川上 敬太郎
ワークスタイル研究家
2026.6.18(木)

求職者1人当たりの求人数を示す有効求人倍率は、2026年4月時点で1.18。コロナ禍で経済が冷え込んだ時でさえ有効求人倍率は1倍台を維持する月が多く、人手不足状態が10年以上続いてきました。
さらに、2025年の出生数は67万1236人と過去最少を記録しました。人口は減少し、人手の母数は今後も縮小の一途をたどる見込みです。しかし、会社は環境変化に対応してシニアや外国人など幅広い人材層の戦力化を進め、逆に雇用者数は増加してきました。
障害者層も、雇用が増えている人材層の1つです。7月からは法定雇用率が2.7%へと引き上げられるので、さらなる増加が見込まれます。また、国の有識者会議では障害者雇用の質を求める報告書がまとめられて、就業環境の整備も進められそうです。障害者雇用は着実に促進されてきているように見受けられます。
ただ、障害者層の比率は人口の1割弱に及ぶとされますが、そのポテンシャルの大きさを踏まえて現状を見直すと、根本的な問題があることも浮かび上がってきます。人手不足が慢性化している中、障害者雇用にはどんな課題があり、一方でどんな可能性を秘めているのでしょうか。
7月に2.7%へ引き上げ、知られざる法定雇用率の「強制力」
厚生労働省が公表している「令和7年 障害者雇用状況の集計結果」によると、2025年の障害者雇用数は70万4610人。一方、総務省の労働力調査(詳細集計)によると同年の全雇用者数は6177万人なので、全体に占める比率は1%強です。多くの人は、職場で障害者と日常的に接する機会があまりなく、障害者雇用についてよく分からないかもしれません。
職場には障害の特性に応じた合理的配慮が法律で義務付けられていますが、一口に障害と言っても実に多様です。統計上の区分では、身体障害、知的障害、精神障害の3つに分かれています。また、身体障害でも足が不自由な人もいれば目が不自由な人もいますし、精神障害にも統合失調症や気分障害、発達障害などがあり個々に障害の重さも異なります。
そのため、テレビなどで見かけたことがある誰か一人だけを障害者の代表のように見立ててイメージを固定してしまうと、先入観につながりやすいだけに注意が必要です。個々の障害の特性に合わせて、最適な合理的配慮が求められます。
以上のように課題はありつつも、障害者雇用の数自体は着実に増えています。その背景にあるのが、法定雇用率という強制力です。
法定雇用率とは、従業員数に応じて雇用するよう義務付けられた、障害者数の割合を指します。現在は2.5%なので、従業員が40人いる会社であれば障害者を1人以上雇用する計算になります。
法定雇用率は、この10年で2.0%→2.2%→2.3%→2.5%と段階的な引き上げが行われてきました。比例して障害者雇用数も増え、2026年7月からは2.7%に引き上げられます。
ただ、障害者雇用数が増える中で、さまざまな課題も指摘されるようになってきました。中でも最重要課題と目されているのが、雇用の「質」をめぐる問題です。
厚労省が重視する「5要素」と、現場で起きている疎外感の波紋
厚生労働省が公表した「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会の報告書」では、障害者雇用の質として特に重視されるべき中心的要素5点が挙げられています。
(1)能力発揮の十分な促進
(2)能力発揮の成果の事業活動への十分な活用
(3)適正な雇用管理
(4)発揮した能力に対する正当な評価とその反映
(5)雇用の安定
どれも重要な要素であることは間違いありません。また、他にも障害者が従事する仕事内容が実際に利益を生んでいるかどうかや、障害者の就業場所が障害のない社員と切り離されているケースが見られることなども課題視されています。
障害者が従事する仕事で、目にする機会が増えているものの一つが農園での作業です。野菜や果物、茶葉などを生産します。雇用手法としては、障害者雇用に特別の配慮をした特例子会社を設立して自社で運営するケースや、就業場所と運営支援サービスを提供している、いわゆる「障害者雇用ビジネス」と呼ばれる雇用支援サービスを利用するケースなどがあります。
ただ、農業を本業としない会社の場合、農産物を作って販売しても黒字化するのは簡単ではありません。中には作業自体が目的化して、農産物は廃棄してしまうような悪質なケースもあるといわれており問題視されています。
また、本社は都心にオフィスを構えているものの農園は郊外にあるため、同じ会社に雇われているはずなのに、切り離されているような疎外感を覚える障害者がいることも指摘されています。
これらの課題を整理すると、障害者雇用に取り組む場合はまず質を確保し、利益を生み、本社など同じ職場内で働けるようにしなければならない──という方向性こそが正しいことになります。
法定雇用率という強制力によって「量」に相当する障害者雇用数は増えてきています。ただ、それだけで良しとはせず、「質」についても問題意識が生まれてくるのは流れとして当然のことでしょう。
しかしながら、疑問もあります。まず、確かに障害者雇用の数は増えていますが、手放しで評価できる水準ではありません。法定雇用率を達成している会社の比率は46.0%にとどまります。過半数が達成できていないのです。さらに、未達成の会社の実に57.3%が1人も障害者を雇用していません。
シニアや外国人に後れ? データで見る障害者雇用の「絶対量不足」
もう1つ気になるのが、ポテンシャルに対して障害者雇用者数が少なすぎることです。
国勢調査と労働力調査から雇用者比率を算出すると、2025年は総人口1億2300万人に対して6177万人で50.2%。一方、内閣府が2025年に公開した障害者白書から算出すると、障害者総数の推計値は1152万人です。
同年の障害者雇用数は70万4610人なので、障害者総数に対して6.1%に過ぎません。障害者白書の障害者数を分母にした単純比較には限界があるのであくまで参考値でしかありませんが、障害がある人が就業機会を得るのは、障害がない人の8倍以上難しい状況に置かれている可能性があることになります。
また、2015年の全体の雇用者比率は44.5%で、50.2%だった2025年までの10年で5ポイント以上も上昇しています。人口減少する中でも働く人の数は増えており、65歳以上のシニア層は2015年から2025年の間に236万人増えました。
厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出状況まとめを確認すると、同じ10年の間に外国人雇用者数は約166万人増えています。一方、障害者雇用の増加幅は約25万人と一桁少なく、戦力化の動きが他の人材層より後に回されているような印象さえ受けます。

法定雇用率の達成状況からも、雇用者比率からも、他人材層の増加幅との比較からも、障害者雇用の数は甚だしく不十分と言わざるを得ません。障害者雇用の質に注目が集まる一方で、絶対的な量が桁違いに少なく、障害者の多くは働く場所を満足に選べない状況に置かれているということです。
障害者雇用を巡っては、就労継続支援事業を営む絆ホールディングスによる150億円規模の不正受給問題や、障害者雇用ビジネスをめぐる不祥事などが報じられています。
確かにそれらは改善されるべき事例ですが、皆が皆、不正をしているわけではありません。就労継続支援や障害者雇用ビジネスを営む事業者の多くは真っ当にサービスを提供して、障害者雇用を創出しています。
法定雇用率があるからと数合わせだけを目的にし、「質より量」に走ってしまうとしたら問題です。ただ、望ましくない事例が見られるからと「量より質」へと振り切ってしまうと、健全な事業者もいる中で一括りにした過度な規制につながりやすく、ただでさえ極端に少ない障害者の働く機会をさらに狭めてしまいかねません。
目先の利益にとらわれない、企業に求められる「職場設計力」
労働政策審議会での議論などを見ると、経済界は法定雇用率の引き下げを要望するなど、障害者雇用の量を拡大することに積極的とはいえない様子がうかがえます。一方、有識者は質の向上については熱心に求めるものの、やはり量の拡大については慎重な印象を受けます。
しかし、障害者雇用数が極端に少ない状況に鑑みると、取り組まなければならないのは「量より質」という二者択一ではなく、「量も質も」向上させることです。
質だけでなく量も向上させる観点に立つと、「障害者雇用で利益を生まなければならない」、「他社員と同じ就業場所で働けるようにしなければならない」といった考え方の縛りにも疑問符がつきます。
障害の有無にかかわらず、会社組織の中には営業職のように直接利益を生み出すことに関わる仕事もあれば、人事や総務、経理といった管理部門のように、間接的に利益を生み出すことに関わる仕事もあります。どちらの機能も会社にとっては必要不可欠です。
農産物を販売して利益にできなかったとしても、ノベルティとして加工すれば販促活動のツールにできたり、社内で消費することで社員への福利厚生になったりもします。
障害者雇用を促進する上で会社に求められるのは、目先の利益創出だけにとらわれず、個々の取り組みを組織全体の成果拡大へとつなげる職場設計力の向上です。
また、障害者の中には、人混みが苦手で通勤に苦労する人や、足が不自由で長距離移動が困難な人もいます。「同じ職場に集まること」を前提にせず、自宅近くや在宅勤務など、就業可能な場所で働ける環境を提供する方が雇用機会を創出しやすい人もいます。
それらを「利益を生まない」、「切り離しだ」と一括りに否定すれば、就業を希望する障害者は、ただでさえ少ない選択肢をさらに奪われてしまいます。
仮に、他の人材層と同じように1152万人の障害者の50.2%が雇用されたとすると、その数は実に578万人に達します。障害者雇用の促進は、シニア層や外国人雇用を大きく上回るポテンシャルを秘めているということです。
また、障害の特性ごとに合理的配慮を積み重ねていく姿勢は、障害の有無のみならず、年齢や性別、国籍などあらゆる違いを受け入れつつ、戦力化しやすい職場風土の構築へとつながっていくことも期待できます。
いまは、残念ながら障害者雇用に消極的な会社が多い印象を受けます。しかし、慢性的人手不足の状況を踏まえると、障害者が活躍できるよう職場体制の再設計を進めるメリットは少なくないはずです。
そのためには、まず障害者雇用に向けて第一歩を踏み出して、経験を積む会社を増やす必要があります。
雇用機会が増えるほど障害がある人は仕事を選びやすくなり、質の低い雇用環境しか提供できない職場は選ばれなくなっていきます。ところが、量より質ばかりが強調されると、その一歩を踏み出すハードルが高くなりすぎ、障害者雇用の促進を後退させてしまうことになるのではないでしょうか。
記事のポイント!
障害者雇用では、能力を発揮できる仕事や適正な評価、安定した雇用など「質」の向上が求められています。しかし、法定雇用率を達成していない企業も多く、働く場所を十分に選べない障害者が少なくありません。聴覚障害を含む一人ひとりの特性に応じ、在宅勤務や通勤しやすい場所での就労なども取り入れながら、雇用機会と働きやすさの両方を広げる「職場設計力」の重要性を伝える記事です。
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