横山耕太郎[編集部]
Mar 5, 2025, 6:15 AM

マイナビパートナーズの守屋優さん(左)と、リクルート人事統括室の小田麓さん。
撮影:横山耕太郎
2026年春に大学を卒業する大学生の就職内定率が、2月の段階で約4割に達するなど、就活生有利の売り手市場が続く新卒採用。
一方で、障がいのある学生の就活では大きなハードルがある。
日本学生支援機構の2023年度の調査によると、大学や短期大学に通う障がいのある学生らの2022年度の卒業者数は約8007人だったが、そのうち「就職者」は4702人と58%にとどまっている。
企業におけるDEIの重要性が指摘されている現在、障害者手帳を持っている大学生の就活をサポートしようと、企業側も動き出している。マイナビグループとリクルートの取り組みを取材した。
有償のインターン、27人の学生が参加

マイナビの特例子会社で、事務業務の代行や障がい者の職業斡旋を手掛ける「マイナビパートナーズ」では、2024年2月から障がいのある大学生向けの1年間のインターンシップを開催している。
同社によると、障がいのある学生を対象にした長期のインターンシップは、ほとんど例がないという。
このインターンシップでは給与が支払われ、参加には週に10時間以上シフト勤務することが条件になる。インターン生には正社員と同じパソコンを貸与し、データ入力やウェブサイトの管理、アンケート集計などの業務を任せている。
インターンシップ参加者の障がいの種類や程度は様々で、現在は参加者27人のうち、精神障がいのある学生17人、身体障がいのある学生10人を採用している。
同社によると、障害者手帳を持っている学生の就活では、企業の障がい者雇用の枠で受けるケースだけではなく、一般枠の採用を選んだり、それら両方の選考を同時に受けたりする例も少なくないという。
都内の私立大学に通うインターン生は、うつ病の通院を続けながら大学生活とインターンを両立させている。
”「障がいがありながら社員として働いている方の話を聞けるのはキャリアを考えるうえで参考になる。障がい者枠と一般枠の両方で就活をしようと思っているが、視野が広がった」”
「障がいを受け止めるのは簡単ではない」

マイナビパートナーズのインターンに参加した学生。車椅子で通勤している。
守屋さん(左)から指導を受けるマイナビパートナーズ・インターンの参加学生。車椅子で通勤している。
撮影:横山耕太郎
”「障がいのある学生の場合、一般的な大学生のようにインターンで学びながら会社を選ぶという選択肢が極端に少ない。
なかには就職するための教育を受けるため、有料の塾に通う学生もいるのが現状です」 ”
長期インターンを開催した狙いについて、マイナビパートナーズDEIソリューション事業部・事業部長の守屋優さんは、就活の現状についてそう語る。
守屋さんは長期インターンを通じて、「自身の障がいを理解し、セルフケアができるようになる力」を学生に身に付けてほしいという。
一言で障がいと言っても、程度や種類、障がいが目に見えるかどうかで、会社で働く場合に必要な「合理的配慮」は変わってくる。
例えば大学に入学したものの、入学後に発達障がいの診断を受けるなど成長してから障がいが発覚し、障害者手帳を大学生になってから取得するケースも珍しくないという。
”「自身の障がいを客観的に受けとめることは簡単ではありません。障がいについてオープンにすることで、不利な扱いを受けるのではないかと偏見を持っている学生も多く、インターンの参加者でも、最初に『配慮はいりません』と言ってしまう学生もいます」 ”
障がいを隠したまま入社したことで、結果的に早期離職につながることもある。
”「職場に対して『マルチタスクが苦手だ』とか『音声情報を覚えるのが苦手なのでメモを取らせてほしい』など、それぞれの障がいに応じた配慮を求めることが、自分の身を守り活躍することにつながります。そのための準備をインターンの期間で身につけてほしいです。
インターンではまず社会人の基本となるような、マナーや言葉遣いなどから始めています」(守屋さん) ”
障がい者雇用と言えば、形式的に法定の雇用率を満たせばいいと思われがちだ。
しかし守屋さんは「ただ数字だけの問題ではない。障がい者雇用のメリットは企業全体の組織的な能力が向上することに直結する点にある。多様な人材がイノベーションにつながる」と強調する。
現在、同社の長期インターンシップでは、秘密保持のため出社を前提としていることから、出社が困難な学生を受け入れることは難しい。
今後はフルリモートでの勤務も可能にすることで、より広い学生にインターンに参加してもらえる体制にしたいという。
若手リクルート社員がイベントを企画

小田麓さんの写真。
2023年にリクルートに新卒入社した人事統括室の小田麓さん
撮影:横山耕太郎
2024年11月下旬、東京駅八重洲口のリクルート本社の一室には、大学生9人が集まり「大学生が旅行計画を立てる際の課題をどう解決するか」をテーマに、熱心に議論していた。
これはリクルートが2023年から実施した障がいを持つ学生を対象にしたキャリア形成支援のためのイベント「障がいのある学生・配慮が必要な学生対象 事業立案プログラム」 の一幕だ。
リクルートグループには、障がい者を多く雇用している特例子会社も3社あるが、今回のイベントを開催したのは人材・販促事業などを手掛けるリクルートだ。
リクルートはこれまで障がいの有無に関わらず採用活動を実施してきたが、障がいのある学生のキャリア支援についても明確にアピールするため、2023年から同イベントを開始し、これまでに3回開催した。
障がいを持つ学生向けのイベントを企画したのは、2023年にリクルートに新卒入社した人事統括室の小田麓(おだ・ふもと)さん。
小田さんは聴覚障がいを持っており、社内外でのコミュニケーションには、タブレットを使った文字起こしを使っている。
小田さんは学生時代の就活で、障がい者を対象にした枠と、健常者と同じ枠の両方で就活してきた経験を持つ。
”「私が就活していた当時から、障がい者向けのインターンではワーク式のイベントは少なく、その会社で働くイメージが持てない内容が多かったと感じます」 ”
小田さんは学生時代、学生団体のメンバーとしてハードワークをこなしていたが、いざ就職活動を始めてみると、障がい者枠で入社した場合には「限定的な業務しか期待されていない」と感じる企業もあったという。
”「障がいのある仲間のなかには、自分のやりたいことよりも、周りからのアドバイスを重視して就職先を決める人もいました。本当に自分に合ったキャリアを選べるよう、障がい者雇用枠に限らず、多様な選択肢を知ってほしい」 ”
こうした課題を受け、障がいのある学生を対象にした実践型のイベントを企画したという。
「必要な配慮は遠慮なく伝えてほしい」

障がいのある学生を対象にしたイベントの写真。
学生を対象にしたキャリアイベントの様子。
撮影:横山耕太郎
”「配慮を会社にお願いするのには不安がある」
「リモート勤務を選択した場合に不利にならないのか」
「一般枠で就活した場合、本当に障がいに関わらずにキャリアを形成できるのか」──。 ”
イベントに参加した学生からは、こんな声が聞かれたという。
小田さんは参加した学生たちには、「必要な配慮は遠慮なく伝えてほしい」と伝えているという。
”「僕の例ですが周囲がうるさいとうまく音声認識ができません。リクルートでは『どうすれば解決できるのか一緒に考えよう』と言ってくれる風土がありました」 ”
またリクルートに関しては、「目標達成の度合いで評価されるので、同じ等級・評価であれば、報酬の面でも障がいの有無で差を感じることはない」と話す。
ただ、リクルートで障がいのある社員はまだまだ少ないのが現実だ(リクルートは単体での障がい者雇用率は公開していない)。
小田さんは現在、リクルートグループの人事制度に関わる仕事をしており、これからも障がいのある社員にとっても、働きがいのある環境づくりを進めていきたいと意気込む。
”「リクルートの社員は約2万人。障がいに関わらず100%の力を出せる会社にしていきたい 」 ”
障がい者の法定雇用率は、2024年4月に2.3%から2.5%に引き上げられ、さらに2026年からは2.7%に上がる。
企業として新卒を含め、障がい者雇用とどう向き合っていくのか。数字だけでなく、その本質の姿勢が問われている。
リンク先はBUSINESS INSIDERというサイトの記事になります。
