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音を見える化・体感できる社会に ~放送アクセシビリティーの現在地~ #728

記事のポイント! 

聴覚障害や難聴のある人は、テレビの字幕放送や手話放送だけでなく、補聴器とのBluetooth接続やスマートフォンの音声認識機能などを活用して情報を得ています。記事では、火災警報や来客を光・振動で知らせる技術、手話によるコミュニケーションに配慮した「デフスペース」、ホテルでの避難情報の課題なども紹介。25人への調査を通じて、聞こえ方や情報の受け取り方の多様性と、個人の工夫に頼らない情報保障の重要性を伝えています。

 

2026年10月07日 (水)
メディア研究部(番組・メディア史)難波 徹

音を見える化・体感できる社会に

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2025年度から、きこえない・きこえにくい人のテレビ視聴を中心とした、放送アクセシビリティー[1]に関する調査・研究を進めてきました。その研究をまとめた論考は、『放送研究と調査10月号』に掲載され、文研サイトでも公開されています[2]。

令和4年度の厚生労働省の調査によると、聴覚障害で身体障害者手帳を取得している人は推計で約31万人います[3]。一方で、あえて手帳を申請していない人や中途失聴、加齢による難聴の人もいます。現在、難聴の患者は約1,430万人(国民全体の約10%)いると言われています[4]。原因はさまざまで、年齢などにかかわらず誰もがなる可能性があります。今回の調査では、全国3地点(首都圏・宮城県・熊本県)で、30・50・70代の25人に、1人2時間の対面による個別インタビューを実施しました。

テレビ放送における情報保障については、字幕放送や手話放送など50年以上にわたる取り組みが続けられてきました[5]。しかし調査では、きこえない・きこえにくい視聴者は工夫を重ねながらテレビから情報を得ていました。論考本編では、こうした調査結果から見えてきたテレビ視聴の実情について詳しく紹介しています。今回は調査の中で印象に残った、暮らしの中で取り組んでいる工夫について紹介したいと思います。

 

■テレビ視聴を支えるさまざまな工夫

調査では、字幕放送や手話放送だけでは十分に情報にアクセスできないことから、テレビ視聴時における工夫が数多く語られました。

●テレビの音声をBluetoothで補聴器やスピーカーに接続し聞き取りやすくする
●スマートフォンの音声認識アプリを利用して、生放送の内容を文字で確認する
●知らない日本語、読めない漢字をスマートフォンで検索しながら視聴する
●内容がわからなかったポイントはメモして視聴後に検索して調べる
しかし、よく考えてみると、こうした対応はテレビ視聴時だけに限りません。きこえない・きこえにくい人たちは、日常生活のさまざまな場面で、音を光や文字、振動に置き換えながら暮らしています。では、日々の暮らしの中ではどのような工夫が行われているのでしょうか。いくつか紹介します。

 

■音を振動や通知で伝えるスマートフォン機能

来客を知らせる玄関のインターホンの音だけでは訪問に気付きづらい場合があります。そのため、インターホンと連動させて部屋のライトが点滅したり、受信機が振動したりする機器が利用されています。こうした情報はスマートフォンやスマートウォッチで通知を受け取ることもできます。

最近では、AIによる音認識技術の進歩によって、周囲の音を検知し、ユーザーに知らせる機能がスマートフォンにも搭載されるようになってきました。例えば、Androidには「音の通知(Sound Notifications)」機能[6]、iPhoneには「サウンド認識」機能[7]があり、火災警報器やサイレン、ドアベル、赤ちゃんの泣き声などを検知して、振動や画面表示で知らせることができます。

注目したいのは、こうした機能が特別な福祉機器ではなく、多くの人が日常的に利用しているスマートフォンに標準機能として搭載されていることです。かつては専用機器が担っていた「音を別の形で伝える仕組み」が、身近な技術として広がり始めています。アクセシビリティーが特別なものではなく、誰もが利用できる機能として社会に浸透しつつあると言えます。

 

■住まいの工夫から生まれた「デフスペース」という考え方

きこえない・きこえにくい人が暮らしやすい環境を考える中で、「デフスペース」と呼ばれる建築デザインの考え方があります。これは、ろう者や難聴者を中心とした学生が学ぶアメリカのギャローデット大学で研究が進められてきたものです。 例えば、壁や仕切りを少なくして人の気配を感じ取りやすくしたり、相手の表情や手話を見やすいように通路や共有スペースに十分な幅を確保したりするなど、視覚を生かしたコミュニケーションがしやすい空間づくりを目指しています。デフスペースは、手話によるコミュニケーションや視覚的な情報取得を重視した空間づくりが特徴です。

●周囲の状況や人の存在を把握しやすい「視覚的な認知範囲」を確保すること
●手話でコミュニケーションしやすい「対人距離と位置関係」に配慮すること
●表情や手の動きが見やすいように「目に優しい光と色彩」を取り入れること
●音だけでなく振動も含めた「音響・振動の環境」に配慮すること
以上のようなポイントが挙げられています[8]。デフスペースは、音による情報に頼ることが難しい場合でも、空間のつくり方を工夫することで、周囲の状況を把握したり、人とコミュニケーションを取りやすくしたりします。住まいだけでなく、学校や職場、公共施設など、さまざまな場面で参考になる取り組みとして注目されています。

 

■ホテルでの避難情報をどう受け取るか

今回の調査で特に印象に残ったエピソードのひとつです。ホテルに宿泊する際、ドアを少しだけ開けて寝ているという方がいました。理由は火災などの緊急事態への対応です。火災報知器や館内放送の音に気付かないだけでなく、避難を呼びかけるために誰かがドアをノックしても気付かない可能性があるからです。緊急時には直接部屋に入って避難誘導をしてほしいと事前にホテルへ伝えたうえで、こうした対応をとる場合があると言います。

一方で、最近ではドアの振動やノックを検知し、スマートフォンへの通知や振動で知らせる機器も登場しています。また、一部のホテルでは、きこえない・きこえにくい人向けに、来客や火災警報を光や振動で知らせるアクセシブルルームやユニバーサルルームを用意しています。客室にはフラッシュライトや振動式通知機器のほか、火災や避難情報、来客などを文字で伝える表示装置が備えられている場合もあります。ただし、こうした設備を利用できるホテルは、まだ限られています。

 

■誰もが情報にアクセスできる社会に向けて

今回の調査を通じて感じたのは、「きこえない・きこえにくい人たちは、さまざまな取り組みを重ねながら暮らしている」ということです。そして同時に、社会の側も音を光や文字、振動へと変換する仕組みを少しずつ広げています。それでも、暮らしの中の多くの場面が、まだ当事者自身の工夫によって支えられているのが現状です。しかし本来は、個人の努力や工夫に依存しなくても必要な情報にアクセスできる社会であることが望ましいはずです。放送アクセシビリティーも、その延長線上にあります。字幕放送や手話放送は単なる「サービスの追加」ではありません。誰もが必要な情報を得られるようにするための重要な取り組みです。

10月号に掲載した今回の調査では、字幕放送や手話放送を中心に、昔と比べて手厚くなった情報保障のポイント、テレビ視聴時のデバイス利用(テレビ・スマートフォン・タブレットなど)、現在も残るテレビからの情報取得の課題について当事者の方に話を伺いました 。調査を進める中で見えてきたのは、きこえない・きこえにくい人たちの状況は多様で 、第一言語[9](手話、あるいは日本語)や年代、育った環境によって情報の受け取り方が大きく異なるということです。今回の論考では、こうした視点から字幕放送、手話放送を中心に「放送アクセシビリティーの現在地」について詳しく紹介しています。

 

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聞こえに不安がある場合は、早めに耳鼻咽喉科への相談をおすすめします。


原文掲載元はこちら

 https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/100/675704.html

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