ドラマのセリフが聞き取れない、大勢で話すのが苦手…。聴力に問題なくても起こる「聞き取り困難症」の正体

ドラマのセリフが聞き取れない、大勢で話すのが苦手…。聴力に問題なくても起こる「聞き取り困難症」の正体

ESSE編集部
2025/03/14

しっかり集中して聞いているはずなのに、ドラマのセリフが聞き取れなかったり、ガヤガヤした場所での会話が聞き取れなかったり…。聴力に問題がなくても聞き取りづらいと感じることがあれば、それはもしかしたら「聞き取り困難症(LiD)」かもしれません。長年LiDの研究を続けており、『聞いてるつもりなのに「話聞いてた?」と言われたら読む本』(飛鳥新社刊)を刊行した大阪公立大学の耳鼻科医・阪本浩一先生にお話を伺いました。

聞き返す人

ちゃんと聞いているつもりなのに、聞き取れないことがあることはありませんか?(※写真はイメージです)


聴力に問題がなくても聞き取れないことがある!「LiD」って?

「近年、人が話していることがわからない、聞こえないと、私のもとを訪れる人が増えています。目立つのは、20代の女性でしょうか。もちろん男性の方もいらっしゃいますし、年齢は20代に限りません」

と阪本浩一先生。
そんなみなさんは、次のような困難を訴えるそうです。

「電話口でなにを言われているのかわからず、何度も話を聞き返してしまう」
「うるさい場所では、人の話を聞き取れない…」
「聞き間違いをしてしまい、笑われたりする」
「複数人の会話だとよくわからず、会話に入っていけない」

話に耳を傾け、むしろ聞き逃さないように真剣に話を聞いているのに、話の内容がよく聞き取れない、声は聞こえているけどなにを言っているかわからない、というお悩みが多いそう。

「そんな自分に不安を覚えた人は、聴力になにか問題があるのかな? と耳鼻科を訪れます。しかし、聴力検査をしてみると不思議なことに結果は『異常なし』。つまり、聴力に大きな問題はないのです。これがLiD、あるいはAPDと呼ばれるものです」

APDとは聴覚情報処理障害という症状のこと。英語にするとAuditory(聴覚) Processing(情報処理) Disorder(障害)であることから、その頭文字をとり、「APD」という略称で認知されてきました。しかし、海外ではListening(聞き取り)Difficulties(困難)=「LiD」と呼ばれていることから、国際的な基準に合わせて日本でも「LiD」と呼ぶ流れに変わってきているそうです。


3つ以上当てはまったら要注意! 簡単問診票をやってみよう


聞き取れない女性

もしかして自分は人の話を聞き返してしまっていることが多い…?(※写真はイメージです)


LiDの聞き取りが難しくなる状況を聞いて「あれ? これ、難聴と同じ症状ではないの? どこが違うの?」と思った人もいるのではないでしょうか。

「難聴の方も、聞き直しや聞き間違いが多く、雑音のある場所では話をうまく聞き取れない症状は同じです。『相手の話が聞きづらい』ことに変わりはないのですが、LiDが難聴者と大きく違う点が、一般的な聴力検査をしても「異常がない」ということ。少し雑な言い方ですが、『聞こえが悪い=難聴』で、『聞き取りが悪い= LiD』です」

聞き取りに不安があったら、下記の簡単問診票で確認してみましょう。

「これは、私が作成しただれでもできる簡単問診票です。質問のうち、3つ以上当てはまったら、LiDを疑ってもいいかもしれません」

□ 健康診断の聴力検査や、病院の検査では『異常なし』なのに、聞こえにくい気がする
□ 早口な人や、声の高い人や、声の低い人など、特定の人と会話するときに、聞こえにくい気がする
□ 意地悪しているつもりはないのに、『無視しないで』とか『話をそらさないで』と言われることがある
□ 周囲の雑音や声や様子など、いろいろなことが気になってそわそわしてしまい、会話に集中できないことがある
□ 仕事や勉強や作業や遊びなどに集中していると、呼ばれていることに気づかないときがある
□ 話を聞きながらメモをとる、ということが難しく、話を聞くときはメモはとらず、聞くことだけに集中している
□ なじみのない単語や、自己紹介や電話口の人の名前がうまく聞き取れない
□ だれかの話を聞いているときに集中力が続かなくて、なぜかぼんやりしてしまったり、気づいたときには話題が変わっていることがある
□ 会話をした数分後や数時間後に、ふと、会話時に聞こえなかった言葉や、相手の言いたかったことがはっきりわかることがある
□ 会話をしているとき、せっかく話題に乗ろうとしても相手の反応がいまいちだったり、『空気が読めてない』と言われることがある
□ 頼まれた用事があるのに、別のことをしているうちに忘れてしまったり、思い出せないことがある
□ 聞いている最中はたしかにわかっているのに、あとでなにを言っていたのかわからなくなったり、思い出せなくなったりすることがある
□ 引越し、進学、転職、部署異動など、環境が変わってから聞こえにくくなった気がする
□ 周りの人と比べて、自分は聞き返すことが多い気がする
□ 複数人での会話が苦手で、1対1で会話する方がやりやすい気がする
□ 寝不足やストレスで身体や心が疲れている気がする

いかがでしょうか? 意外と当てはまる人が多いかもしれません。

LiDかなと思ったら、まずは耳鼻科へ
「LiDを疑ったら、必ず行ってほしい検査が聴力検査です」

と阪本先生はいいます。

「LiDには、『聴力検査をしても異常は認められない』『音として聞こえているのに、言葉として聞き取れない』という2つの特徴があります。そのため音そのものが聞こえづらい難聴とは分けて考える必要があるのです。

残念なことに、耳鼻科医でもLiDについて知らない人も多く、検査を受けられるクリニックの数は限られています。しかし、聴力検査であれば、身近なクリニックでも受けられるため、『LiDかな?』と疑うのであれば、手始めに聴力検査を受けることをおすすめします。多くの耳鼻科でカジュアルに受けられる聴力検査を、『純音聴力検査』というので、そう伝えると早いでしょう」


LiDかなと思ったら、まずは耳鼻科へ

「LiDを疑ったら、必ず行ってほしい検査が聴力検査です」

と阪本先生はいいます。

「LiDには、『聴力検査をしても異常は認められない』『音として聞こえているのに、言葉として聞き取れない』という2つの特徴があります。そのため音そのものが聞こえづらい難聴とは分けて考える必要があるのです。

残念なことに、耳鼻科医でもLiDについて知らない人も多く、検査を受けられるクリニックの数は限られています。しかし、聴力検査であれば、身近なクリニックでも受けられるため、『LiDかな?』と疑うのであれば、手始めに聴力検査を受けることをおすすめします。多くの耳鼻科でカジュアルに受けられる聴力検査を、『純音聴力検査』というので、そう伝えると早いでしょう」


聞き取りにくい状況は、工夫次第で変えられる!


コンビニレジ

日常生活でも対処できる場面はあります(※写真はイメージです)


聞き取りの問題だけに、外からは困りごとが見えにくいLiD。治療法も確立していないため、当事者の方はさまざまな工夫をしているそうです。

「LiDは進行性のある病気ではなく、ひとつの特性/個性です。けれども、LiDに対する世間の認知は十分ではありません。ただでさえ他人からわかりづらい症状のため理解されず、支援の手が遅れているのが現状です。それはとても残念なことだと思います。しかし、現在では簡単に取り入れられる有効な対処法もたくさんあり、それを知ることは、今後の人生にきっとプラスになるはずです」

LiD当事者の方々も、日常的に工夫していることがあるそう。

「たとえば店員さんとのやり取りも、LiDにとっては苦労が多い、代表的なシーンです。コロナ禍に広まったレジ前のビニールシート、マスク越しの会話により、聞き取りが難しくなりました。コンビニでは、お弁当を買うだけでも『レジ袋は要りますか?』 『お箸は必要ですか?』『温めますか?』などさまざまに聞かれます。また、ポイントカードの提示などもあり、レジ前のタスクは意外に多いものです。

ただ、こうした会話は定型ですので、あらかじめ先に伝えておけば、聞かれることもないので、店員との意思疎通の際、ミスマッチを起こさずにすみます。先手必勝ではありませんが、ある程度起こりうる状況や質問を予測しておくだけでも、コミュニケーションがスムーズにいくことは多いのです」


●テレビのセリフが聞き取れないときは…

ほかにもLiDの方が苦手とすることのひとつに、テレビなどの音声を聞くことがあります。

「テレビのような電子機器から流れてくる音は、音質が悪く、聞き取りづらいものです。入れ替わり立ち代わり話す人が変わるドラマは、セリフを追うのがひと苦労なこともあります」

そんなときに当事者の方がよく使うのが、字幕機能です。

「ドラマの字幕は登場人物に合わせてオンタイムで表示されることがほとんどのため、ストレスを感じずに鑑賞できます。字幕機能は、テレビだけでなく、ネット配信の番組、YouTubeでも表示することができます(生放送など字幕機能のずれが生じるものもあります)」


症状とつき合っていくために、肩の力を抜くことも大切


研究途上のLiDですが、原因の多くを占めるのは、生まれもった脳の特性だと考えられているそうです。

「LiDは脳がもつ認知機能の偏り、いわばクセにより起こることが多いため、心因性でない場合は治療法のある病気とはいえません。一般的な病気との大きな違いは、LiDには進行性がないこと。もちろん加齢によって耳の聞こえが悪くなることはありますが、それは老化現象のひとつで、LiDをもつ人だけに起こりうるものではありません。

どんなにがんばったとしても、聞き取れない状況は生じますから、親しい家族や友人と円滑なコミュニケーションをとるためにも、仕事を支障なく行うためにも、自分ひとりで背負い込まずに、周囲の人たちにLiDの特性を伝え、協力してもらうことが大切です」

聞いているつもりなのに「話聞いてた?」と言われたら読む本』(飛鳥新社刊)の中では、LiDのことを人に伝える際の言葉や、周囲に助けてもらいやすくなる声かけ方法なども掲載しています。「聞き取りづらさがあるにも関わらず、頼れる制度がないLiD。自分も周囲も、双方認め合う生きやすい世の中を目指すためにも、これからももっとLiDの理解が広まってほしいと考えています」

聞いてるつもりなのに 「話聞いてた?」と言われたら読む本

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