国連へ提案する国際協力への意見を発表する高校生の弁論の全国大会で最高賞を獲得した北杜市立甲陵高校1年 前橋真子さんの主張の全文を紹介します。
【差別を考える主張 前橋さんが最高賞をとるまで】
‐あなたの一歩、わたしの一歩‐
山梨県 北杜市立甲陵高校1年 前橋真子
3人に1人。
1億2千万人以上の人が暮らすこの日本では、3人に1人が高齢者か障がい者、ハンディがある人だと言われている。
私の妹もその1人だ。
音が聞こえない、重度難聴という障がいと共に生まれた。
私は妹とコミュニケーションをとるために幼い頃から手話を覚えた。
一生懸命覚えた手話が妹に伝わると嬉しかった。
初めて手話で『お姉ちゃん』と呼んでくれたときは泣いて喜んだ。
これが私たち姉妹の大切な、大切な意思疎通の手段だった。
ある時、指をさされて言われた。
『何あれ。変なの。魔法使いみたい』
レストランの隣の席の男の子。
私たちが使う手話を見て発した悪意のない一言。
でも、その時の私の心にはひどく突き刺さる冷たい言葉に感じた。
素直に手話の説明をしてあげれば良かったのかもしれない。
でもそれがとっさにできなかったのは、自分もどこかで妹のことを私とは違う、と
区別していたからかもしれない。
社会には様々な問題がある。
その一つに、差別問題が挙げられる。
『自分とは違う』そんな区別が不平等な扱いを生み、差別に繋がることがある。
最近では、紛争や災害といった避けがたい理由により母国を離れることを余儀なくされた人々が差別に遭うことがある。
命からがら逃げてきてようやく新たな生活に身を置けると安心した矢先の残酷非道な差別に対し、「私はいいから、子供にだけは笑っていてほしい」と言葉を詰まらせて話すテレビの中の女性に私は涙せずにはいられなかった。
私にとって差別とは終わりのない長いトンネルそのものだった。
文化や価値観の違いに漠然とした不安を覚えながらも先日、私はアメリカからの留学生のホームステイを受け入れた。
彼は自分の国や言語について様々なことを教えてくれた。
英語では障がい者を“disabled people”とは言わない。
“people with disabilities”障がいと共に生きる人という言い方をするそうだ。
あくまでも人に焦点を当て、全員に同じ権利があることを強調するという。
そして彼は、自分の国のカフェの写真を見せてくれた。
そこには車椅子に乗った人が他の人と同じように楽しそうに働く姿があった。
その姿を見て、私はハッとした。
今までのような怖さや不安は感じなかった。
世界が一気に開けた気がした。
そして、考えてみた。
50年後の2070年。
在日外国人の比率は、現在の50人に1人から10人に1人まで高まると言われている。
これからの時代、もしも、私たちが人を傷つけることに鈍感で、自分の身勝手な正義を疑いもせず、口にしたらどうだろう。
文化や価値観の違いから、間違いなく争いが起きる。
争いが起これば学校に行けなくなる。
愛する人と共にいることもできなくなる。
私たちが感じる当たり前の日常が一瞬にして壊れることになるのだ。
だからこそ、私はこの場に立った。
差別のない50年後の未来をつくるためには、ここにいる若者にこそ伝える必要があると思ったからだ。
もし私がユースリーダーだったら若者に向けて、「差別や衝突をなくすために正しく発信すること」を提案する。
私たち若者の強みは何と言っても、発信することだ。
お互いを尊重するには相手の立場に立って考えなければならない。
自分の立場に立って考えてもらうには相手に自分の思いをまっすぐ伝える必要がある。
何か助けが必要なときはこうしてほしいと伝える。
何か間違っているときは、はっきり伝える。
このような小さな積み重ねが偏った見方を変えていくきっかけとなる。
私は耳の聞こえにくい子供たちのリトミックにボランティアとして参加し始めた。
手話で会話をする中で、自分の中の無意識の思い込みに気づかされた。
大切なのは、どちらに優劣をつけることでも、是非を問うことでもない。
正しい発信と理解をすることだ。
少しの勇気を持って発信すれば、その発信にたくさんの人が耳を傾けてくれるはずだ。
現在、差別被害に遭っている人々を支援する募金やイベント、手話や点字を学べる機会などもたくさんある。
それらに参加するのも、新たな「発信」に繋がるはずだ。
『人種差別は魂の病だ。どんな伝染病よりも多くの人を殺す。悲劇は、その治療法が手の届くところにあるのに、まだつかみ取れないことだ』
これは、元南アフリカ大統領、ネルソン・マンデラの言葉だ。
確かに、私たち若者は過去の残酷な差別問題を解決することはできない。
でも、これから先、差別のない未来をつくることはできる。
あなたのほんの少しの伝えようとする意識が人や国の不平等問題解決の「大きな一歩」にきっとなる。
今の私なら胸を張ってあの子に言える。
『これはね、手話って言って私と妹が話すための大切な言葉なの』
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