難聴の原因は耳ではなく脳。「難聴の脳」を変化させて聞こえをよくする方法とは

難聴の原因は耳ではなく脳。「難聴の脳」を変化させて聞こえをよくする方法とは

2025.07.29

耳に手を当てる女性の耳元

聴覚の名医が教える、聞こえが劇的によくなる方法(1) 耳の疾患のなかでも多くの人が悩まされている難聴。聞こえにくさのレベルは人によって違いますが、共通して言えるのは、難聴は耳ではなく“脳の変化”が原因で起こっているということ。「難聴の脳」とはどういう状態なのか、『難聴・耳鳴りの9割はよくなる』(新田清一著、世界文化社刊)より解説します。


音を聞いているのは耳ではなく脳


耳の奥の内耳に、カタツムリのような形をした蝸牛(かぎゅう)という器官があります。この蝸牛が音を電気信号に変換する役目を果たし、電気信号が脳に伝わって初めて音として認識されます。つまり、耳は音を伝える伝達器官に過ぎず、実際に音を聞いているのは脳なのです。

しかし、何らかの原因で脳に伝わる電気信号が少なくなると、聞こえが悪い=難聴という現象が起こります。代表的なものが、年を取るにつれて起こる「加齢性難聴」です。

加齢性難聴は老化による聴覚機能の低下なので、残念ながら根本的な治療法はなく、日常生活に支障をきたす場合は補聴器を使うことになります。


正常な脳と「難聴の脳」はどこが違う?


加齢性難聴の場合、耳の機能低下が少しずつ進行します。すると、自分でも気づかないうちに、電気信号があまり入らない状態=刺激の少ない状態に脳が慣れてしまいます。こうなってしまった脳が、いわば「難聴の脳」です。

■正常な聞こえと難聴の聞こえ

耳の解剖図ときこえの仕組み

イラスト上段は、音の刺激が脳にきちんと伝わり、正常に聞こえている状態。一方、下段は脳に伝わる刺激が弱く、聞こえが悪い状態。この状態に慣れてしまった脳が「難聴の脳」。

イラスト上段は、音の刺激が脳にきちんと伝わり、正常に聞こえている状態。一方、下段は脳に伝わる刺激が弱く、聞こえが悪い状態。これが続くと「難聴の脳」になる。

通常の脳は、常に音の電気信号にさらされて活性化していますが、難聴の脳は電気信号の少ない、静かな状態に慣れています。ここに補聴器を使って、聞き取りに必要な音量の音を伝えると、脳は「うるさい」「余計な音」と感じてしまうのです。

難聴の脳を甘やかす形で、うるさく感じないように調整した補聴器を使っても、音や声をきちんと聞き取れません。聞こえが改善しないと脳は考えたりする機会が少なくなり、そのぶん認知機能も低下していきます。コミュニケーションを取るのも難しくなるので周囲から孤立し、うつ状態を引き起こしやすくなります。


補聴器を継続して使うことで「難聴の脳」が変化する


補聴器はメガネとは異なり、装用した瞬間から聞こえがよくなる道具ではありません。聞き取りをよくするためには、補聴器を使って適切なトレーニングを行い、脳を鍛えて難聴の脳を変えていくステップが必要です。

トレーニングといっても特別なことをするわけではありません。プロの手で適切に調整した補聴器をつけて1日じゅう過ごすだけです。

補聴器をつけた女性の耳元

きちんと調整した補聴器を使い始めると、静かな環境に慣れていた脳に音がドッと流れ込み、脳にとっては非常にうるさく、不快に感じられます。しかし、そこであきらめずに、医師の指導のもと補聴器を使い続けることで、新しい環境に脳が慣れてきます。すると3カ月ほどで難聴の脳が変化し、補聴器による聞き取りが可能になってきます。

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新田清一先生

新田清一先生

しんでん・せいいち 済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科主任診療科長・聴覚センター長、“聞こえる”プロジェクト代表。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学医学部耳鼻咽喉科学教室入局。同教室助手、横浜市立市民病院耳鼻咽喉科副医長などを経て、2004年より現職。専門は聴覚医学(耳鳴り、補聴器、小児難聴など)、耳科学(中耳手術、人工内耳診療など)。


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イラスト/あべゆきこ 写真/PIXTA ※この記事は、新田清一『改訂版 難聴・耳鳴りの9割はよくなる』を再構成しています。


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