佐多直厚
コミュニケーションデザイナー
4/24(木) 17:01

2023 WBC 決勝 日本が14年ぶりに優勝(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)
2025年のスポーツシーンは春から熱い。未来への道を切り開いていきます。
2025年も季節は春から初夏へ。様々なスポーツが熱いドラマを展開。MLB、日本プロ野球も開幕から2か月になろうとしています。大谷翔平選手を頂点にした野球人の活躍は、目覚ましく日本をそして世界中の人々の夢を膨らませ、経済活動を活気づけています。しばらく前まで野球は子供たちのあこがれランキングで上位に入れないような停滞感もあったのですが、今は少年野球、社会人野球そして一般人の楽しむ草野球まで広くプレイを楽しみつつ、ファン層も拡大中です。
2年前に日本中を沸かせたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)も来年春に開催予定。今からワクワクする近未来です。あの2023WBCとともに2024年春、野球世界大会で日本が優勝していることをご存じでしょうか?
世界ろう野球大会WDBCは、もうひとつのWBC。
WDBC=World Deaf Baseball Championship

2024年第1回世界ろう野球大会 台湾・台北市 優勝日本 準優勝アメリカ合衆国 (写真提供:JDBA)
スポーツにおける多様性の象徴となるオリンピックとパラリンピックそして今年11月に東京を主会場に日本で初開催のデフリンピック。野球はデフリンピックの種目に上がっていませんが、2024年の記念すべき第1回世界ろう野球大会で日本が優勝し、来年第2回大会での連覇を目指す、まさにWBCと同じ立場なのです。
しかしデフスポーツ=聴覚に配慮した運営を必要とする競技も閉ざされた活動から今、ようやく豊かな多様性社会実現の連動プロジェクトとして動き始めています。WDBCが実現したことも大きな前進のひとつです。
参考:第2回世界ろう野球大会情報(2026年11月神奈川県開催予定)
WDBCの覇者日本はなぜ優勝できたのか?そもそもろう野球とは?
日本での野球のすそ野は広く、プレイするだけでなく漫画やアニメ、野球ゲームなどの思い出を持つ少年そして元少年がそこら中にいます。野球は他のスポーツにはない攻守交替かつ連携した動きでの競技。わたくしがユニバーサル競技開発に関わっての知識で言うと、多くのスポーツが「やってはいけないこと」を一つ決めて、面白くかつ集中力を上げています。例えばサッカー。手を使ってはいけません。逆にバスケットボールは足で蹴ってはいけませんね。しかし野球には「やってはいけない」はありません。チームが攻守に向き合って連携するという方向で進化したスポーツです。しかしやってはいけない決めごとではなく、聞こえない、聞こえづらい聴覚だけど、情熱を持って挑戦したい人はいます。コミュニケーションの壁に阻まれても、スポーツを愛する人々とともにその壁を乗り越えています。聞こえる、聞こえない、聞こえづらいに関係なく参加し、チームも連携して一緒に楽しみ、練磨してきました。
WDBCに出場した外野手、冨樫由稀選手の言葉を大会報告書から抜粋で紹介します。
「ろう野球の存在を初めて知ったのは数年前、知人に誘われたことがきっかけ。それまでには少年野球、中学野球、高校野球、社会人野球と健常者と同じように野球をしてきたのでろう野球について全く知りませんでした。実際に合宿に参加してみて、手話や口話、ジェスチャーでコミュニケーションを取りながら野球をしていく楽しさを覚え、私と同じ障害を持つ人達とプレーしたいと思うようになりました。」

冨樫由稀選手(写真提供:JDBA)
一般社団法人日本ろう野球協会(JDBA)が設立されたのは2020年1月です。世界大会の実現と優勝を目指して。招集された選手にはろう者の野球があることも知らず、手話などのコミュニケーションも未経験であったりする人もおり、野球技術に不可欠なチームプレイづくりに言語をはじめとするろう者の文化へ接触しました。深く知り合い、啓発しあう喜びがあふれたのです。世界と向き合う硬式野球への習熟などハイレベルな野球へ短期間でかつ全国から時間と場所を捻出しながら日本代表が育成されていきました。選手・コーチだけでなくベンチで支えるトレーナーほか関係スタッフ陣の高い技術や事務局の緻密なチームプレイはこれぞNIPPONだからこその優勝だったのです。
ろう野球は聞こえないからこそ面白い?!
サッカーは手を使えないから面白くて夢中になれると言いました。聞こえないろう野球も聞こえない、聞こえにくいからこそ面白くなります。WDBCルール規定はデフリンピックほかデフスポーツに準じて手話は通常会話も離れていてもメンバーと話し合えますし、サインでは独自のハンドサインを繰り出す頭脳戦。野球でつきもののサインプレイは見て確認する情報ですから、面白いといっていられません。さて打球の質は音での判断が重要です。真芯でとらえた音か、詰まった音かで捕球する野手は走り出すでしょう。それを見て判断しつつ、視野にあるチームメイトの指示を確認してボールを見定めるという高度なプレイです。これは観客としても驚きの技術です。面白いそして応援したくなるろう野球です。

321ジャパン!お~~!(写真提供:JDBA)
ろう野球の目指すものとは
もちろん第2回日本大会連覇です。さらに目標がありますデフリンピックの正式種目に野球を。今年のデフリンピック種目には入っていません。オリパラでも野球は制式種目に入ったり、外されたり。次回ロスアンゼルス大会では追加種目で実施です。競技会場設営、多数の用具の必要さがおおきな課題ですが、WBCとともにより多くの国の参加を促進し、野球文化とろう文化で豊かな多様性社会構築に貢献するスポーツへと進化したいものです。
ろう野球を応援しつつ、今年は開幕している大阪・関西万博で、多様な世界の未来を体感し、秋には世界陸上でアスリート魂と世界の連動を実感し、11月のデフリンピックで多様性社会づくりへ参加する楽しみが尽きない1年です。そして2026年さらにその先へとスポーツも文化もどんなに豊かな多様性を見せてくれるか、楽しみでなりません。
参考:日本ろう野球協会ホームページ
■デフリンピックについて知ってください!
筆者も以下の記事を公開しております。ぜひお読みいただき、応援そしてご支援をよろしくお願いします。
デフリンピック2025まで1年。今大会で人類が共有する大切なもの。
2025デフリンピックTOKYOへ期待する「ダイバーシティでつながる社会づくり」その1
2025デフリンピックTOKYOへ期待する「ダイバーシティでつながる社会づくり」その2

東京都多摩障害者スポーツセンター送迎バスの車体広告(筆者撮影)
佐多直厚
コミュニケーションデザイナー
金沢美術工芸大学卒。インクルーシブデザインで豊かな社会化推進に格闘中。2008年、現在の字幕付きCM開始時より普及活動と制作体制の基盤構築を推進。進行ルールを構築、マニュアルとしての進行要領を執筆し、実運用指導。2013年、豊かなダイバーシティ社会づくりに貢献する会議体PARADISを運営開始。UDコンサルティング展開。2023年7月(株)電通を退職後2024年1月株式会社PARACOM設立。 災害支援・救援活動を中心に可能な限りボランティア活動に従事。ともなってDX事業開発、ノウハウやボランティアネットワーク情報を提供。会議体PARADISの事業企画開発を担います。
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