「大人が中耳炎」を発症するとどんな症状が現れる?【医師監修】

「大人が中耳炎」を発症するとどんな症状が現れる?【医師監修】

公開日:2025/09/26

「大人が中耳炎」を発症するとどんな症状が現れる?【医師監修】
中耳炎は小児に多い病気ですが、大人でもかかる可能性があります。本記事では大人の中耳炎について、種類ごとの原因や症状、治療法、放置した場合のリスク、そして治療期間や日常生活での注意点までを解説します。


監修医師:
林 良典(医師)

名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
目次 -INDEX-


大人の中耳炎の概要と種類

QAの文字

Q. 中耳炎とはどのような病気ですか?

A. 中耳炎とは、鼓膜の奥にある中耳腔で細菌やウイルス感染により炎症が起きている状態を指します。耳は外耳・中耳・内耳の3つの部分に分かれますが、中耳炎はこのうち中耳の炎症です。中耳は鼻の奥(上咽頭)と耳管という管でつながっており、通常は耳管を通じて中耳の換気や排液が行われています。しかし、風邪などで鼻や喉に炎症が起こると、耳管を通じて中耳に病原体が侵入して中耳炎が発症します。


Q. 大人がかかる中耳炎の種類を教えてください

A. 子どもの中耳炎というと急性中耳炎滲出性中耳炎が多いですが、大人でもこれら2つは主要なタイプです。大人の中耳炎の多くは急性中耳炎か滲出性中耳炎ですが、放置すればそれが長引いて慢性中耳炎になったり、真珠腫性中耳炎に進展することもあります。したがって大人でもこれらすべてのタイプに注意が必要です。大人の場合、子どもに比べて中耳炎の頻度は低いものの、症状が重くなる傾向があります。


Q. それぞれの中耳炎の原因を教えてください

A. 中耳炎のそれぞれの主な原因は以下のとおりです。

急性中耳炎の原因
多くは風邪(ウイルス性感冒)など上気道炎に引き続いて発症します。


滲出性中耳炎の原因
耳管の機能不全が根本原因です。急性中耳炎の後、中耳に液体が残って滲出性中耳炎に移行するケースが最も多くみられます。


慢性中耳炎の原因
多くは急性中耳炎の繰り返しや治療不十分により、鼓膜に穴が開いた状態が治らず慢性化したものです。


真珠腫性中耳炎の原因
幼少期からの中耳炎の反復滲出性中耳炎の遷延によって耳管機能が低下し、中耳の換気不全が長期間続くことが発生要因と考えられています。

 

大人の中耳炎の症状

ベッドの中で両耳を抑える男性

Q. 急性中耳炎はどのような症状ですか?

A. 急性中耳炎では、典型的には耳の強い痛みが突然生じます。痛みに加え、耳が詰まった感じ(耳閉感)聞こえにくさ(難聴)も起こります。鼓膜のなかに膿が溜まってくると痛みと圧迫感がさらに強くなります。また、しばしば発熱も伴い、大人でも微熱~高熱が出ることがあります。膿の圧で鼓膜が破れる(鼓膜穿孔)こともあり、この場合耳だれ(耳から膿が出ること)が出現します。痛みが治まった後もしばらくは聞こえにくい状態が続く点も急性中耳炎の特徴です。なお、急性中耳炎が重症化するとめまい頭痛を伴うこともあります。大人では耳鳴りを自覚する場合もあります。


Q. 滲出性中耳炎の症状を教えてください

A. 滲出性中耳炎では急性中耳炎のような強い痛みや発熱は通常ありません。主な症状は難聴耳閉感です。また、耳管が開閉する際に耳鳴り様の音がすることがあります。中耳に溜まった液体が動くため、耳の中で水が動いているような感じを覚える方もいます。これらの症状はゆっくり進行し、痛みがないため見過ごされがちです。


Q. 慢性中耳炎ではどのような症状が現れますか?

A. 慢性中耳炎では、難聴繰り返す耳だれが主な症状です。急性中耳炎と違い鼓膜に穴が開いた状態が続くため、中耳に膿が溜まっていても激しい耳の痛みはあまり生じません。その代わり、じわじわと聞こえが悪くなり、耳鳴りや軽い耳の詰まり感を伴うことがあります。耳だれは悪臭を伴う膿性のことも多く、いったん治まっても風邪をひいたり水が入ったりすると再び出てくるといった具合によくなったり悪くなったりを繰り返すのが特徴です。


Q. 真珠種性中耳炎の症状を教えてください

A. 真珠腫性中耳炎では、慢性中耳炎と同様に臭いのある耳だれ難聴が現れます。初期には症状が軽微なこともありますが、真珠腫が徐々に大きくなると中耳の骨を破壊していくため聞こえがどんどん悪くなるのが特徴です。感染を伴っている場合は耳の痛みも慢性的に続くことがあります。さらに病変が進展すると、周囲の重要な神経や器官に影響を及ぼします。重篤なケースでは真珠腫が脳にまで進展し、髄膜炎脳膿瘍といった生命に関わる合併症を引き起こすことさえあります。真珠腫性中耳炎は症状が進行するにつれてリスクが高まるとても厄介な病気です。


大人の中耳炎の治療法と注意点

薬

Q. 中耳炎を治療せずに放置するとどうなりますか?

A. 中耳炎を放置することは大変危険です。

まず急性中耳炎を放置すると、症状が悪化して鼓膜が自然に破れる可能性があります。鼓膜に穴が開いたまま放っておくと、その穴が閉じにくくなりに移行することがあります。慢性中耳炎に進むと耳だれを繰り返し、聴力がどんどん低下してしまいます。また急性中耳炎の段階で治療せずにいると、中耳の炎症が内耳に波及して内耳炎を起こすことがあります。内耳炎になると激しいめまいや難聴が起こり、早期に適切な治療をしなければ後遺症として難聴や耳鳴りが残る恐れがあります。


滲出性中耳炎を痛みがないからと放置するケースもありますが、それも危険です。滲出性中耳炎を放置するということは中耳に液体が溜まりっぱなしになるということであり、その状態が長引くと中耳炎が慢性化してしまいます。結果として真菌(カビ)や細菌が増殖しやすくなり、真珠腫性中耳炎に進展するリスクが高まります。


慢性中耳炎や真珠腫性中耳炎を治療しないままでいると、難聴が進むだけでなく、真珠腫の場合は周囲の骨を破壊して症状がどんどん重くなります。真珠腫性中耳炎では放置により顔面麻痺や脳への感染(髄膜炎・脳膿瘍)など命に関わる合併症を引き起こすケースすらあります。


痛みがない場合でも、中耳炎の疑いがある症状が続くときは絶対に放置せず耳鼻咽喉科を受診し、適切な治療を受けましょう。

 

Q. 中耳炎の種類別に治療法を教えてください

A. 急性中耳炎では基本的に保存的療法(薬物治療)で改善を図ります。軽症の場合は痛み止めなどで症状を和らげながら経過を見ることもあります。多くの場合は抗菌薬の内服が行われます。鼓膜切開術といって鼓膜に小さな切開を入れ、中の膿を出す処置を行うこともあります。鼓膜が腫れて膿が溜まっている重症例では、この処置により中耳の圧力を下げ症状の軽減を図ります。

滲出性中耳炎では原因疾患の治療が基本となります。例えばアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎があればその治療を行い、耳管の通りを改善させます。並行して、耳鼻科で定期的に耳管通気処置(耳の奥に空気を送って通りをよくする処置)を行い、中耳内の陰圧を改善して滲出液の排出を促します。これらの保存的治療で改善しない場合、鼓膜切開を行って貯留液を吸引・排出します。鼓膜切開しても再び滲出液が溜まってしまう場合は、鼓膜チューブ留置術を検討します。鼓膜チューブは耳管の代わりに中耳の換気と排液を継続する役割を果たします。


慢性中耳炎は根治には手術が必要になることが多いです。まずは耳だれがひどい場合に抗菌薬の点耳や飲み薬で感染を抑え、耳の中を清潔に保つ処置を行います。しかし鼓膜に大きな穴が残っている限り、聴力の低下が続き再感染もしやすい状態です。そのため鼓膜の穴を塞ぐ手術(鼓膜形成術)や、中耳の奥の病巣を清掃する手術(乳突洞削開術)、さらには壊れてしまった耳小骨を再建する手術(鼓室形成術)を行って、中耳の構造と機能を回復させます。


真珠腫性中耳炎は原則として手術で真珠腫を摘出する治療が必要です。初期の小さい病変であれば外来処置で経過を見ることもありますが、基本的には早期に手術を行うことが推奨されます。手術では中耳や乳突洞のなかにできた真珠腫を隅々まで取り除き、そのうえで障害された耳小骨を再建して聴力の回復も図るのが一般的です。

 

Q. 中耳炎の治療期間はどの程度ですか?

A. 中耳炎の種類によって治療機関はさまざまです。急性中耳炎の場合、痛みや発熱などの急性症状は1~3日程度で治まることが多いですが、完全に炎症がおさまり鼓膜が元どおりになるまでには3~4週間かかります。一方で、滲出性中耳炎や慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎などで手術を受けた場合、入院期間は数日から1週間程度、術後の傷や鼓膜が安定するまでに数週間~数ヶ月かかります。


Q. 中耳炎における日常生活上の注意点を教えてください

A. 中耳炎と診断されたら、治療に加えて日常生活でも次のような点に注意するとよいでしょう。

鼻のケア
鼻風邪や鼻づまりがあるときは、片方ずつ鼻をかむようにして過度な圧をかけないようにします。


耳を清潔・乾燥に保つ
耳だれが出ているときは、耳の周囲に流れ出た分泌物を清潔なガーゼでやさしく拭き取ります。


気圧の変化に注意
中耳炎の症状があるときは、飛行機の離着陸や高所・深水への移動で耳に強い痛みを感じることがあります。


生活習慣の改善
喫煙は耳管粘膜をむくませ機能を低下させるため、中耳炎を治りにくくします。


症状が軽快しても通院を続ける
中耳炎は症状がおさまっても中耳のなかに炎症が残っている場合があるため、自己判断で治ったと思って通院を中断しないようにしましょう。


以上の点に気をつけることで、中耳炎の早期回復と再発防止に役立ちます。普段から鼻・喉の健康管理をし、中耳炎になりにくい生活習慣を心がけましょう。

 


編集部まとめ

POINTと書かれた札中耳炎は子どもの病気というイメージから軽く見られがちですが、大人でも発症しうる身近な病気です。痛みや発熱などつらい症状が出るだけでなく、適切に治さないと慢性的な難聴など後遺症につながるケースも少なくありません。特に大人の中耳炎は悪化すると手術が必要になる場合もある重い病気です。発症や重症化を防ぐためには正しい知識を持って予防に努め、万一異常を感じたら早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。日頃から鼻や喉のケア、生活習慣の見直しを行い、中耳炎になりにくい健康的な生活を心がけましょう。



参考文献

病気を知る 中耳炎 (otitis media)(慶応義塾大学病院)


この記事の監修医師


林 良典 医師

監修記事一覧

名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)


リンク先はMedical DOCというサイトの記事になります。


 

Back to blog

Leave a comment