【デフリンピック特集】「伝わらない」を、その場でなくすために。デフリンピックでも提供された、ミライロが届けるオンライン手話通訳サービス

【デフリンピック特集】「伝わらない」を、その場でなくすために。デフリンピックでも提供された、ミライロが届けるオンライン手話通訳サービス

株式会社ミライロ コネクト部責任者の福島直人さん

株式会社ミライロ コネクト部責任者の福島直人さん
 

 窓口や店舗、イベント会場など、私たちの日常には「伝えたいのに伝わらない」という見えない壁が存在しています。とくに聴覚障害者にとって、その壁はさまざまな場面で現れ、時に大きな負担となってしまいます。ミライロはそうした課題に対し、特別な対応ではなく、誰もが使える仕組みとして、解決することを目指してきました。

 オンライン手話通訳サービス誕生の背景や開発に込めた想い、現場での導入事例、そして「バリアをバリューに変える」というミライロの企業理念について、コネクト部責任者で手話通訳者でもある福島直人(ふくしま・なおと)さんに伺いました。


1.「伝わらない」を、その場でなくすために。ミライロが提供するオンライン手話通訳サービスとは

「ミライロ・コネクトオンライン手話通訳サービス(以下、オンライン手話通訳サービス)」はどのようなサービスですか。

 聴覚障害者が、離れた場所にいる手話通訳者とビデオ通話でつながり、リアルタイムに通訳を受けられる遠隔手話通訳サービスです。特別なソフトやアプリのインストールは不要で、ブラウザ経由で利用できる点が特長です。

 QRコードやURLを読み取るだけで、待機している手話通訳者に接続でき、聴覚障害者は手話で会話することで、手話通訳者が相手側に声で通訳し、円滑にコミュニケーションができるサービスです。

聴覚障害者と窓口や店舗などのスタッフなどの間に入り、手話と声を使って通訳してくれる

聴覚障害者と窓口や店舗などのスタッフなどの間に入り、手話と声を使って通訳してくれる


2.「使いやすさ」を何よりも大切に考えられた、「オンライン手話通訳サービス」誕生の背景

「オンライン手話通訳サービス」を開発されたきっかけを教えてください。

  オンライン手話通訳サービスを開発した背景には、大きく分けて二つあります。

 一つ目は、2024年に施行された「障害者差別解消法」です。ただし、同法の施行をきっかけにサービス提供を始めたわけではありません。以前から、聴覚障害者が直面する困りごとや課題に対して、「私たちにできることはないか」と考え続けてきました。その中で、「合理的配慮*1を具体的に形にできるサービス」として、オンライン手話通訳サービスの提供を決断しました。これまでのサービス開発では、他社の既存システムやプラットフォームを活用してきましたが、本サービスは初めて自社でシステム開発を行う試みとなりました。弊社にとっての新たなチャレンジとして、開発に踏み切りました。

 二つ目は、私自身がCODA*2(コーダ)であることです。耳の聞こえない両親のもとで育つ中で、私は幼い頃から、両親がさまざまな場面で感じてきた不便さやもどかしさを身近に感じてきました。職場や日常生活の中で、「音声が聞こえない」「自分の思いを十分に伝えられない」と感じる場面が多く、手話通訳を利用したくても多くの制約によって使えない現実があることを、長年近くで見てきたのです。このような課題は両親に限ったものではありません。職場や企業の窓口、店舗、公共機関など、手話を第一言語とする人の多くが、「本当は手話でコミュニケーションを取りたいが、それが難しく、やむを得ず筆談で対応している」という状況に置かれています。そして、中には筆談が得意ではない人もいます。だからこそ、私は以前から、「手話を第一言語とする人が、無理なくコミュニケーションできるサービスを提供したい」と考えてきました。

 こうした原体験も後押しとなり、今回、オンライン手話通訳サービスの提供をスタートさせました。

*1:障害のある人が日常生活や社会生活で受ける障害(バリア)を取り除くため、障害の特性や困り事に合わせて、事業者や学校などが「過重な負担にならない範囲」で、柔軟な対応や調整を行うこと
*2:Children of Deaf Adultsの略。聴力に障害のある親のもとで育った、健聴者の子どもを指す


開発にあたって意識したことを教えてください。


  開発にあたって、特に意識したポイントは二つあります。

 一つ目は、「聞こえない人にとって使いやすい仕様であること」です。オンライン手話通訳サービスが必要とされるのは、窓口対応や接客の場面、あるいは何か困りごとが生じた際など、急を要するケースがほとんどです。そのような状況になってから特定のアプリをインストールしなければならないとなると、利用者に新たな負担が生じてしまいます。そこで利便性を重視し、QRコードの読み取りやブラウザの起動だけで、すぐに手話通訳者と繋がる仕様としました。

 二つ目は、「オペレーターが手話通訳しやすい仕様であること」です。オペレーター側も、操作が複雑だと通訳そのものに集中しにくくなってしまうため、できるだけシンプルで直感的に使える設計を意識しました。

 その結果、オンライン手話通訳サービスは聴覚障害者と手話通訳者の双方にとって使いやすいサービスになっているのです。

聴覚障害者が「オンライン手話通訳サービス」を利用している様子

聴覚障害者が「オンライン手話通訳サービス」を利用している様子


3.日常から大規模イベントまで。広がり始めたオンライン手話通訳の可能性

デフリンピックに関連した導入事例を教えてください。

 デフリンピック開催期間中、会場周辺のファミリーマート48店舗にて、9時~18時までオンライン手話通訳サービスを提供しました。
利用方法は非常にシンプルです。まず、サービス利用者が、店内に設置されたPOPのQRコードをスマートフォンなどで読み取ります。表示された画面に名前と店舗名を入力し、呼び出しボタンをタップすると、手話通訳者につながり、通訳が開始される仕組みです。呼び出し後すぐに手話通訳者が画面に表示されるため、聴覚障害者は待つことなく、スムーズに通訳を始めることができます。

 ファミリーマートでは、もともとレジ付近に指差しシートが設置されているため、簡単なやり取りであれば、それで対応できるケースもありますが、少し込み入った内容になると、どうしても時間がかかってしまっていました。そのような場面で、オンライン手話通訳サービスを利用していただきました。私自身も、実際に手話通訳者として対応しましたが、利用後に感謝の言葉もいただきました。今回は27日間と短期間での提供で、試験導入という位置付けでした。しかし、私の両親も日頃から「ATMやコピー機の使い方が分からない」と話しており、今後はこうした場面でもニーズが広がっていくのではと感じています。


他の大規模イベントに関連した導入事例がありましたら教えてください。


 2025年に開催された2025年日本国際博覧会(以降、大阪・関西万博)では、アクセシビリティセンターに導入しました。また大阪・関西万博以外にも、2025年1月22日(水)~1月24日(金)の3日間、東京ビッグサイトで開催されたスマート工場EXPOの「日本通運株式会社」が期間限定で出展したブースにて、聴覚障害者へのサポートとして導入しました。こうしたイベントの場面では、実際にどの程度利用されるか、事前に正確に把握するのが難しくなります。それでも、情報保障をあらかじめ用意しておくことは、障害者差別解消法の観点からも重要な視点です。そのため、「万が一に備える」だけでなく、「誰もが安心して利用できる環境を整える」という考えのもと、導入を検討する企業もありました。今後は、大阪・関西万博のような多くの人が集まる大規模イベントや施設での活用が、さらに広がっていくのではないかと考えています。


「オンライン手話通訳サービス」の利用者の感想を教えてください。


 オンライン手話通訳サービスは、聴覚障害者にとっても、また聴者においても高い利便性を提供するサービスですが、双方の利用者からの率直な感想が私たちのもとに直接届く機会はあまり多くありません。実際には、通訳対応を行ったスタッフから、間接的に声を聞くことがほとんどです。そうした中でも、「とてもスムーズにやり取りができて助かった」「これまでコミュニケーションに時間がかかっていたが、その時間が大幅に短縮された」といった前向きな声です。また、筆談では意図が十分に伝わらない場面も少なくないため、「第一言語である手話で直接会話ができてよかった」という感想をいただいています。

デフリンピック開催期間中、会場周辺のファミリーマートで「オンライン手話通訳サービ」を提供

デフリンピック開催期間中、会場周辺のファミリーマートで「オンライン手話通訳サービ」を提供
 

東京ビッグサイトで開催されたスマート工場EXPOにて、日本通運株式会社が期間限定で出展していたブースでも「オンライン手話通訳サービス」を提供

東京ビッグサイトで開催されたスマート工場EXPOにて、日本通運株式会社が期間限定で出展していたブースでも「オンライン手話通訳サービス」を提供


4.「バリアを、バリューに。」小さな想いを大きなうねりとして、社会の仕組みを変えていくために

貴社における今後の展望を教えてください。

 情報バリアフリーの実現に向けて、弊社ではすべての事業において「ユニバーサルデザイン」という考え方を軸に取り組んでいます。その中でも特に「情報保障」が非常に重要な要素になると考えています。

 一口に聴覚障害者といっても、手話が得意な人もいれば、そうでない人もいます。だからこそ弊社では、サービス開始当初から「一つの正解を押し付ける」のではなく、「複数の選択肢を用意する」ことを大切にしてきました。手段をいくつか用意し、聴覚障害自身が「自分に合った方法を選べる」。そんなサービスを提供していきたいと考えています。

 弊社は、「小さな想いを、大きなうねりに変える会社」という価値観を事業のあり方として大切にしています。個人が抱える課題や困りごとを、個人の問題として終わらせるのではなく、社会全体の仕組みとして伝え、変えていくことを重視しています。その根底にあるのが、企業理念として大切にしている「バリアバリュー」という考え方です。「人にはそれぞれ、弱点や短所、苦手なことがある。トラウマやコンプレックスを抱えている人もいる。しかし、それらは必ずしも克服したり、取り除いたりすべきものではない。これまで“バリア”として捉えられてきたことも、考え方や周囲の向き合い方次第で、“強み”や“価値”に置き換えることができる。バリア(障害)をバリュー(価値)に変え、私たちは社会を変革していく」。これが弊社の理念です。誰かのためだけに特別な対応をするのではなく、「ユニバーサルデザイン」という視点で社会全体をより良くしていくこと。その姿勢を、企業として今後も貫いていきたいと考えています。

 一方で、この分野では依然として悲観的な見方があることも事実で、「当事者をないがしろにしているのではないか」といった声が聞かれることもあります。私たちは、聴覚障害者や当事者団体が長年向き合い、積み重ねてきた取り組みがあってこそ、今の社会があると考えています。その歩みに対して、常に深いリスペクトを持ちながら、当事者団体が担う役割、そして民間企業として果たせる役割を意識し、ともにインクルーシブな社会をつくっていきたいと思っています。

取材協力:株式会社ミライロ
取材日:2025年12月


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https://www.nict.go.jp/info-barrierfree/topic/service/20260311/index.html

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