2026.04.24 06:30:12 Friday

周りが騒がしくて、聴きたい音楽がきこえない。
そんなとき、目を閉じて、音をしっかり聴こうとする人は多いはずです。
目を閉じれば余計な情報が遮断され、音に集中できる――そんな“常識”は広く信じられてきました。
しかし、中国・上海交通大学(SJTU)の研究チームが、この常識を検証したところ、意外な結果が明らかになりました。
騒がしい環境では、むしろ目を閉じることが「聞こえにくさ」を生む可能性があるというのです。
研究の詳細は2026年3月17日付で学術誌『The Journal of the Acoustical Society of America』に掲載されています。
参考文献
Does Closing Your Eyes Help You Hear? A Surprising Study Has The Answer
https://www.sciencealert.com/does-closing-your-eyes-help-you-hear-a-surprising-study-has-the-answer
Closing Your Eyes Might Not Help You Hear Better After All
https://publishing.aip.org/publications/latest-content/closing-your-eyes-might-not-help-you-hear-better-after-all/
元論文
Visual engagement modulates cortical criticality and auditory target detection thresholds in noisy soundscapes
https://doi.org/10.1121/10.0042380
ライター千野 真吾(Singo Senno)
生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者:ナゾロジー 編集部(Nazology Editor)
目を閉じると本当に聞こえやすくなるのか?
研究チームは、実際の生活に近い「騒音環境」でこの疑問を検証しました。
参加者は約70デシベルの背景ノイズの中で、複数の音の中から特定の音を聞き分ける課題に取り組みました。
音の種類は、水しぶき、ドラム、鳥のさえずり、列車の走行音、キーボード音など、日常的なものです。
実験では、参加者は音量を自分で調整し、「背景音の中でかろうじて聞こえる」レベルを報告しました。
このとき、視覚条件は4つに分けられています。
目を閉じた状態、目を開けて無地の画面を見る状態、音に対応する静止画像を見る状態、そして音と一致する動画を見る状態です。
その結果、何も映っていない画面を見ているときの音量を基準とすると、目を閉じた場合には、平均して約1.3デシベルも音を大きくしなければ聞き取れませんでした。
つまり、感覚的には「聞こえにくくなっている」状態です。
一方で、音に対応する静止画像を見ていると、より小さな音でも聞き取ることができました。
さらに動画を見ると、その効果はより強くなり、基準よりも約3デシベル小さい音でも検出できるようになったのです。
一般的なイメージとは逆に、「目を閉じると不利、視覚情報があると有利」という結果がはっきりと示されました。
では、なぜこのような逆転現象が起きるのでしょうか。
脳が「音を削ってしまう」という逆効果
チームは、この現象の原因を探るため、参加者の脳活動を脳波測定で記録しました。
その結果、目を閉じると脳が「神経臨界状態」と呼ばれる状態に近づき、外界からの情報を強く選別する傾向があることが分かりました。
これは一見すると効率的に思えますが、問題はその“選別の強さ”にあります。
騒音環境では、脳は目的の音と背景ノイズを切り分ける必要があります。
しかし目を閉じることで内側に注意が向きすぎると、このフィルタリングが過剰になり、雑音だけでなく目的の音までも一緒に削ぎ落としてしまうのです。
一方、視覚情報がある場合は状況が異なります。
特に音と一致する映像があると、脳は外界の情報にしっかりと結びつき、聴覚の処理を補助します。
つまり「見ること」が「聞くこと」を助けるのです。
研究者は、この結果について、騒がしい環境では視覚が聴覚の“足場”となり、外界とのつながりを保つ役割を果たしていると説明しています。
なお、この結果はあくまで騒音環境におけるものです。
静かな場所では、これまでの研究通り、目を閉じることで聴覚への集中が高まり、音を拾いやすくなる可能性は十分にあります。
記事のポイント!
騒がしい場所で「目を閉じれば音に集中できる」と感じたことはありませんか。本研究ではその常識が覆され、目を閉じると脳が情報を強く選別しすぎることで、必要な音まで削ってしまう可能性が示されました。一方で、音と一致する映像を見ることで、より小さな音でも聞き取れるようになることが分かっています。つまり、騒音環境では「見ること」が「聞くこと」を助けるという点が大きなポイントです。
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