人の顔のイラスト

統合失調症の患者に“人の声”が聞こえるのはなぜか?

幻聴を生み出す脳〜日経サイエンス2026年7月号より

想像上の声が聞こえるのは統合失調症スペクトラム障害によく見られる症状だが,謎めいた現象だ。統合失調症の人の80%近くが幻聴を経験し,実際には存在しない会話などの音が聞こえる。最近の研究によって,この現象の背後にある脳のメカニズムが明らかになりつつある。

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専門家は長年,幻聴は自分の内的な思考を外界から聞こえる実際の声として知覚することから生じると考えてきた。統合失調症ではない人は,話しているときや,話す準備をしているときに,動作を計画する脳領域が,音を処理する領域である聴覚皮質の信号を抑制する。この作用が,自分の発声と外部の雑音を区別するのに寄与している。このメカニズムは健康な人がインナースピーチ(声に出さず頭のなかで自分と対話するなどの内的発話)をする際にも働いているだろうと研究者は考えてきた。これまでそれを検証するのは困難だったが,これらの脳領域間の活動の機能不全が幻聴につながっている可能性がある。

Schizophrenia Bulletin誌に掲載された最近の研究は,統合失調症ではない成人で内的発話が実際に脳の聴覚皮質を抑制していることを実証した。これに対し,幻聴の経験がある統合失調症患者では,内的発話が聴覚皮質の反応を強めていることがわかった。

 

内的発話と聴覚皮質の活動

「内的発話を調べるのが難しいのは,それが本質的にプライベートなものだからだ」と,豪ニューサウスウェールズ大学の認知神経科学者で,今回の研究論文の共同主著者となったウィットフォード(Thomas Whitford)はいう。この内的発話を傍受するため,彼らは脳波計を用いて人々の脳活動を測定した。

被験者となったのは,統合失調症スペクトラム障害で何かの声が聞こえる人と,過去に経験はあっても現在は幻聴がない患者,そして統合失調症ではなくそのような症状のない人だ。研究チームは被験者に対し,「バー」や「ビー」といった特定の音節を,実際に口を動かすのではなく発音することを単に想像するよう指示した。この内的発話と同時に,被験者のヘッドホンから,発声を想像するように指示された音節と一致する音か,一致しない音のいずれかを流して聞かせた。対照条件として,被験者が何の発音も想像せず,ヘッドホンからの音を聞くだけの場合も測定した。

この結果,統合失調症ではない成人の場合,音を聞きながら内的発話をした際には,何の発声も想像せずに聞いただけのときと比較して,聴覚皮質の反応が抑制された。この効果は,聞いた音と発声を想像した音が一致したときに最も強く表れた。しかし,幻聴のある統合失調症の被験者では逆の効果が生じた。(続く)

続きは現在発売中の2026年7月号誌面でどうぞ。

 

記事のポイント!

統合失調症の患者に、実際には存在しない人の声が聞こえるのはなぜなのか。この記事では、頭の中で自分と対話するような「内的発話」と、音を処理する聴覚皮質の働きに注目し、幻聴が生じる脳のメカニズムに迫っています。通常は内的発話によって聴覚皮質の反応が抑えられる一方、幻聴のある人では逆に反応が強まる可能性が示されており、「聞こえる」という体験の複雑さを考えるきっかけになります。

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聞こえに不安がある場合は、早めに耳鼻咽喉科への相談をおすすめします。 


原文掲載元はこちら 

 https://www.nikkei-science.com/?p=79558

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