また後半では世界の補聴器事情やAI搭載の最新補聴器についても紹介する。

聴力低下と認知症との関係

聴力低下と認知症とは深い関係があるという。森氏は次のように話す。
「実際に難聴が認知症のリスクを2倍程度に増加させたという海外の研究も存在するので、聴力の低下は認知症のリスクを高めると考えて良いでしょう。五感の低下は脳への刺激が少なくなることから、認知症リスクも増加してしまうのかもしれません」
加齢性難聴は加齢とともに誰もが起こりうることだが、認知症リスクが高まるとあって、国や自治体は補聴器の購入補助や聴力検査をサポートし、早期聴覚ケアを推進している。
しかし一般社団法人日本補聴器工業会の調査(※)によると、日本の補聴器の普及率は、難聴者人口の15.2%となっている。欧米諸国の普及率30~40%に比べ、非常に低い水準だ。
※調査出典「JapanTrak2022 調査報告」
補聴器普及率が低い課題については、さまざまな要因があると考えられると森氏は話す。
「欧米と比較すると日本は国民皆保険制度のもと、比較的安価に医療の恩恵を享受できるので、保険が効かない補聴器がやや割高に感じられることは、要因の一つと考えられます。また難聴が老化の自然現象の延長のような症状と感じやすいため、病院に行くタイミングが遅れてしまうこともあります。地域によっては助成金が適応になることも知っておいて損はないでしょう」
今後、日本の中高年以上は補聴器をどのようにとらえ、どのように付き合っていけばいいか。
「認知症予防の側面からも、日々の生活を彩り鮮やかなものにするためにも、何も恥ずかしがる必要はありませんので、聞こえが悪いと感じたら耳鼻科で相談し、補聴器が必要なら導入しましょう。補聴器は現在、軽量でシンプルなモデルも増えてきているので、カジュアルなシニアのたしなみとしてとらえていただくのも良いかと思います」
世界と日本の補聴器に対するとらえ方の違い

日本と比べると、世界ではもっと日常的に、カジュアルに補聴器が使われているようだ。
デンマーク発の世界的な聴覚ヘルスケア企業、デマントの日本法人デマント・ジャパン株式会社は、ロイヤル フィリップス社との商標ライセンス契約のもと展開しているフィリップス ヒアリングソリューションズより、AI搭載補聴器「フィリップス ヒアリンク」の新モデルを2024年6月19日に発売した。
その製品発表会に登壇したフィリップス ヒアリングソリューションズの担当者に、補聴器の普及や性能に関する世界と日本との違いを聞いた。
「世界は補助金制度が充実しているため、全額補助金制度がある国は、補聴器の普及率が非常に高いです。補助金制度に変更があったフランス、ドイツ、イギリスでは普及度が大幅に増加しています。日本の普及率は低く、いわゆる補聴器後進国です。日本人は補聴器イコール加齢というイメージや、高価というイメージがあり、難聴に気づいて補聴器を購入するまでが1年以上と長いのです」
AI搭載の補聴器によりユーザーにもたらされる変化
補聴器は進化し続けている。AIが搭載されるようになったことで、ユーザーの動きを感知し、それぞれの場で快適に聞こえるようにコントロールしてくれる。1対1、複数、屋内、屋外といったさまざまなシーンに合わせてノイズを抑制し、よく聞こえるという。これによりユーザーのライフスタイルは大きな変化が見込める。

「フィリップス ヒアリンク 50(全4器種9050、7050、5050、3050)」オープン価格
「聞こえの悩みによりあきらめていたことを、あきらめなくていいという心情面の変化があると考えられます。特に、複雑な環境、例えば雑音のすごいレストランなどでは、AIがしっかりと騒音を抑えてくれるため、リスニングを快適なものにしてくれます。聞こえづらくて聞き返したりすることもなく、会話をスムーズなものにしてくれるでしょう」
補聴器の普及に向けて

補聴器の開発・製造を担うメーカーとして今後、補聴器の普及にも力を入れていくという。
「補聴器の早期装用の普及を推進していきたいです。早期装用することにより、脳の認知機能の低下を抑制させる可能性があるためです。比較的若い50代から補聴器を使うことが、働く上でも役立つと思います。補聴器は価格に対する心配が強いですが、各自治体で助成金制度が敷かれる形で解決に向かっています。今までは重度の方を中心に助成されていましたが、軽度や中度の方も含めて助成がされるようになっています。助成金を使えるということ自体の認知も進めることで、予算の都合で性能の低いものを選ぶ必要もなく、高性能の補聴器を選びやすくなっていることも伝えていきたいです」
難聴は認知症やその他のQOLの低下をもたらすリスクがあるが、補聴器があればその進行やリスクを減らすことができる。そして助成金を利用できる可能性もあるため、導入のハードルは下がってきていることは確かだ。自身の長い老後生活の質を高めるためにも、覚えておきたい知識といえる。
【取材協力】

森 勇磨氏
東海高校・神戸大学医学部医学科卒業。研修後、藤田医科大学病院の救急総合内科にて救命救急・病棟で勤務。救急現場で数えきれないほど「病状が悪化し、後悔の念に苦しむ患者や家族」と接する中で、「病院の外」での正しい医療情報発信に対する社会課題を痛感。その後今や子どもから高齢者まで幅広く親しまれるようになったYouTubeでの情報発信を決意。2020年2月より「すべての人に正しい予防医学を」という理念のもと、「予防医学 ch/ 医師監修」をスタート。「MEDU株式会社(旧:Preventive Room株式会社)」を立ち上げるほか、オンライン診療に完全対応した新時代のクリニック「ウチカラクリニック」を開設。
フィリップス ヒアリングソリューションズ
文/石原亜香利
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