歓声を力に変える「信じる心」 びわこ成蹊スポーツ大・安井章泰陸上部コーチ

歓声を力に変える「信じる心」 びわこ成蹊スポーツ大・安井章泰陸上部コーチ

スポーツが未来を変える
2025/12/5 15:00

安井章泰陸上競技部・短距離コーチ
安井章泰陸上競技部・短距離コーチ


今年は、陸上競技界にとって2つの大きな世界大会が行われた。その一つが東京世界陸上。日本では18年ぶり、東京では34年ぶりに開催された。私自身も24年前、世界選手権に代表として挑んだ一人である。その大会が東京で行われ、日本選手が躍動した9日間は熱い戦いであった。

この大会で驚きの光景を目にする。連日、超満員となった国立競技場である。野球やサッカーのように決してメジャーではない陸上競技。日本選手権ですら競技場が満員になることがない陸上の大会で、これほどまでの盛り上がりと大歓声が沸き起こるとは想像すらしていなかった。

日本代表に選ばれた選手はその大歓声を浴びながら競技を行っていたわけだが、この歓声を力に変えられた選手と、その歓声が見えないプレッシャーとなり、自らを苦しめる結果となった選手が出たのも確かである。

歓声を力に変えるとは何なのか。私は今もその答えを完全には言語化できていない。ただ一つ言えるのは、力に変えられる選手は、自分がこれまで積み上げてきたことを信じ、失うものは何もないといい意味で開き直り、楽しむ準備ができている。結果を思い煩わずに受け入れる準備ができているのではないか。

反対に、歓声がプレッシャーになる選手の背景には、周囲からのとてつもない期待の大きさが、選手本来が持つ力を奪い取っている可能性もあるのではないだろうか。そして競技場の大歓声が期待に応えなければならないという強いプレッシャーとなり、本来の自分を見失うことにもつながっているようにも感じた。ましてや地元開催となれば、その期待はさらに大きく、プレッシャーがどれほどのものなのか。私たちでは計り知れないものであるだろう。

もう一つ、今年開催された世界大会が東京デフリンピックである。デフとは「耳が聞こえない」という意味。私は今大会、このデフリンピック日本代表の短距離コーチを務めさせていただいた。デフリンピックという一般的にはあまりなじみのない大会ではあるが、この大会にも多くの観客が競技場に来場してくださり、熱いエールを選手たちに送っていただいた。

デフ選手は競技中、補聴器や人工内耳を外さなければならない。まさに音のない世界で戦う。裏を返せば自分の世界に入り込み、自分のことだけに集中できるのである。結果、日本代表選手は数多くのメダルを獲得し、入賞や自己記録更新を果たした。耳が聞こえなくとも、会場の手話での拍手や「サインエール」、そして声援による空気の振動は確かに選手たちへ届く。それは紛れもなく大きな力になっていた。


4年に1度のデフリンピック、選手たちはさまざまな思いを胸に地元開催の大会に挑んだ。そこにはプレッシャーではなく自分を信じ、競技を純粋に楽しみ、最善を尽くす姿があった。

満員の競技場で歓声を浴びながら競技できることは、選手にとって何よりの幸せだ。その景色を目に焼き付け、自分自身を奮い立たせる力に変えてもらいたい。歓声の形こそ違えど、そこに込められた思いは同じ。私は信じている。歓声は、必ず力になる。


安井章泰
(やすい・あきひろ) 滋賀県出身。びわこ成蹊スポーツ大学陸上競技部・短距離コーチ。2001年世界陸上エドモントン大会100メートル日本代表。2000年アジア選手権100メートル、400メートルリレー日本代表。100メートル自己ベスト10秒21。


リンク先は産経新聞というサイトの記事になります。


 

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