2026/3/8 07:00
藤井 沙織

スマホアプリ「HELLO! MOVIE」。人気映画も選ぶことができる
耳や目が不自由であっても、一般の観客と一緒にどの映画館でも鑑賞できる「バリアフリー映画」が近年、増えている。スマートフォンのアプリを使い、映像に連動して眼鏡型端末で字幕を読んだり、イヤホンで音声ガイドを聴けたりする仕組みで、話題の映画の多くも対応。同じシステムを活用した新たな映画の楽しみ方も生まれ、健常者にもメリットが波及している。
スマホを使った字幕表示と音声ガイドを考案し対応作品の普及に取り組んでいるのは、NPO法人「メディア・アクセス・サポートセンター(MASC)」だ。聴覚障害者の「字幕がないために邦画を楽しめない」という訴えを受け、映画制作の関係団体や当事者の支援団体によって平成21年に設立された。
MASCによると既にスクリーンでの字幕上映はあったものの、作品や上映館は少なく、上映も映画公開から数カ月後の数日間と限定的だった。視覚障害者のためにFM波で音声ガイドを流し、持参した携帯ラジオなどで受信して聴くことができる上映会もあったが、専門のスタッフを配置する必要があり、機会は限られていた。
そこでMASCは、作品自体をバリアフリー対応にするとともに、スマホを使って、いつでも映画館で字幕と音声を届けられる手法を模索。27年から実証実験を重ね、29年に作品の上映が実現した。
実現を後押ししたのは、ソフトウエア開発「エヴィクサー」(東京)による独自の音響通信技術だ。専用のアプリで、作品の字幕や音声のデータをダウンロードしておくと、映画と連動して、眼鏡型端末やイヤホンを通して字幕や音声が同期再生される。

字幕や音声ガイドの作成にはそれぞれ数十万円かかる。双方で計100万円前後の費用を要するため、制作予算の少ない映画の場合はハードルが高い。それでもバリアフリー映画は年々増えていて、令和7年は上映作694本のうち約3割の198本が字幕、音声ともに対応していた。

眼鏡による字幕ガイド対応作品であることを示すマーク
興行収入10億円超のヒット作に限れば38本中33本に及ぶ。MASCの川野浩二事務局長は「シネコンでかかるようなメジャーな作品は、ほぼ全てバリアフリーになった」と感慨深い。
スクリーンでの字幕上映も継続されているが、バリアフリー映画のメリットは、健聴の家族や友人らと一緒に楽しめること。障害者だけでなく、「高齢になってせりふが聞こえにくくなった人が、孫と一緒に映画を見られたという声もある」(川野さん)という。
この仕組みを使い、「コメンタリー上映」という機能も誕生した。作品の出演者や監督の感想などを、副音声で聴きながら映画を楽しめる機能で、健常者が同じ映画を映画館で再び見に行った際の〝新たな楽しみ〟を念頭に置いている。
川野さんは「バリアフリー化の取り組みから映画の楽しみ方が広がった。同じ映画を何度も見てもらうことで、興行収入の底上げにもつながっている」と話している。
バリアフリー映画 専用のスマートフォンアプリ「HELLO! MOVIE」または「UDCast」から、字幕または音声ガイドのデータをダウンロードすることで、眼鏡型端末に字幕が表示され、イヤホンで音声ガイドを聞ける映画。対応作品はバリアフリー映画の情報サイト「映画みにいこ!」で紹介されているほか、作品の公式サイトにロゴマークの表示がある。「HELLO! MOVIE」の対応作品は、眼鏡型端末が映画館で無料で貸し出されている。(藤井沙織)
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