中の5割がそうなったら、そこからパイの奪い合いを頑張ればいい」と語った。

 デフリンピックでは、大会期間中に大型パネルでリアルタイム文字起こしを表示するほか、スマートグラス連携の試作品も展示していた。メーカー名は非公開だが、「年内には発表できる」とのことだ。

スマートグラス型の文字起こしデバイスも開発中だ

スマートグラス型の文字起こしデバイスも開発中だ


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