【第6回】
近年、発達障害の特性に気付かれないまま成長した青年や成人が、生活ストレスの中で抑うつや不安など、さまざまな精神症状に悩まされ精神科を受診し、そこで初めて発達障害の診断を受けるという事例が急増しています。発達障害にはいろいろなものがありますが、最近話題になることが多い「ASD:自閉症スペクトラム障害」「ADHD:注意欠陥・多動症」について例を見てみましょう。

成人になって初めて発達障害の診断を受ける事例が急増している(イメージ)
【27歳女性:ASD】
幼少期はおとなしく目立たない子で、人見知りや大声で泣き叫ぶようなこともなく、育てやすい子だった。小さいうちから本を読むことが好きで、文字に興味を持ち平仮名、カタカナ、簡単な漢字は早いうちに理解した。地元の幼稚園に通ったが、学業成績が良く、受験をして小学校から大学までは私立の一貫校へ進学、無事に卒業した。
大学卒業後、一流企業に就職したが突然辞職。以降、3年間引きこもり状態で、心配した両親に連れられて受診。視線を合わせず、うなずきや首振りで返答するのみで発語はない。職場において大声で叱責されたことがトラウマとなり、怖くて辞職。そのことを思い出してしまい外出ができなくなっていた。社会的コミュニケーションの障害、聴覚過敏を認めた。
【32歳女性:ADHD】
もともと友達は多い方で、リーダー格として遊びを仕切ったりしていた。しかし、同級生には余計な一言を言ってしまったり、気に入らないとすぐに怒ったりすることがあった。学校では忘れ物や、持ち物をなくすことが多く、授業中は落書きをしたり、おしゃべりをしたりすることが多かった。小中高と地元の学校に通っていたが、大学入学に伴い、1人暮らしとなった。高校生までのように家族に起こされないので自分では朝起きられずに遅刻ばかりしている。レポート提出はいつもぎりぎりになってどうにかしようとするが間に合わない。金銭面の足しにとアルバイトを始めたが、土壇場でキャンセルすることが続き、注意を受けた。反省することなく、いつもうそや言い訳ばかりを繰り返すためクビになった。
留年したことで生活を心配した両親が部屋を訪れると、乱雑に散らかっておりゴミの山ができていた。部屋のことは両親の助けを借りながら整理し、大学はどうにか時間をかけて卒業。一般企業に就職したが、自分に向いていないと思い、誰にも相談せずに辞職。その後もさまざまな職に就くも、転職を繰り返し、半年も続けられない。しかし求人情報をもとにすぐに次の就職面接に行くなど活動的な面もある。
見かねた両親に連れられて受診。活発な印象がある一方、質問中に出し抜けに答えるなど落ち着かない部分も垣間見える。会社を辞めた理由については、「同僚とケンカした」「上司に怒られた」「頼まれたことが覚えられない」―など。両親の話では、子どもの頃から後先を考えずに手当たり次第に行動することがあったとのことだった。不注意や多動・衝動性を認めた。
◇スペクトラムーひとりひとり異なる特性のグラデーション
ASD、ADHDについて一例を挙げましたが、発達障害には「スペクトラム」という概念があります。スペクトラムとは「連続体」「範囲」と訳される言葉で、基本的に境界線・範囲が明確ではない状態が連続しているさまを表現する場合に使われます。人間の特性においてのスペクトラムは個人の特性や能力が一様ではないことを示し、さまざまな形や程度で現れることであり、この例はあくまでも一例ということになります。
有病率はASDで1~2%、ADHDでは学童期に約7%、成人期に約2.5%とされますが、診断がつくかどうかは文化や環境によって大きく左右されるため、報告によってばらつきがあります。ただし、どちらもおよそ2:1の割合で男性に多く、近年有病率が急速に伸びてきていることが分かっています。診断は母親の妊娠・出産時の状況からその後の発達歴、家族歴や所属集団における活動の様子などの聴取のほか、本人の行動の観察や診察、母子手帳や通知表などを参考にしながら総合的に行われます。幼少期の様子を聴取できるように家族から、また所属集団に属する人からの聴取なども積極的に行われます。
(ASDの特徴)
●社会的コミュニケーションの障害
* 視線が合わない
* 人見知りがない(または激しい)
* 他者の表情が理解できない、推測しない
* 他者の気持ちが理解できない、推測しない
* 暗黙のルールを理解できない
* 状況判断が苦手
* 友人関係が作れない
* 他人にお構いなくマイペース
* 共感性に乏しい
* 指さし行動や共同注意が乏しい
* 表情変化に乏しい
* 言葉の遅れ、自発語量が少ない
* 会話が続かない
* 冗談や嫌みが通じない、皮肉が理解できない
* ボディーランゲージが乏しい
●限定した興味と反復行動
* 興味範囲が狭い
* 特殊な才能をもつことがある
* 興味のあることだと細かい知識まで覚える
* 意味のない習慣に執着
* 自分なりの手順を守ろうとする
* 予想通りにならないと混乱する
* 環境変化に順応できない
* 応用力がない・融通が利かない
* 1番にこだわる
* ごっこ遊びや想像力を必要とする遊びをしない
* 物を並べる遊びが好き
* 物語より図鑑やカタログを見るほうが好き
* 常同的で反復的な身体的運動(くるくる回る、ピョンピョン跳ねる、体を揺する、首を振る)
* 常同的で反復的な言語の使用
* 感覚異常(聴覚・視覚・触覚・嗅覚の過敏や探求)
(ADHDの特徴)
●不注意
* 不注意によるミス
* 注意の持続が困難
* 注意の転導性が高い
* 順序立てが困難
* 落とし物・忘れ物・失くし物が多い
* 約束を忘れる
* 朝起きられない
* 集中できない
* 締め切りが守れない
* 後片付けが苦手
* 整理整頓が苦手
●多動・衝動性
* 落ち着きがない
* 走り回る
* じっとしていられない
* けがをする
* しゃべりすぎる
* 怒りやすい
* けんかしやすい
* 順番を待てない
* 過干渉
* おせっかい
* 無駄遣い
* 質問中に出し抜けに答える
* 後先考えず行動する
* うそをつく

成長に伴い「自分は周囲の人たちとどこか違う」と感じるようになる(イメージ)
◇成長とともに変化する発達障害の症状
症状の特徴はASDの場合、乳幼児期から、ADHDも幼児期早期から見られます。成長に伴いいったんは改善や軽快したように認められる時期を経ますが、一生を通じてなんらかの形で持続することが多いです。他覚的には症状が改善したように思われる時期についても、自覚的には次第に「自分は周囲の人たちとどこか違う」と感じるようになり違和感を覚えながら日々を過ごすようになったり、人間関係に消極的になったり、自信や意欲が低下したり、とさまざまな生きづらさを実感します。
大人になって気付かれる発達障害の場合には、
・児童期には症状が軽症であった
・知的レベルが高かった
・家族や教員などの適切なサポートがあった
などの場合が挙げられます。例にもあるように、成人期に入り大きなストレスがかかったり、周囲の支援が得られなくなったりする場合に状態が表面化することは少なくありません。
もしあなたが日々生きづらさを感じていて、毎日仕事を頑張っているのにうまくいかないと思っている場合、以下のような状態を認める場合には発達障害があるのかもしれません。
・会話の内容がかみ合いにくく、周囲から敬遠されるなど仕事がうまく進まない
・上司の指示がすぐに理解できない、理解できていないことを伝えるのにちゅうちょする
・「うまくやっておいて」「適当に」などあいまいな支持に不安を感じる
・相手の言葉の裏にある意図が分からず、的外れな対応をしてしまう
・得意分野と苦手分野の能力の差が明白
・作業の進め方にこだわりがあり、周囲に合わせることが難しい
・想定外のことが起きた場合に動揺する・融通がきかないとよく言われる
発達障害の場合、主症状が完全に治ることは困難で、完治を目標とするのではなく、環境を自分が過ごしやすい状況に整えていくこと、今抱えている問題の解決を目指すとともに、症状を自分らしさとして折り合いをつけていけることを目標とします。
うつや不安、不眠などで通院を続けているものの、なかなか症状が良くならないという方、挙げた例や症状などに心当たりがある方は発達障害も含めて、専門家にご相談されることをお勧めします。(了)

松澤美愛医師
松澤美愛(まつざわ・みあ) 慶應義塾大学病院初期臨床研修後、同大学病院 精神・神経科に入局。精神科専門病院での外来・入院診療に加え、救急・総合病院でのリエゾン診療、障害者支援施設や企業でのメンタルヘルス対応など、幅広い医療現場を経験。個人と社会の変化に応じた「こころのケア」を実践。24年東京都港区虎ノ門に「神谷町カリスメンタルクリニック」を開院。精神疾患を抱える方が“自分らしさ”を取り戻すきっかけとなるよう、患者一人ひとりの背景に寄り添った診療を心掛けてている。
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