2026年8月17日 10時15分
伊東聖

聴覚障害者専用の養護老人ホーム「あすらや荘」の利用者と手話で会話する大林美樹さん(左)=2026年7月17日午前9時18分、広島県呉市、伊東聖撮影
ある一言が、その後の人生を大きく左右することがある。広島県呉市の大林美樹さん(50)はそう実感している。
18歳の夏。海田町にある広島福祉専門学校のオープンキャンパスに行った。「私は耳が聞こえないけど、介護福祉士になれますか」。そう尋ねると、女性の先生は答えた。「人一倍、苦労すると思うけど、やるのであれば、あなたは初めてのチャレンジャーになる。やってみる?」
他の学校からは、聞こえないと伝えただけで受け入れを拒まれていた。ものすごくうれしくて、進路を決めた。
入学してからは苦労の連続だった。手話通訳や要約筆記などが十分でない時代。先生が何を言っているかわからない。それでもクラスメートが手話を覚えたり、ノートを見せたりして助けてくれた。気遣ってくれる先生もいた。実習先の福祉施設では「聞こえないのに、できるの?」と偏見を持たれたが、常に「チャレンジャーとして諦めてはいけない」と自分に言い聞かせた。
2年間の学習を終え、介護福祉士の資格を、ろう者として県内で初めて取った。卒業式では、入学式ではなかった手話通訳が付き、約350人の卒業生代表として答辞を手話で述べた。「世の中って変わるんだな」と思った。
呉市に日本で初めて建てられた聴覚障害者専用の養護老人ホーム「あすらや荘」に介護福祉士として就職。結婚、出産を機に一時離れたが、再び戻って勤務する。同僚は「ろう者からの信頼が厚い。何かあればいつも『大林さんはどこ?』と聞かれる」と話す。
あすらや荘の利用者は全国各地から集まった高齢者だ。各地の古い手話を、ノートにメモしたり、スマホに録画したりして記録し続けている。そんな時、差別を受けた苦しい過去をふと打ち明けてくれる利用者もいる。「背景も含め、記録に残し、それを伝えていきたい。それが自分の使命だと思っている」
記事のポイント!
「耳が聞こえないけど、介護福祉士になれますか」。18歳の大林美樹さんに先生が返した「初めてのチャレンジャーになる」という言葉が人生を変えました。手話通訳などの支援が十分でない時代に学び、偏見にも直面しながら県内初のろう者の介護福祉士に。現在は聴覚障害者専用の養護老人ホームで働き、各地の古い手話や利用者が経験してきた差別の記憶を残し、伝えることを自らの使命としています。
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原文掲載元はこちら
https://www.asahi.com/articles/ASV8J3SLCV8JPITB00PM.html?iref=pc_ss_date_article
